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第一章 王国編第二部(中等部)

エピソード132 落ち着けって

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――四月某日 学院内のサロンの一室にて――

「結局ジェイミーは来なかったんだね」

「お兄様、ジェイミーったらずっと機嫌悪くて、お兄様からも言ってください」

「ジェイミーのそう言うところがまだまだテリー様に及ばないところなのよ」

「ははは、ルーシーとエルザさんはジェイミーに厳しいなぁ」
 
「まあ良いじゃないか。本日の目的はクライヴ君との親交だろテリー。クライヴ君もソファーに座って今日は寛いでくれ」

 今目の前で、ジェイミー様抜きでテリー様とルーシー様とエルザさまとアーサー殿下が話をしている。
 それを静観するアリア様…………
 オレは場違い感を感じながら愛想笑いを絶やさずにただ頷くだけだった。

「そう言えばテリーから聞いたのだが、シェリダン子爵領の繁栄に一役買っていたらしいな。小さい子どもがどのような事をしていたのか聞かせてくれないか?」

 アーサー殿下は正面のソファーに座ったまま興味深い目で、オレの顔を見ていた。

(いや、たいした事してないぞ……入学金稼ぎをオレのような子どもでできることを探していただけなんだけどなぁ…………)

「えっとですね……一年間で入学金の小金貨二枚を貯めないといけないのですが、地方での平民の収入では節約して生活費を切り詰めても一年間では到底小金貨二枚を貯めるのは無理でして……町の神父様真面目な頃のに相談しました。
 まずは井戸水の水汲み配達でお金を稼いでいました。内容は水汲みの時間が面倒で誰かにお願いしたい人が前日までに教会に来て神父様に依頼する。そして、依頼者全員の名前と家の特徴や場所を記載した配達リストを神父様が作り、当日ぼくが井戸の水を運んで家の表に置かれた水瓶を満タンにしていました。代金の支払いは教会で預かってもらいました。そんな小さな事から始めまして……それからは井戸水から魔道具無しで飲める水に変える道具を作りました。
 その水の販売や、井戸水配達も件数が増えるとぼくだけでは無理なので、力自慢の少年達を雇って分担して配達を行なっていました。
 後は徐々に観光地として賑わうようになり、井戸水の配達や、水の販売、採取や害獣駆除等の様々な依頼に対応した冒険者協会のようなものを町の教会に作ってもらい、教会に依頼窓口と職員を雇うことにしました。そして水汲み配達の依頼料の半分を依頼窓口係の職員さんの給料に捻出してもらいました。
 ちなみに配達員の子ども達は全員で八名おり、一日四十件程度の配達をしてもらいまして、他の依頼等は冒険者や力を持て余した町の力自慢が受けてもらいました。
 こちらも依頼料達成料金の二割を教会に支払う仕組みにし、教会修繕費や依頼窓口係の給料に反映してもらう事で今までシェリダン子爵の町には無かった冒険者協会のようなシステムを作り、より安全な場所かつ働くことに困らない町として発展していったのではないでしょうか?
 勿論シェリダン様の観光業へと方針を変えた手腕によるものが大きいですが……」

 オレが話し終えると先程は食い入るように聞いていたアーサー殿下やテリー様が神妙な顔つきで考え込んでいた。

「クライヴ、少しいいかな? その仕事や仕組みは君が一人で考えたのかい?」

 テリー様が真顔で質問をしてきたので、正直ビビりながら質問に答えた。

「はい…………厳密には祖父や神父様にも協力してもらっていますが、ぼくが考えていた事を修正していただきました」

「なっ! 九歳の子どもがか? テリーの言った通りの不思議な少年だなぁ……【シェリダンの雫】は私も飲んだ事があるが……まろやかな口当たりに鼻に抜ける爽やかさは心を洗われるようで、まさに南シェリダンの山々を思い浮かべたよ…………まさかクライヴ君が作っていたとは…………」

(アーサー殿下……あなたは某飲料水メーカーの回し者ですか? ヒューゴとほぼ同じ事言ってますよ)

「私もクライヴ君に聞きたい事があるのですが、あの【シェリダンの雫】は最初から作り方を知ってらっしゃったのですか? それとも誰かから知恵を授かって作られたのですか?」

 アリア様は本当に不思議そうに
顔をしてオレの聞かれたくないところを的確に突っ込んできた。
 あまり考え込むと怪しまれるので、一呼吸程おいて質問に答えた。

「…………はい。知っていたと言うか、書物で読んだ事がありましたので」

「ほぅ……私が知らない事があるとは……その書物をぜひ拝見したい」

 アーサー殿下が食いつくが、事情を知るテリー様がオレを守ってくれた。

「アーサー。君が言うとクライヴは断れないじゃないか。以前聞いたが、亡くなったお母様の大切な書物なんだろう。そんな大事なものを借りるのはどうかと思うよ」

 テリー様の切り返しで誰もそれ以上突っ込むことは無かった。

(流石テリー様! 頼りになります)

 そうして、学院生活やこれからの行事について等を先輩方から聞いたり、オレのハッピースマイルポテイトンの宣伝をしたりと時間は過ぎていった。
 
「それでは私はここで失礼するよ。テリー、女子達をお送りしてくれ」

 アーサー殿下はそう言って先に退出した。忙しい中時間を作ってくださったのだろう。
 そしてテリー様は女性陣を寮まで案内する事となり、オレに鍵を預けて職員室に返しに行くようとお願いされた。

 一時間半は経ったのだろうか、時刻は十七時を回ろうとしていた。
 オレは職員室に鍵を返して、学生寮に帰ろうと校舎のエントランスまで歩いていると前方から二人の人影が現れた。

「ん? あぁカーンじゃないか。それと…………」

 カーン達はオレの挨拶を無視してニヤニヤと近づいてくる。

「おい、どうしたん――ぐふぁっ」

 いきなりカーンといた男子生徒がオレにボディブローをかましてきた……
 突然過ぎて防御もせずにモロにくらい息が苦しい……それに痛い

「な、な……なんで……だよ」

 オレは膝から崩れそうになるのを、何とか踏ん張り、カーン達に質問した。

「お前がムカつくからだよ」

 カーンはオレを羽交い締めし、もう一人の男子生徒がオレをサンドバックのように殴ってくる。しかもケガが見えないボディ周辺を殴る悪質さだ。

「……んぐぅっ!」
「ぐぁ!」
「がぁっ!」

 しばらく殴られ続けて、やっとカーンに解放された…………

「やめてくれ、お、落ち着けよ……な、何かオレがしたのか?」

 オレは原因が分からずカーンに聞いたが返ってきた言葉は理解できなかった。

「今日の事を誰にも言うんじゃねぇーぞ! オレ達の後ろには偉い人がついているんだからな!」
 
 そしてオレは痛みで倒れてしばらく動けそうになかった…………
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