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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード? アリアサイド 後編そのニ

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 私は昼過ぎに家に到着し、直ぐに自室へ向かおうと思ったが、お母様が出迎えてくれた……

「お帰りなさいアリア。今日も楽しい事があったのかしら?」
 
 今日の出来事と言えばフライドポテトが美味しかった事、フィーネという友達が出来た事、武器が完成した事だった。
 その為、充実した表情をしているのだろう。
  
(フィーネとガールズトークも楽しかったわね)

「お母様、実は私友達が出来ました。その、平民の子ですが、凄く話しやすくて面白い子で、それに」
 
 お母様は私の話を聞いていく内に笑顔が広がり、抱きしめられた。

「お母様?」

「良かったわねアリア。怖い思いをさせてから、あなたの素敵な笑顔が無くなって心配だったの…… 王都に来てからは少しずつ以前のような笑顔が増えたわね……それだけで……私は……嬉しいのよ」

 お母様は涙ぐんでいた。

(こんなにも愛されて育って……この暖かい家庭をずっと守っていきたいわ)

「お母様、そいうえばアランお兄様は今日のお昼にはお戻りになると聞いていたのですが…………」

 現在、お兄様は三日前から護衛を二十名引き連れてサンダース辺境伯領の街に視察に行っている。
 どうやら次期当主としての見聞を広める為らしく、今朝戻ってくる予定になっていたが、まだ戻って来ていないらしい。

(少し予定がズレて遅れているのかしら? 何事もなければ良いんだけど……)

……一時間経過

…………二時間経過

(おかしいわ! こんなに遅くなるなんて、何かトラブルに巻き込まれたのかしら……しかし護衛達はを二十名付けてのトラブルなんてあるのかしら?)

 そして十五時を過ぎても何も連絡が無かった……
 お母様が立ち上がり、執事のセバスや使用人、護衛達を集合させた。

「セバス! アーロンに連絡を! 護衛達は王国騎士団に何か連絡が来てないか確認を! 使用人達は大通り周辺で何か噂がないか聞き込みをして!」

 流石のお母様もお兄様に何か異変があったと考えたらしい。執事のセバスも慌てて王城に向かっていった。

「お母様、私は……」

「アリア、私はアランの身に何かあったのか……少し不安になっているの……だからアリアが側に居てくれるだけで心が休まるの」

 そう言って、優しくてお母様に包まれた。

(こんな殺し文句を言われたらお兄様の助けに行けないわ……)

 私はお母様の腕の中で悔しさを噛み締めていた……

 その後、最悪な事態が起こった…………

 戻ってきた護衛から、正門の衛兵の元に、かなり若い冒険者が駆けつけて馬車がオーク達に襲われて壊滅寸前なので救援要請をしていたとの事だった。
 その馬車はウィンゲート侯爵家の家紋入りの馬車で、お兄様が乗っている馬車だった…………

 それを聞いた父上が直ぐに王国騎士団達へ指示を出し、小隊を直ぐに救援に向かわせた。
 そして侯爵家御子息の危機の為、衛兵達もかなり若い冒険者とともに救援に行ったらしい。

(お兄様無事でいて下さい……こんな時に動けない自分が腹立たしいわ!)

 刻一刻と時間が進む中、お母様と一緒に吉報を信じて待ち続けた…………


 すると、祈りが通じたのか騎士達と一緒に身体中汚れたお兄様と使用人が無事に帰って来た。
 お兄様はお母様と私の元に駆け寄り大声をだして泣いていた。

 しばらくするとお父様も帰ってきて、お兄様に何があったかを確認していた。
 どうやら若い冒険者二名にお兄様や使用人や護衛も含めて助けてもらったとの事だった。

「なるほど……セバス! ウィンゲート家当主としてその二名に招待状を送ってくれないか」

(お兄様や護衛を助ける事が出来る若い冒険者……一体どんな人なんだろう………………)

 私はそんな事を考えながら、家族みんなで夕食を食べていた時……突然メイドが慌てたように扉を開いた。

 その後セバスがメイドの後ろから歩いてきて、お父様に何か耳打ちをした。その時のお父様の口元は少し笑みを浮かべていた……

 私は夕食後の湯浴みを済ませて、メイド達がネグリジェのような長いワンピースを着せてくれようとした時に、一人のメイドが突然の来客者がきている事を知らせてくれた。
 来客者はお兄様の命を救った冒険者らしい。

(こんな時間に? 何を考えてるの?)

 メイドからは、冒険者は大怪我を負ったようで、護衛がお父様に助けて欲しいと直訴をして現在応接室で家族が対応していると聞かされた。

「ごめんなさい。ドレスを持ってきてくれないかしら?」

 私は急いでメイドに水色のドレスに着替えさせてもらい、はやる気持ちを抑えながら冒険者を一目見ようと応接室の扉をノックした。

 中からお父様の入室を促す声が聞こえたので、私は扉を開けた……

(えっ? 私ぐらいの歳のこんな男の子が冒険者なの?)

「あぁ、クライヴ君と同じ歳の娘を紹介するよ」 

(クライヴ……フィーナが好きな男の子の名前)

 私は内心動揺しつつ笑顔でカテーシをした。

「ウィンゲート侯爵家長女のアリアと申します。クライヴ様、本日は兄の命を救っていただきありがとうございました」

「あの、その、私は平民ですので、クライヴとお申し付け下さいアリア様」

(何故このような少年がオークと立ち向かいお兄様達を助ける事が出来たのか? そしてこの時間に我が家に訪問する目的は? 確かに腕を骨折しているようだが、明日じゃいけない理由があるのかしら? 少しこのクライヴって子が気になるわね?)

 そう考えていると、クライヴ君も何か考えているようで、私達はお互い視線に気づくと笑顔に戻った。

 どうやら、お父さまがゲストルームを用意して治療中のクライヴ君が滞在する事となっていた。
 今から護衛のザックさんと軽食する予定だそうだ。
 
(本当に治療だけなのか他の目的がないか少し聞き出そうかしら……)

「お父様、私も少しクライヴ様と歓談してもよろしいでしょうか? 私の知らない話がとても興味深くて……お兄様を助けた話等も聞いてみたいです」

 お兄様も私の提案に乗ってきた。

(お兄様はさておき、ザックさんが居るから余計な事は出来ないわよ。さっきから緊張しているようね)

 クライヴ君は色々な話をしてくれるが、私はそのテーブルマナーに違和感を生じた……
 会話に夢中になった際に上級貴族の所作、品の良さが随所に見られる…………何故平民が?

 そして食事も終わり私達はそれぞれの寝室に戻った。

(やはり怪しいわ。平民を偽っている可能性もあるわね。明日も注意して様子を見ないと)
 

 そして次の日、朝食を終えてすぐにクライヴ君の部屋に向かった。メイドが出入りをして扉が空いていたので私は気配を殺して近づいて、後ろからクライヴくんが書いている手紙を覗き見した。

【多分フィーネが心配しているので侯爵家に侵入するのだけは止めろと伝えてください】

(どういう事? フィーネと繋がっている? この厳重な警備が敷かれた我が家に侵入する? 目的は何?)

「綺麗な字ですね。それに最後の一文はどういう意味でしょうか?」

「学院で勉強したので字が書けるようになりました。最後の一文は仲間で早とちりする奴がいてバカなんで何するか分からないんです」

(そんな訳ないわ! この字は幼少期から英才教育を受けている上級貴族並の字よ! はぐらかそうとしてるわね! お父様の敵対するする派閥の者?)

 そこで、私は確信を得る為に一緒に勉強する事を提案して逃げ道を塞いだ。

(一週間後の家庭教師の授業が楽しみだわ)

 
 家庭教師の先生には私達が勉強している中等部後期のレベルのテストをお願いした。

 そして私はクライヴ君に言葉の罠を張った。

「普段学院で習っているのとあまり変わり無いですけど……頑張ってください」

……………………………………………………

「それでは皆さんの採点をしますね」

「アラン様八十二点」

「アリア様百点」

(この程度なら前の世界に比べると簡単過ぎて満点でも特に喜びは感じない)

「最後にクライヴ君ね………………」

「……七十一点だわ……」 

 先生は驚いた表情をしているが、クライヴ君の表情の変化はない。

 そしてその後、先生から中等部後期の問題で貴族でも五十点取れるのが二割と聞いてクライヴ君は驚いていた。
 クライヴくんは母に勉強を教えてもらったと言っているが目が泳いでいる。

(確定ね。テーブルマナーといい、書字といい、この学力。彼は平民じゃないわ。どこの派閥なのか……調べないと……しかしどうしてこんなにバレるような真似を……もう少し探ってみましょうか)

「まぁ。クライヴさんのお母様は博識な方なのですね! お母様はどのようなお仕事をなさってたのですか?」

「アリア止めないか、クライヴが困っているだろう! どうしてお前はそんなにクライヴの事が気になるんだ」

(そんなお兄様に怒られた…………)

 私の精神年齢はこの世界に融合しているのだろう。お兄様に怒られただけで辛くて涙ぐんでしまった。

 そして、クライヴ君は理由をつけてこの場から去っていった。

「一体どうしたんだいアリア。いつものアリアらしくないぞ」

 お兄様はとても心配してそうに私を見つめていた。

「ごめんなさい。お兄様を救った方がとても勉学が出来る方で驚きまして……」

 そして私は家庭教師の授業が終わってからクライヴ君を探していたら、護衛のザックさんと手合わせを行なっていた。

(右手しか使えないから細剣でのヒットアンドアウェイね。それにしてもあの剣術は一体どこの流派なのかしら? 王国内の割と有名な流派はリサーチ済みだけど……あの年頃の平民がしっかりと剣術を習うかしら……そして先程のザックさんの剣を受け流す動き! やはり只者ではないようね)

 手合わせが終わりザックさん勝利で決着がついた。
 そして、クライヴ君が屋敷の二階の窓から覗いていた私と視線が合わさった。

(気付かれた! こちらを見ているわ……あまり動き回るのは彼に警戒されるわね。早いところウィンゲート家の何を探ろうとしているのか尻尾を掴まないと!)

 そして私は窓から離れて自室に急いだ。
 廊下ですれ違うメイド達は、私の焦った顔を見て何かあったのかと呼び止めてきた。

「アリアお嬢様! どうされましたか!」

「今から自室に篭りますので、誰も通さないで下さい」
 私の強い口調に驚きながらもメイド達は頷いた。

(最悪の事態は手紙にも書いてあった我が家への侵入もしくは襲撃ね。念の為に私も準備をして、明日はクライヴ君に近づいて調べよう)

 そう誓い、私は武器を一つ一つ確認して、特注ベルトに留めていった…………
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