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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード? アリアサイド 前編

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「ハァー」

(やっぱりこうなるわね)

「アリア……ごめんなさいね私達がしっかり守ってあげれなくて、怖かったのね」

「我が娘を危険に晒した護衛には辞めてもらうよ」

 父様と母様の表情は厳しく、護衛達の顔色は青ざめていた。
 現在私達はウィンゲート侯爵領、すなわち私のお父様が領主を務めている領土に来ていた。
 
(もう少しでウィンゲート邸に到着だわ。とりあえずこの世界は中世ヨーロッパに似た文明なのかしら)

 そう、私は死んだはずだった…………
 朦朧する意識のに中で弾丸が身体を貫いた衝撃や痛みがあったはずだ…………だが気づけば私は生きていた……
 しかしそれは知らない世界で八歳児として……



………………………………………………

 私は、アメリカで生まれたサラと言う女の子だったはず…………幼少期より軍人の父に厳しく育てられた。十四歳の時に父が戦死したが、その後に父の書斎より暗殺された疑惑の手紙を見つけた事をきっかけに私の心境は変化した。復讐のために。
 軍隊時の父の友人によって銃器の扱いや格闘術にを必死に身につけて、大学時代にはスパイ組織から勧誘があった。
 そして家族には事故死扱いとして私はスパイとなった。
 私はその後も、容姿や頭脳や格闘能力や持っているもの全てを活用して数々な功績を残していった。 
 富も名誉もいらない。スパイ組織の機密情報にアクセスできれば!
 父の真相の手がかりが掴めるかも知れない! 
 ただそれだけを考えて生きてきた。
 そしてスパイとなり五年目に組織の本部での授与式に呼ばれた時に、私はスパイ人生を捨てて亡命覚悟で機密情報にアクセスをした……その膨大な情報には父を暗殺したのは自分の所属する組織と言う事だった。その秘密を知った私は組織に追われる身となり……私は二十七歳の短い生涯を終えた。


……………………………………………………

「お帰りないませ!」
 
 気づけばもうお家に着いたようで、私とお父様とお母様は馬車から降りて、エントランスに向かおうとして前を向くと、使用人達が通路の両サイドでお辞儀をしており、そこには何百メートルと続くモーゼの奇跡を私は目にした。

  私は部屋に戻ると直ぐにアランお兄様が駆けつけてきた。

「アリア! 大丈夫かい! 怪我はないかい! もう心配で胸が張り裂けそうだったよ! 怖い思いをしたんだねアリア、さぁお兄さんの胸に飛び込んできてごらん」

 私の事を聞きつけて中等部から直ぐ戻ってきたのであろう。
 満面な笑顔でお兄様は喋っているが、私はそれよりもこの部屋の内装に興味を持った。

(調度品もセンスが良いわね。この世界の事を知るためには、まずは本ね)

「お兄様すみませんが、少しお父様にお話したい事がありまして、失礼します」

 私は廊下にいる使用人さんに声をかけていき、お父様を探した。どうやら領主の仕事が滞っていたようで、執務室にいるようだ。

 私は執務室の扉をノックした。

「何だね」

 中からお父様の声が出て聞こえた。

「アリアです。お忙しいと存じておりますが、お父様に少しお願いしたい事があり」

 私が喋り終わる前に執務室の扉が開き、お父様に抱きかかえられた。

「キャッ」

「珍しいね。こんな小さなお客様が来るなんて……しかし何処で覚えたんだねその言葉遣いは?」

 抱きかかえられた時は少し驚いたが、お父様は優しい笑顔を浮かべて私に話しかけた。

(家族の温もりを感じるのは何年振りかしら……もしかしたら私にもこういう人生があったのかも知れないわね)

 少し感傷的になっていたのをお父様は勘違いをして、余程の困ったお願いなのか心配された。

「お父様。家庭教師の先生や習い事も欠かさず行いますので、書庫の本を読みたいです。それと色々な植物を自分の手で育てて見たいです」

 お父様は少し驚きながら私を床に下ろして手を触れた。

「アリア。自分で植物を育てるのは、この珠のような手を傷つけるかもしれない……専属の庭師を付けるので、その者と一緒に育てるなら許可を出そう」

(予想外だったわ……とても娘に甘いのね)

 最近表情が乏しくなったと心配されていた私はお父様に天使のような笑顔を見せて喜んだ。

「お父様大好きです。お父様も無理しないでください……アリアは心配です」

 私は少し目を潤わせて、寂しそうな表情を作った。

 お父様は私の笑顔や心配してくれる事が嬉しかったのか、頑固で厳しいと有名の父がとろけるような笑顔で一筋の涙を流していた。

 
 それからは、書庫でこのニーベラル大陸の歴史や地理、政治、宗教、魔法、食料品、物価等を調べていった。
 そしてお目当ての漢方から毒草の植物とその調合方法を記した本を頭に叩き込んだ。
 スパイの時に頭に全ての情報を叩き込みミッションを受けていたので、この世界でも役に立っている。

 季節は秋から冬に変わり、お父様の領主の仕事も終わり王都に戻っていた。アラン兄様も王都に戻っているので、私とお母様だけがウィンゲート領に残る事となった。

 既に私は八歳にして学力、テーブルマナー、社交ダンス、その他諸々……淑女として必要なスキルは全て身につけている……と言うか元々出来ていた事をこの世界に合わせてアレンジしただけだった。

(後は身を守る術だけだわ)

 子どもという体格をカバーする為には、子どもでも扱える物を作らないといけない。
 一年後に私の欲しい植物が育ち、全て粉末状にして瓶詰めをした。

 そして私はもう少しで十歳を迎える前の春にお母様と一緒にお父様とお兄様が待つ王都に向かった。

 以前の世界と違いこの世界には魔法や魔道具という物があり、魔物という生物と存在する。
 私にも簡単な氷魔法が使えるが、魔力と言われる何かが血管を駆け巡る不思議な感覚は未だに慣れなかった。

 それに私には目標がある。
 せっかく新しい命を授かったのだから以前のような危険な仕事は辞めて、恋や友情や遊び等楽しんでこの人生を謳歌しようと思っている。
 しかし、この前のように命を狙われる事もあるのだろう……
 自己防衛の為に以前の世界で磨いたスパイの技術が活きてくるはず。
 家族に内緒で鍛錬は行いつつ、以前の世界では出来なかった普通の恋愛をして普通に結婚して暖かい家庭を持ちたい……
 まぁ私の身分的には恋愛結婚は限りなく難しいけど……

(よし毒物の調合はバッチリね。後は武器が欲しいけど……どうしようかしら、素直にお父様やお母様に言っても反対されるだけだし…………とりあえず平民の姿に変装して護衛達を撒いて武器屋に行ってみようかしら)

 私は直ぐに行動に移して、王都の街並みを見たいので外出したいとお母様に伝えた。

「うーん……王都だから安全……とりあえず護衛を五名付けて行動しなさい。それとお小遣いよ。夕方前には帰ってくるのよ」

「はい! お母様」

 私は動きやすい平民の服装に着替えてから護衛達と馬車に乗った。
 目的地は大通りの武器屋だが、直接は行けないので、大通りのお店を見ながら、少し気になる服屋に入ったり、喫茶店を眺めたり、王都を散歩するのを満喫していた。
 次は割と広そうな商店に入って、私は気配を消してお店の裏にある部屋の扉を髪留めピンでピッキングして開けて裏口から出て行き、護衛達を撒いた。
 
 そして目的地の武器屋の前まで気配を消したまま進んでいった。

「すみません」

「何だい嬢ちゃん冷やかしかい?」 

 武器屋のおじさんは少し嫌そうな顔を私に向けていた。

(こんな子どもが武器を買いに来たとは思わないよね)
 
 私は色々な武器を物色しながら、ドレスの中に隠れそうなナイフと攻撃を受けながす用のパリイングダガー、そして投げナイフを十本購入したいと伝えた。

「ハッハッハ。これはおままごとじゃないぜ。お嬢ちゃん、仕事の邪魔だ早く帰りな」

 武器屋のおじさんは、まだ冷やかしと勘違いしているらしい。

「仕方ない……」

 私は十メートル離先にある切れ味を試す為に作られた木と藁が混じった人型の物に対して投げナイフを五本放ち、眉間、喉、心臓、右の手首、股間の五箇所全てに突き刺さった。

 武器屋のおじさんは驚いて空いた口が塞がらない様子だった。

「投げナイフ十本とナイフとパリイングダガーを購入するわ。それと腰のベルトとは別に太もも用のサイズのベルトを作って、それらを繋げて頂戴。
 太もも用のベルトには右脚がナイフで左脚がパリイングダガーが其々留めれるようにしてくれるかしら。他にも投げナイフを収納するスペース二本分も腰と太もものベルトに追加できるかしら。
 お代はこれで足りるでしょう」

 私はそう言って金貨一枚を武器屋のおじさんに渡した。
 
「お嬢ちゃん、やるなぁ冒険者か何かか?」

「そんな者です」

「わかった! ベルトのやつは他の職人と協力して作るので三、四日は時間をくれないか? それまでには完成させておこう」
 
「ええ、完成品に満足できればお釣りなしで金貨をお渡ししますね」

 武器屋のおじさんは最後まで放心状態でわたしを見送った……
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