上 下
60 / 228
第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード49 料理長からのフィナーレと嫌がらせ

しおりを挟む
「そうなんですね。ぼく達は最初驚いて、何でこの時期なんだろうと思ってました」

 テーブルに戻ると、女性陣から二年生の二人に質問攻めをしていた…………割とリアナが楽しそうに聞いていた。
 こう言う時に騎士道精神がなんちゃらではなくて乙女が出るんだよなぁ。

「彼は王都の平民で、私は田舎の男爵の四女なんです。私は田舎者だから、王都の学院に行くのも右も左もわからなかったんです。そんな時に出会ったのが彼なんです。彼が入寮する噂を聞いて、王都で居候させてもらっている叔父に相談して私も入寮を決心しました」

 二年の女子の先輩は男子の先輩の方へ振り向いた。

「僕は、てっきり旅行にきていたお嬢さんが迷子になったんだろうと思って声をかけてたんだけど、まさか同じ学院の入学生とは思わなかったんだ。今年になって彼女と中等部を目指そうと思って少しでも生活費を抑える為に学生寮に入寮したんだよ」

 男子の先輩も昨年の事を懐かしむように話をしていた。


 そんな運命的な出会いをした二人をオレ達は微笑ましく見ていたのだが…………もうフィナーレの時間がやってきた。

 二年生の男子が一人、ステージに上がっていき最後のサプライズがある事を説明した。

「それでは最後に料理長によるホールケーキの登場です」

 その掛け声と同時に多目的ホール入り口の扉が開いた。

「なんとフィナーレを飾るのは、学生寮の料理長力作の【オレはアイツに言わせたかったよ! ちょこっと元気になりますっとかさぁ。アイツはこれから新たな大地に向かうべきだと? 地図には載ってない道をただひたすら歩むだけしかないんだな】と言うケーキです! 一体どんなケーキなんでしょうか?」

 二年生からの紹介を受けて、満面のドヤ顔で料理長は台の上に乗せたベールに包まれたケーキを二つ運んでくるが、オレ達は正直飽き飽きで「へぇ」しか言葉が出なかった…………

 オレ達は、もう何となく分かっている。このケーキの正体を!

【オレはアイツに言わせたかったよ! ちょこっと元気チョコレートケーキになりますっとかさぁマスカット。アイツはこれから新たな大地ライチに向かうべきだと? 地図ベイクドチーズには載ってない道をただひたすら歩むだけしかないんだな】

 料理長がオレ達に気づかず、ワクワクしている学生達を見てドヤっている……そしてオレ達の横を通り過ぎようとした時に料理長にだけ聞こえる声でみんなで話をしていると料理長の顔が一瞬で曇った……

「クライヴ? ネーミングからして、チョコとチーズのケーキだよね……」
「アタシもそう思うわ……」
「ぼくもさすがに毎回だと…………」
「はいはい、最後にチョコレートケーキとベイクドチーズケーキと周りに添えられたマスカットとライチだろ」
「おめぇら本当に凄ぇなあ」

 料理長は悔しそうな顔をしながらセンターにケーキ台を置き、ケーキにかけられたベールを外した。
 その時、外したベールが涙で濡れていた事をオレ達は気づいた…………
 

 歓迎会の片付けは一年二年合同で行った。
 女性陣は飾り付けを片付けて、料理人見習いさん達は取り皿やコップを入り口の端のテーブル上に片付けている。
 男性陣はテーブル上の飲食物の片付けだが……殆ど残ってない。

(飲み物が余っているくらいかな?)

 オレは飲み物を片付けてようとブドウジュースの入ったピッチャー水差しを持ち、料理人見習いさんの元へ向かおうとした時、何かに足が引っかかり転倒した。

「冷てぇ!」
 
 大きな声がホールに響き、一斉に全員がこちらに注目した。

 オレが持っていたピッチャーは割れて、中身のぶどうジュースが目の前の少年にかかってしまい全身が大変な事になっていた………………

「ごめんなさい! 転けてしまいました。大丈夫ですか?」

 オレは何かに足が引っかかった事を疑問に思いながら、目の前の二年生に謝った。

「大丈夫なわけないだろ! なんて事してくれるんだ! いきなりジュースをかけやがって!」

 目の前の人は完全にオレがワザとやったと思っているのか怒りで爆発寸前だった。

「おい! お前! ちゃんと謝れよ」
 
 相手はブチギレ状態なので、今は誤解を解くのは難しいので、とにかく誠心誠意謝った。

「本当にすみませんでした! 僕がしっかりピッチャーを持っていなかったので、先輩の服を汚してしまいご迷惑をかけました。弁償しますので許していただけないでしょうか?」

「お前ムカつく顔してんだよ! もっと謝れよ! 俺の父さんは伯爵家の使用人だぞ! コネを使えばお前なんか王都を歩けなくできるんだぜ!」

 えっ顔がムカつくのは仕方ないだろう両親の遺伝子に言ってくれ……伯爵家の使用人にどれぐらいのコネがあるのかわからないが、なんだろう親のコネで脅すって…………それって男としてどうなんだ?
 しかし、ここは穏便にしないと……より注目を浴びてきている。

「本当にすみません。王都を歩けなくなるのは困りますので、どうすれば許していただけますか?」

 オレの謝罪にその男子は不敵な笑みを浮かべた。
 そしてオレの元に歩いてきて他の誰にも聞こえない声で指図をした。

「そのジュースで汚れた床を舐めろよ。ちょっと女子達にチヤホヤされているからって調子乗るんじゃねぇぞ! 逃げるんなら俺らが、お前の仲間達に嫌がらせをするぞ!」

 別に床舐めてもいいけど、それで気が収まるのなら…………それよりもこの床は衛生面で大丈夫なのか? そっちの方が気になるわ

 ホールにいる全員が、オレ達二人と距離を保っている為、二人の会話は聞こえてないようだ…………いや、一人だけ聴こえている奴がいる。
 唇を噛み締めて怒りに耐えるフィーネだ。


 面倒が起こっても嫌だし、料理人見習いさん達が先生を呼びに行ったけど、まだ時間がかかりそうだし、ここは遺恨を残さぬよう素直に従っておくか……

 オレは床に跪き……顔を床に近づけて……ぶどうジュースでヒタヒタになった床を舐めた。

 女性陣からはオレが怒鳴られて急に床を舐めたので、理解が追いつかないようで悲鳴が上がっていた。

「おいおい! 本当にするとはな、冗談だよ、冗談」

 そう言っているが、二年生の男子は目が笑っていなかった。そしてまだ怒りが収まらないのか、みんなに分からないようにオレの右耳を前に引っ張った。
 周りからは、オレが自らバランスを崩して顔の右半分が床についたように見えたと思う……それぐらい二年生の男子は手際良くオレの顔を床につけさせた。

「すまんすまん! 冗談を真に受けて慣れてない事をしたから滑ってしまったんだな! 悪かった、悪かった!」

 二年生の男子は大声でみんなに聞こえるように言って、ケンカじゃない事をアピールした。
 オレもこれでやっと収束すると思い、特に気にしなかった。

 そのケロッとしたオレの姿を見て二年生の男子は舌打ちをした。

 
 ちょっとしたハプニングはあったが、モーガン達の元に戻ると…………そこは不思議な事態が起きていた。
 
「後輩たちの模範となるべき二年生にあんな奴がいるとは、ぼくが懲らしめてくるよ」

「何じゃアイツ、ムカつくのぉ。一発入れたろか?」

「ちょっと二人とも落ち着いてよ。待って待って行動を起こすとしてもクライヴに事情を聞いてからにしようよ」

 モーガンの右手はリアナの制服の襟を握り、モーガンの左手はショーンの腰ベルトを握り、とても焦った表情でうっすら汗をかいていた。

「珍しいなぁ、モーガンがそんなに焦るなんて」

 オレはその光景を見てポツリと呟くと、フィーネが唇を噛み締めながら、悔しいような悲しいような表情をしてオレに話しかけた。

「軽口言ってないでよ……アタシには全部聞こえたんだからね!」
「知ってる」
「もう! アイツ何様なのよ、だから人間って嫌いなのよ……クライヴ達みたいな人だけじゃなく、すぐに権力に頼り酷い事をする人がいるから……エルフは保守的だから考え方とかよく似ているけど、人間は人によって何故こんなに違うのか分からないのよ」

 フィーネはオレの胸に涙を擦りつけながら話している。
 すまんフィーネ……オレ制服脱いだから、シャツ一枚なんだ……涙で冷たいんだけど……
 そんな事は言えるわけない雰囲気の中話は続いた。

「全部知ってるんだからね! アタシ達の事を守ろうとした事……クライヴだけあんな酷い仕打ちを受けて…………」
「大丈夫、何ともないから」

 フィーネ、心配する気持ちは優しいが本当に何ともないんだ。むしろ衛生面で気にしたくらいだ。

「アタシ……目立つとエルフってバレるから、見守る事しかできず……それがとても悔しくて、苦しくて…………」

 オレはフィーネのアタマをポンポンと優しく叩くと、オレの胸で泣いていたフィーネが真っ赤に目が腫れた顔を向けた。

「ありがとうフィーネ。良く頑張ったね」

 フィーネは悩んだんだろうなぁ。
 助けれるけど助けれない自分自身との葛藤に。

「ヒャッ、そ、そ、そんな事しても、ア、アタシはアンタなんかに騙されないんだから!」

 顔を真っ赤にしながらオレから逃げるように、モーガンの元に行きリアナを捕まえていた。
 
 何だかよく分からないが、奇しくもオレがツン? 発言ツンか? デレか?をされて少しだけ落ち込んでいた僅か数十秒で全てが解決していた………………
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...