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猫、閃く
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なんだよもう! 悪いなーと思ったからちゃんと謝ったのに。
って思ったけど、その後おしりのあたりを思いっきり揉み揉みされて、あまつさえおしりの穴やちんちんまで洗われた僕は、羞恥に悶えるハメになった。
猫だから仕方ないけど!
猫だから洗われるのは仕方ないけど!!!
なんか大切なものを失ったような気がする……!
もちろん猫パンチも猫キックも思いっきりお見舞いしてやった。僕は結構なデカ猫だから、それなりに痛かったに違いない。
「怒るなって。仕方ないだろう」
「怒ってない……! 恥ずかしくて顔が見れないだけ……!」
タオルで丁寧に拭かれて、三本のブラシを駆使してブラッシングされている僕は、腹這いになってトルスと目を合わせないように頑張っていた。
「あれは必要な処置だった」
「そんなの分かってるよ! でも、あんなところやあんなところまで素手でグリグリ洗われるだなんて、僕もうお婿に行けない……!」
「大丈夫だって。俺が嫁に貰ってやるから」
イガイガのついたブラッシング用手袋をはめた手でよしよしと頭を撫でられた僕は、びっくりしてトルスを見上げた。
「お、やっと目が合った」
「い、いいいいいい、今の、プロポーズ!?」
「そうとって貰ってもいい。そう決意出来るくらいには、俺はお前に惚れてる」
優しい、けれど真剣な目で、トルスが僕を見つめている。
「本当だ。……それに、俺のために猫になってくれるくらい、お前も俺を好きでいてくれてるんだろう?」
首がおかしくなるくらい、首を縦に振った。
「でも、でも、ずっと猫のままだったら!?」
「大切に愛でて、ちゃんと一生面倒みる」
「トルス……!」
「愛してるよ」
フ、と笑みを浮かべてトルスが僕を愛しそうに撫でてくれる。嬉しくって胸がじぃんと熱くなる。人生の中で一番幸せな瞬間だと思った。
「嬉しい……! でも、人間の時に聞きたかったなぁ。そしたらいっぱいチューして、いっぱいぎゅーして、エッチなことになだれ込むのに」
「お前、直接的だな……」
若干赤くなりつつも呆れた顔をしたトルスに、鼻の頭をつつかれる。僕は前脚で鼻をコシコシと撫でながら呟いた。
「だって思った事がついそのまま口から出ちゃうんだもん……」
「そうだった! こうしてる場合じゃないな。お前の猫化が進む前に、なんとして呪いを解かなきゃならん。ローグ、今夜は徹夜だぞ」
「うん! 人間に戻ったら、うーんと愛を囁き合おうね!」
「あ……ああ」
赤い顔をしたトルスは、僕の前にさっきのノートを開いて置いた。
「ここに、解呪系の呪文を探せるだけ探して書いてある。ローグはこれを片っ端から試していってくれ」
「すごい数だな、これ全部トルスが調べたの?」
僕が寝てる間に……。すごいな、トルス。
「以前別の研究の時に見つけたものもあるから、結構色んな方向性の解呪が揃っているはずだ。解けないまでも、何か少しでも解けそうな感じがあったら、メモして……これで、足跡でもつけておいてくれ」
ハンコ台を近くに置かれて、僕はしょんぼりと耳を垂れた。せっかくお風呂に入ったのに、足、汚れちゃうなぁ。もう僕はペンすら持てないのか。
ダメだ……!
解呪の呪文を片っ端から唱えても、全然かすりもしない。これは……! と思える反応すらない見事な空振りばっかりで泣けてくる。
猫になる魔術を分解して解呪の呪文を編み出そうなんて普通なら考えもしない高度な技術を試そうとしているトルスの邪魔をしないよう、ご飯を食べる用のテーブルの上で解呪の呪文を唱え続ける僕は、段々と絶望感に苛まれるようになっていた。
僕の豊富な魔力でも、これだけ無駄撃ちすれば底が見えてくる。
ノートに書かれた最後の解呪の呪文を唱えた頃には空が白みかけていた。
キラキラと解呪の呪文が光になって僕に降り注いではくれるけど、結局なんの効果も及ぼさずに光はキラキラの余韻を残しながら消えていった。
「うにゃあ~……全滅だよぉ~……」
思わず泣き言も出る。机に力なく突っ伏したら、後ろでガタッと椅子の鳴る音がした。
「今、お前……猫みたいに鳴かなかったか?」
机からテーブルまで瞬間移動したのかくらいのスピードで僕の眼前に現れたトルスの顔は、心配になるくらい真っ青だった。
「あ、ごめんごめん、今のは悲しくなって呻いただけ。鳴き声じゃないから、安心して」
「そうか……!」
心底ホッとしたようにトルスがへたり込んだ。
二度と冗談でも「にゃあ」とか言ったりするまい。トルスが心労で死んでしまいそうだ。
「ごめんね。モフモフする?」
「する……」
僕をぎゅうっと抱きしめてから、毛の中に指を差し入れてひときわ柔らかいアンダーコートの部分をモフモフ、モフモフと堪能するトルスはとても幸せそうだ。
「モフモフくらいでこんなにトルスが喜んでくれるなら、僕もう、猫のままでもいいかもしれないなぁ。解呪の呪文も全滅だったし」
ついそんな事を言ったら、トルスがバッと顔を上げる。
「バカな事を言うな! お前は絶対に俺が元に戻してみせる!」
「トルス……!」
って思ったけど、その後おしりのあたりを思いっきり揉み揉みされて、あまつさえおしりの穴やちんちんまで洗われた僕は、羞恥に悶えるハメになった。
猫だから仕方ないけど!
猫だから洗われるのは仕方ないけど!!!
なんか大切なものを失ったような気がする……!
もちろん猫パンチも猫キックも思いっきりお見舞いしてやった。僕は結構なデカ猫だから、それなりに痛かったに違いない。
「怒るなって。仕方ないだろう」
「怒ってない……! 恥ずかしくて顔が見れないだけ……!」
タオルで丁寧に拭かれて、三本のブラシを駆使してブラッシングされている僕は、腹這いになってトルスと目を合わせないように頑張っていた。
「あれは必要な処置だった」
「そんなの分かってるよ! でも、あんなところやあんなところまで素手でグリグリ洗われるだなんて、僕もうお婿に行けない……!」
「大丈夫だって。俺が嫁に貰ってやるから」
イガイガのついたブラッシング用手袋をはめた手でよしよしと頭を撫でられた僕は、びっくりしてトルスを見上げた。
「お、やっと目が合った」
「い、いいいいいい、今の、プロポーズ!?」
「そうとって貰ってもいい。そう決意出来るくらいには、俺はお前に惚れてる」
優しい、けれど真剣な目で、トルスが僕を見つめている。
「本当だ。……それに、俺のために猫になってくれるくらい、お前も俺を好きでいてくれてるんだろう?」
首がおかしくなるくらい、首を縦に振った。
「でも、でも、ずっと猫のままだったら!?」
「大切に愛でて、ちゃんと一生面倒みる」
「トルス……!」
「愛してるよ」
フ、と笑みを浮かべてトルスが僕を愛しそうに撫でてくれる。嬉しくって胸がじぃんと熱くなる。人生の中で一番幸せな瞬間だと思った。
「嬉しい……! でも、人間の時に聞きたかったなぁ。そしたらいっぱいチューして、いっぱいぎゅーして、エッチなことになだれ込むのに」
「お前、直接的だな……」
若干赤くなりつつも呆れた顔をしたトルスに、鼻の頭をつつかれる。僕は前脚で鼻をコシコシと撫でながら呟いた。
「だって思った事がついそのまま口から出ちゃうんだもん……」
「そうだった! こうしてる場合じゃないな。お前の猫化が進む前に、なんとして呪いを解かなきゃならん。ローグ、今夜は徹夜だぞ」
「うん! 人間に戻ったら、うーんと愛を囁き合おうね!」
「あ……ああ」
赤い顔をしたトルスは、僕の前にさっきのノートを開いて置いた。
「ここに、解呪系の呪文を探せるだけ探して書いてある。ローグはこれを片っ端から試していってくれ」
「すごい数だな、これ全部トルスが調べたの?」
僕が寝てる間に……。すごいな、トルス。
「以前別の研究の時に見つけたものもあるから、結構色んな方向性の解呪が揃っているはずだ。解けないまでも、何か少しでも解けそうな感じがあったら、メモして……これで、足跡でもつけておいてくれ」
ハンコ台を近くに置かれて、僕はしょんぼりと耳を垂れた。せっかくお風呂に入ったのに、足、汚れちゃうなぁ。もう僕はペンすら持てないのか。
ダメだ……!
解呪の呪文を片っ端から唱えても、全然かすりもしない。これは……! と思える反応すらない見事な空振りばっかりで泣けてくる。
猫になる魔術を分解して解呪の呪文を編み出そうなんて普通なら考えもしない高度な技術を試そうとしているトルスの邪魔をしないよう、ご飯を食べる用のテーブルの上で解呪の呪文を唱え続ける僕は、段々と絶望感に苛まれるようになっていた。
僕の豊富な魔力でも、これだけ無駄撃ちすれば底が見えてくる。
ノートに書かれた最後の解呪の呪文を唱えた頃には空が白みかけていた。
キラキラと解呪の呪文が光になって僕に降り注いではくれるけど、結局なんの効果も及ぼさずに光はキラキラの余韻を残しながら消えていった。
「うにゃあ~……全滅だよぉ~……」
思わず泣き言も出る。机に力なく突っ伏したら、後ろでガタッと椅子の鳴る音がした。
「今、お前……猫みたいに鳴かなかったか?」
机からテーブルまで瞬間移動したのかくらいのスピードで僕の眼前に現れたトルスの顔は、心配になるくらい真っ青だった。
「あ、ごめんごめん、今のは悲しくなって呻いただけ。鳴き声じゃないから、安心して」
「そうか……!」
心底ホッとしたようにトルスがへたり込んだ。
二度と冗談でも「にゃあ」とか言ったりするまい。トルスが心労で死んでしまいそうだ。
「ごめんね。モフモフする?」
「する……」
僕をぎゅうっと抱きしめてから、毛の中に指を差し入れてひときわ柔らかいアンダーコートの部分をモフモフ、モフモフと堪能するトルスはとても幸せそうだ。
「モフモフくらいでこんなにトルスが喜んでくれるなら、僕もう、猫のままでもいいかもしれないなぁ。解呪の呪文も全滅だったし」
ついそんな事を言ったら、トルスがバッと顔を上げる。
「バカな事を言うな! お前は絶対に俺が元に戻してみせる!」
「トルス……!」
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