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02 第2皇子は<神の遊技>に参加せよ
しおりを挟むひらり……。
ひらり、ひらり……。
ローズ聖帝国に、光を放つ何かが羽根のように舞い降りる。
それは天井を突き抜け、壁をすり抜け、どのような障害にも止められず、ひたすらに特定の対象者を目指す。
太陽の輝きを受けて光る何か……否。それは、光る何か、ではない。
舞い降りているのは、光そのものだった。
皇城内の、厳かでありながら照明の行き渡った廊下にて。
目の前で踊る光に、思わず、ローズ聖帝国の第2皇子ウィリアムは手を伸ばした。
掴もうと思ったわけではなく、ほぼ無意識の動作だった。
城内での出来事とはいえ、突然現れた怪しげな異物に対し、皇子の対応としてはあまり宜しくなかったかも知れない。
しかし、豪奢な廊下を舞い降りる光の輝きがあまりにも美しく。また、そこはかとなく厳かな気配を感じたのだ。
ウィリアムの指先が触れるか触れないかの距離で、光は姿を変える。
正方形よりもやや横長。
まるで光り輝く小さなキャンバスのようなそれは、見る限りには何の支えも無しで、ウィリアムの眼前に浮かんでいる。
不意にブブブブブ…という、何の音とも知れぬ不思議な音が鳴り始めるのと同時に、四角い光の表面には文字が並びだした。
「……これは、まさか……。」
ウィリアムの端整な顔が驚愕に染まる。
見間違いではないのかと、一旦きつく目蓋を閉じ。
再び目を開けても尚そこに、光も文字もあるままだった。
……やはり、参加は避けられないか。
一瞬の失望感。
振り払うように、ウィリアムは周囲へと視線を向けた。
近くに付き従っているお供の者達は、不意に立ち止まったウィリアムにならって足を止めたものの。皇子が何をしているのかと、一様に訝し気な表情を浮かべている。
どうやら彼等には、光も文字も見えていないようだ。
見えているのはウィリアムだけ。
その事実が、この四角い光が<神の遊技>への参加証であることの証拠だった。
参加証は遊技の開始以降、神からの御指示を記し出す<導き盤>となる。
御指示の内容は当然、とても重要なものであり。それ故に、<導き盤>を見ることが出来るのは遊技の参加者と、然るべき装置を備えた教会だけなのだ。
侍従の1人が数歩、ウィリアムに近寄る。
彼の肩が四角い光とぶつかったが、侍従は気になりもしない様子だ。
「ウィリアム皇子、どうかなさいましたか?」
「ん、あぁ……。急な話だが、すぐにでも父上に……皇帝陛下にお伝えしなければならぬ案件が出来た。それと誰か、教会の司祭も呼ばなくては。大至急でだ。」
「は…っ、か、かしこまりました!」
参加者に選ばれた他の者達も、きっと同じように連絡するだろう。
これから<神の遊技>が始まるのだから。
参加者同士で可能な限り情報を共有し、……まずは早急に顔合わせが必要だ。
もちろん、国と教会の上層部にもしっかりとサポートをするよう念を入れなくては。
それと……。
「……ジュリアン…………。」
彼とも話をしておかなければならない。
婚約者である、アンドバリィ侯爵家の長男ジュリアンと。
恐らくは参加者として選ばれているはずだ。……彼にも固有の、遊技には欠かせない役割が与えられているはずだから。
急ぎ足で離れて行く侍従の後ろ姿を、ウィリアムは目で追う。
参加者でない侍従が、正直、羨ましく感じていた。
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