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本編3 残念な男
36・勇者の仕事、始めました @泉州
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一時間近く経った頃。オレは、来訪初日にロイズとお茶した部屋に案内された。
教会のお偉いさん達と久し振りに顔を合わせてる。
この世界に蔓延る瘴気や、それによって発生してる妖魔って存在について重点的に。
簡単な話はイーシャからも聞いてたんだが、改めて、偉い人から説明された。
瘴気溜まりから生まれる妖魔は、この世界の通常の生き物……人間や動物を襲う性質がある。しかも厄介な事に、倒されると結構な量の瘴気を出すらしい。
出された瘴気は空気中を漂って集まり合い、それが瘴気溜まりになる。
濃い瘴気はそれだけで害になるし、そこから妖魔が出て来るんだから速やかに除去しなきゃならねぇんだが……これが結構、骨が折れるそうだ。
瘴気に何でも良いからダメージを与えると、どんどん千切れて小さくなって行く。小さくなった瘴気はまるで逃げるように移動を始めるから、それを追い掛けてまた攻撃をする。
その内、瘴気の核が剥き出しになれば、それを潰す事で瘴気が消滅するんだと。ただし瘴気核はやたらと硬くて、武器でのダメージが殆ど入らないって寸法だ。
核の状態まで行けば移動もしなくなるから、通常は神官兵士達が瘴気を小さくして核を晒した後、僧侶達が魔法で浄化する……ってのがセオリーだった。
何人もの神官兵士や僧侶が協同でやる浄化作業を、一人でやるのが勇者の証。
オレに期待されてンのは、瘴気や妖魔を完全消滅させる事だ。
それが出来れば勇者だと認められる。って感じだな。
正直な所、勇者だって認められンでも別に構わねぇんだが……まぁいいか。重要なのはロイズに、「役に立つ勇者ってカッコイイ!」と思って貰えるかどうか、だぜ。
オレが『瘴気潰し』の仕事を始めたのは翌日からだった。
予想してたよりも話が早かったのは有り難い。
説明を受けた場では、まずは有名な……って言い方もどうかと思うが……瘴気溜まりに向かうって話も出たんだが。その場で一緒に話を聞いてたロイズやイーシャが それに反対した。
大きめの瘴気溜まりがあるって明らかな場所は幾つかあって、何処も日帰りや一泊二日程度じゃ行けねぇぐらいは遠いらしいんだ。
まだ実戦経験も無ぇ内からデカイのに挑むリスクとか。
いきなり大々的に動いたら、瘴気溜まりの近くやそこまで行く途中にある村とかに、「勇者が来た」みたいな情報も漏れる可能性とか。
そこら辺を考えればまず、実績を積むのが先だって話なワケだ。
ぬか喜びさせるワケにも行かねぇから、オレの実力がハッキリするまで、勇者云々って話は極秘にされるらしい。
ロイズがそれが良いって言うなら、オレが反対する理由は無ぇよな。
まぁそんなこんなで、取り敢えずは近場で腕試し。
まだ瘴気溜まりになってねぇ小さな浮遊瘴気をチマチマ潰す事になった。
「勇者さま、お茶のお替わりは?」
「いや、もう充分だ。ありがとな、カカシャ。」
空になったカップをカカシャが回収して、手早く綺麗に拭いてから鞄に仕舞う。
街道沿いにあるちょっとした広場で、遅い昼飯を食い終わった所だ。
今日は王都から南方面の森で、浅い部分を探索してた。
人間があまり居ない森の中は、瘴気がちょっと集まったぐらいじゃ気付かれる事も少ないから、ちょうど手頃な規模の瘴気を見付けられる可能性が高いって理由だった。
仕事をするようになってから、三週間が経ってた。
最初の一週間は日帰りでメチャクチャ近場のみ。
それ以降は今日のように、野営一回を挟んでの一泊二日コースだ。
仕事に同行してくれてンのは、カカシャと。タリメアって名前の司祭。
司祭ってのは教会の中で、結構偉い地位の人らしい。
そんなお偉いサンが付いて来てくれるとか、正直、かなり意外だった。
しかもタリメアは、こう言っちゃ悪いんだが……なんつ~か、自分は頭脳労働専門です、みたいな。いかにも神経質そうな外見してるから余計にだ。
オレは横に置いてあった長剣を携えて立ち上がった。
荷物を仕舞い込んだカカシャは、鞄を馬に括り付けてる。
これからの予定は。
また森の中に入って瘴気を探し、そして潰す。
移動方向はなるべく王都から遠い方へ向かってだ。
ただし夕方には街道沿いで野営するから、あまり森の奥へは行かない。
周囲の様子を確認してたタリメアが、上空を見て眉を顰めた。
「今日は天候が変わりそうですね。雨を凌げそうな場所を確保しておいた方が良いかも知れません。少々予定を修正しますか。」
「森には入らないのか?」
「馬でもう少し行けば恐らく、街道沿いに小屋が建っているはずです。今日はその辺りで活動しましょう。今からただ王都に戻るのは勿体ないので。」
「……おう。」
「はーい。」
雨天中止じゃねぇのか。
まぁ、雨が降ったからって瘴気が溶けて無くなるんじゃねぇもんな。
そういやぁ、晴れてる日以外の仕事は初めてだ。色々と気を付けねぇと。
もちろん、風邪もひかねぇようにな。
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