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本編2 試される男
28・どうするかはロイズの言う通り 俯瞰視点
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先程までのイーシャと泉州との会話の中で、泉州の発言の一部には確かに、勇者として活躍する事に後ろ向きな内容も含まれてはいた。
しかしそれは、あくまでも『勇者として過大な期待を掛けられる事への泉州からの牽制』だろう。
具体的に任せる内容はともかく、勇者活動をする分には問題無いと思われた。
そこも含めてイーシャが上手く丸め込んだと言うのに、その意欲を殺ぐような事をロイズが言い出したのだ。
しかもロイズに対して、泉州は「ロイズが望むなら」と断言した。
勇者として出来る事をする、という点で変わりが無かったとしても。それでは、国や教会の為に働く、という方向からは外れてしまう。
「や…っ、……望む、って意味じゃ…」
「ロイズが嫌なら勇者をやるのは止める。」
泉州とロイズの遣り取りに周囲がヤキモキする。
見守っている表情が変わらないのはタリメア司祭ぐらいなものだった。
このままでは、せっかくの異世界人の身の振り方が、ロイズの考え無しに発した言葉一つでコロコロと落ち着かなく変わってしまう事になる。
勇者として迎えて良いものか、否かも。その根拠にすべき、泉州の態度や、約束した事でさえも。
単なる神官兵士に過ぎないロイズの一言で、簡単に覆るだろう。
僧侶や神官兵士の中に、貴族の血を引く者の人数は少なくない。
領地や稼ぎがさほど多くない伯爵家や、子爵や男爵といった下級貴族は、第三子、第四子ともなれば。爵位も継がせられず、渡せる財産も乏しい事が多く。そうした者達の中で、平民として町で働くよりも教会に身を寄せる事を選ぶ者が少なくなかったからだ。
もしロイズがそのような、貴族の息子だったとしたら、大きな問題は無かった。
そうであれば実家という『重石』がロイズにはあるのだから、教会や国の意思をそのままロイズの言動に反映させる事が容易かっただろうから。
だが実際のロイズは平民どころか。
身寄りが無い、孤児で、他所の貧民街の男娼上がり。しかも男娼と言っても、きちんとした娼館に所属も出来ず、薄汚い路地で大人の袖を引き、口淫して僅かな食べ物を貰って飢えを凌ぐような子供だった。
大人になった今も、大して教養も魔力も高くない。
性格的にも、大人しく従順だとは到底、言えないだろう。
もちろん、教会で働く身なのだから、ロイズに命令する事は可能ではある。
明日をも知れぬ身を拾ってやったという、一応の恩もある。
しかしロイズの、神官兵士としての立場は高くない。
その為、責任感という意識はあまり育っておらず。年齢もまだ若いロイズは、いつでも身体一つで出て行けるような身分だ。
そんなロイズに異世界人を委ねるのは、決して良い事とは言えなかった。
そろそろ割って入るべきかと、判断したイーシャが口を開き掛けた時。
「勇者は、他の勇者に勝てるのか?」
「ロイズが応援してくれるんなら、オレは頑張る。……オレが勝ったら、ロイズの好きな物を何か一つでいいから教えてくれ。」
ロイズの言葉に目を瞠ったのはイーシャだ。
今の発言はどう聞いても、泉州に、タカロキを攫った自称勇者を倒せるのか、それを確認する内容だった。
「お前……勇者、なんだな?」
「ロイズが望むんなら、勇者をやる。」
「……じゃ、……じゃあ……。」
「おい……? ロイズ、お前……ちょっと待て。」
思わずイーシャは止めようとしていた。
まだ泉州には、二か月前の自称勇者の事は話していない。
同胞殺しをさせる可能性が高く、また、現時点では泉州の実力も分からないからだ。
中途半端に泉州を動かして、自称勇者を怒らせる。という結果も想定された。
イーシャが止めたにも関わらず、ロイズの頼み事を敏感に察した泉州が、それを叶える為に詳しく聞き出そうとする。
途中でロイズも気が付いたようで、自分の口を押さえて狼狽えだした。
だが遅い。
ロイズの気を引く為だけに、泉州は詳しい事も分からぬ内から「全力でやる」と約束を口走る。にわかに態度がおかしくなったロイズを気遣う事に忙しく、その他の判断能力が停止したかのようだった。
今更になって取り繕うように「お前に頼む事は無い」と、逆に大問題になりそうな強い言い方をしたロイズに。泉州は必死で言葉を重ねて、自分を頼って欲しいと懇願までした。
そこまでロイズに惚れ込み。
そうまでしてロイズの気を引きたいのかと。
一連の遣り取りは、ロイズと泉州の関係性を教会側に強く印象付けた。
「ものは試し、だ。様子見ぐらいなら、頼んでみたらどうだ?」
溜息を零したイーシャが提案する。
やはりこの時も、イーシャは良い仕事をした。
渋るロイズと、安易に乗り気な泉州との意見を調整し。
主席司祭タカロキの救出と、自称勇者の討伐……へ向けた『お試しの一歩』をさせる事になったのだ。
例え、タカロキを取り戻す事が出来ずとも。
異世界から来た『二番目の男』がどれだけの実力を持っているか、確認が出来る。
周囲はその事に期待を寄せた。
しかしそれは、あくまでも『勇者として過大な期待を掛けられる事への泉州からの牽制』だろう。
具体的に任せる内容はともかく、勇者活動をする分には問題無いと思われた。
そこも含めてイーシャが上手く丸め込んだと言うのに、その意欲を殺ぐような事をロイズが言い出したのだ。
しかもロイズに対して、泉州は「ロイズが望むなら」と断言した。
勇者として出来る事をする、という点で変わりが無かったとしても。それでは、国や教会の為に働く、という方向からは外れてしまう。
「や…っ、……望む、って意味じゃ…」
「ロイズが嫌なら勇者をやるのは止める。」
泉州とロイズの遣り取りに周囲がヤキモキする。
見守っている表情が変わらないのはタリメア司祭ぐらいなものだった。
このままでは、せっかくの異世界人の身の振り方が、ロイズの考え無しに発した言葉一つでコロコロと落ち着かなく変わってしまう事になる。
勇者として迎えて良いものか、否かも。その根拠にすべき、泉州の態度や、約束した事でさえも。
単なる神官兵士に過ぎないロイズの一言で、簡単に覆るだろう。
僧侶や神官兵士の中に、貴族の血を引く者の人数は少なくない。
領地や稼ぎがさほど多くない伯爵家や、子爵や男爵といった下級貴族は、第三子、第四子ともなれば。爵位も継がせられず、渡せる財産も乏しい事が多く。そうした者達の中で、平民として町で働くよりも教会に身を寄せる事を選ぶ者が少なくなかったからだ。
もしロイズがそのような、貴族の息子だったとしたら、大きな問題は無かった。
そうであれば実家という『重石』がロイズにはあるのだから、教会や国の意思をそのままロイズの言動に反映させる事が容易かっただろうから。
だが実際のロイズは平民どころか。
身寄りが無い、孤児で、他所の貧民街の男娼上がり。しかも男娼と言っても、きちんとした娼館に所属も出来ず、薄汚い路地で大人の袖を引き、口淫して僅かな食べ物を貰って飢えを凌ぐような子供だった。
大人になった今も、大して教養も魔力も高くない。
性格的にも、大人しく従順だとは到底、言えないだろう。
もちろん、教会で働く身なのだから、ロイズに命令する事は可能ではある。
明日をも知れぬ身を拾ってやったという、一応の恩もある。
しかしロイズの、神官兵士としての立場は高くない。
その為、責任感という意識はあまり育っておらず。年齢もまだ若いロイズは、いつでも身体一つで出て行けるような身分だ。
そんなロイズに異世界人を委ねるのは、決して良い事とは言えなかった。
そろそろ割って入るべきかと、判断したイーシャが口を開き掛けた時。
「勇者は、他の勇者に勝てるのか?」
「ロイズが応援してくれるんなら、オレは頑張る。……オレが勝ったら、ロイズの好きな物を何か一つでいいから教えてくれ。」
ロイズの言葉に目を瞠ったのはイーシャだ。
今の発言はどう聞いても、泉州に、タカロキを攫った自称勇者を倒せるのか、それを確認する内容だった。
「お前……勇者、なんだな?」
「ロイズが望むんなら、勇者をやる。」
「……じゃ、……じゃあ……。」
「おい……? ロイズ、お前……ちょっと待て。」
思わずイーシャは止めようとしていた。
まだ泉州には、二か月前の自称勇者の事は話していない。
同胞殺しをさせる可能性が高く、また、現時点では泉州の実力も分からないからだ。
中途半端に泉州を動かして、自称勇者を怒らせる。という結果も想定された。
イーシャが止めたにも関わらず、ロイズの頼み事を敏感に察した泉州が、それを叶える為に詳しく聞き出そうとする。
途中でロイズも気が付いたようで、自分の口を押さえて狼狽えだした。
だが遅い。
ロイズの気を引く為だけに、泉州は詳しい事も分からぬ内から「全力でやる」と約束を口走る。にわかに態度がおかしくなったロイズを気遣う事に忙しく、その他の判断能力が停止したかのようだった。
今更になって取り繕うように「お前に頼む事は無い」と、逆に大問題になりそうな強い言い方をしたロイズに。泉州は必死で言葉を重ねて、自分を頼って欲しいと懇願までした。
そこまでロイズに惚れ込み。
そうまでしてロイズの気を引きたいのかと。
一連の遣り取りは、ロイズと泉州の関係性を教会側に強く印象付けた。
「ものは試し、だ。様子見ぐらいなら、頼んでみたらどうだ?」
溜息を零したイーシャが提案する。
やはりこの時も、イーシャは良い仕事をした。
渋るロイズと、安易に乗り気な泉州との意見を調整し。
主席司祭タカロキの救出と、自称勇者の討伐……へ向けた『お試しの一歩』をさせる事になったのだ。
例え、タカロキを取り戻す事が出来ずとも。
異世界から来た『二番目の男』がどれだけの実力を持っているか、確認が出来る。
周囲はその事に期待を寄せた。
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