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本編2 試される男

21・ロイズをもっと知りたくて @泉州

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住み家が決まったら、次は生活費を得る為の仕事……だろ?
別に贅沢をする気は無ぇが、これから先、ロイズとデートしたりプレゼントを買ったりすンのにも金は必要だ。それに、行く行くはロイズと一緒に暮らすとしたら、住む場所にも金が掛かるだろうし。
……今日から同じ敷地内に住む事にはなったんだが、そうじゃなくて、二人だけのスイートホームが欲しいだろ。

そっちの方面……就職先についても、イーシャから提案があった。
この教会で『勇者』として働かねぇか、……ってな。


「これから先もずっと、って話じゃねぇ。……どうだ? せっかく異世界から、わざわざ、勇者をやりに来てくれたんだろう?」
「……ん、まぁ…そのツモリで来ては、いたんだが……。特に必要じゃねぇんなら、無理して勇者扱いじゃなくたってオレは構わねぇんだぞ? そこに拘りは無ぇからよ。」

イーシャからの提案でも、明日からすぐに『勇者活動』ってワケじゃなかった。
慣れるまでの間は対外的に『神官兵士見習い』って扱いにしといて、それなりに戦闘訓練だの、野外活動の練習だのを面倒見てくれるって話だ。
だったら別に、そこから『勇者様』扱いにランクアップしてくれなくても良いんじゃねぇかと。オレは思ったんだが。



「お前……。勇者……辞める、のか?」
「ロイズが望むならオレは、いくらでも勇者をやるぞ。当たり前だろ?」
「や…っ、……望む、って意味じゃ…」
「ロイズが嫌なら勇者をやるのは止める。」

ちょっと心細げなロイズの声を聞いて、オレはキッパリと言い切った。
ロイズは何か窺うような視線でオレを見てる。


愛しのロイズが見詰めてくれるなら、どんな視線でも良いもんだ。
だが出来れば、ロイズの瞳は嫌な気持ちで曇ってない方がいい。それは間違いねぇ。

だからオレはちょっとでもロイズが嫌がるなら、それは出来るだけやらねぇし。
逆にちょっとでも喜んでくれるンなら、大抵の事はやってやる。
……勇者をやったり辞めたりなんぞ、朝飯前だっつの。


「ロイズは、勇者……は、嫌いか?」
「別に嫌いとかじゃない。」
「じゃ……好きか? ちょっとは好き、か? かなり好き、か?」
「す、好きとか……考えた事、無かっ………、ぅん、まぁ……ちょっとは。」

ドッチかと言えば、ちょっとは好き寄り。って所だな。
って事は、異世界から勇者をやりに来たって事自体には、特に悪い感情は持たねぇハズだよな……よし。
勇者って立場に対して、ロイズがどう思ってるのかが確認出来たのは良かった。ありがてぇ。


せっかくロイズと、イイ感じで会話出来てるんだから。
もうちょっと、色々な事を聞いてみてもいいだろうか。


オレは欲が出た。
単純に会話が出来るのも嬉しいが、更に、ロイズの事を知れるような。例えば……ロイズの好きな物、とか。



「とっ…ところで、ロイズは…」
「勇者は、他の勇者に勝てるのか?」

欲をかいたオレの問い掛けと、ロイズの声が重なった。
重なったら、そりゃ……オレの質問なんかより、ロイズの疑問の方を優先するだろ。


「ロイズが応援してくれるんなら、オレは頑張る。……オレが勝ったら、ロイズの好きな物を何か一つでいいから教えてくれ。」

……悪いな。ロイズの疑問を優先するって言いながら、自分の欲望も押し込んだ。
何だかは知らねぇがロイズの言い方だと、オレ以外にも、自分の事を勇者って名乗った人物がいるみたいだな。そんで何故かロイズは、ソイツとオレとを戦わせたいらしい。

まさか……強い方の勇者が好き。……とかかっ?
そんなん、本気で勝ちに行くだろ、当たり前だろ、いや待てよ、オレが勝てるのか? 戦う前に、オレが戦闘訓練を受けるような時間はあるのか?
……いや、グダグダ言ってても仕方ねぇ。……勝つんだ!


「お前……勇者、なんだな?」
「ロイズが望むんなら、勇者をやる。」
「……じゃ、……じゃあ……。」

ロイズは躊躇いながら口を開く。
瞳がオレの見てるのに、視線はどこかを泳いでるようだった。


「おい……? ロイズ、お前……ちょっと待て。」

イーシャにはロイズが何を言おうとしてるのか、予想が付いたようだ。
オレの方を気にしながらも、諌めるような声音でロイズを止めようとしてる。

せっかく今、オレを頼ろうとしてるロイズを止めるんじゃねぇよ。


「ロイズ、どうしたんだ? オレに頼みたいんだろう? ……話してくれ。」
「あ、あぁ……。ちょっと、頼みたい事が…あるんだけど……。」
「ロイズの頼み事なら、オレは何でもやるぞ?」

だからロイズの願いを叶えたら、オレに、ロイズのパーソナル情報をくれ。


そんな下心満載なのがバレたのか。



オレが「何でもやる」って伝えた瞬間。
ロイズの顔色が見る間に真っ青になって行った。
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