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プロローグ
プロローグ2・混乱の予感
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この世界では総じて、人々からの教会に対する信頼は篤い。
古代術の成功に大きく貢献していた過去が遠い昔話になった今でも、いや、だからこそ。教会で働く個々人の力は弱くとも、それでも瘴気を払う能力を持つ僧侶や神官が集う教会は頼りになる存在となっている。
誰かが死ねば、あるいは妖魔を倒せれば。発生する瘴気の量が僅かにでも少なくなるよう、教会が人を寄越して尽力してくれるのだ。
魔術師では、そうは行かない。
彼等が活躍するのは妖魔を倒すまで、だ。
だから人々は教会を訪れる。
僧侶や神官に、そして勿論、神に。感謝と祈りを捧げるのだ。
教会で特に大事にされている行事が特礼拝(とくれいはい)。
町により頻度は異なるが、教会の各地で数ヶ月置きに行われる特別な祈りの儀式だ。
ドゥーサンイーツ王国の王都・城下町にある神殿では、二ヶ月に一度、特礼拝が行われる日にだけ大聖堂が開かれる。
特礼拝には普段以上の参拝者が集まるものだが、今日はそれ以上に人が溢れていた。
参拝者が大聖堂に入り切らない、というのではなく。神殿前の広い庭園にいる人々はむしろ、大聖堂の中から出て来る人物を待っているのだ。
警備に当たっている神官兵達の表情も通常より厳しく、また、人数も多い。
更に、いつもの特礼拝では見掛けない騎士達の姿があちらこちらにある。
それもそのはず。
今日の特礼拝には、この国の第三王子であるティーロッカ殿下が参加しているのだ。
大聖堂の中。いるのは王子と二名の騎士、他にはこの神殿の関係者のみ。
参加者を絞った特別な儀式は厳かに、常と変わらず、恙なく進行していた。
王子、神殿長、以下、神殿の幹部達が祈りを捧げ、神の像へ一層の信仰を誓う。
お決まりの祝福、王子から激励の言葉、それを受けた感謝の言葉その他諸々。
一連の儀式が終わりを告げる頃。
若き神官長であるイーシャは数人の神官を連れて、大聖堂の外へと出た。
王子の護衛である騎士もまた、時を同じくして外へ出る。
どちらも、外にいる警備の者達に、そろそろ王子が出て来ると伝える為にだ。
庭園で待機している人々は、普段は見られない第三王子を一目見られる、という期待があればこそ。せっかくの特礼拝に来たのに大聖堂へ入れずにいる不満を、我慢していられるのだ。
この状況で王子が姿を見せずに去るという選択肢は無い。
大衆の環視の中、王子を無事に護衛するのは当然の事ながら、人々の興奮や混乱も抑えなければならない。
神官兵士に指示を出す神官長も、騎士達も、否が応でも緊張感は高まって行った。
だが……どうした事か。
一向に王子が出て来る様子が無い。
大聖堂からは厳かな雰囲気とは異なる、ややザワめいた気配。
騒ぎが起きたという程ではない。複数人がそれぞれに集まってお喋りを始めた、という程度か。
もしかすると口々に王子へと感謝の言葉を捧げているのかも知れない。
だが誰も出て来ない事に神官長は引っ掛かりを覚えた。
近くにいる神官兵数名を引き連れ、騎士のリーダーの所へ話をしに行く。
騎士も同じ事を考えていたのだろう。他の騎士を呼び寄せた。
「ちょっと様子を見て来ようかと思ってな。何かあればすぐ報せに来させる。」
「であれば、ウチのも一人連れて行ってくれ。」
「分かった。この場を頼む。……ロイズ、ついて来い。」
神官長は若手の神官……といっても神官長も若いのだが……を連れ出す。
こんな事は初めてだ、と。
内心どこか落ち着かない思いを噛み潰しながら。
古代術の成功に大きく貢献していた過去が遠い昔話になった今でも、いや、だからこそ。教会で働く個々人の力は弱くとも、それでも瘴気を払う能力を持つ僧侶や神官が集う教会は頼りになる存在となっている。
誰かが死ねば、あるいは妖魔を倒せれば。発生する瘴気の量が僅かにでも少なくなるよう、教会が人を寄越して尽力してくれるのだ。
魔術師では、そうは行かない。
彼等が活躍するのは妖魔を倒すまで、だ。
だから人々は教会を訪れる。
僧侶や神官に、そして勿論、神に。感謝と祈りを捧げるのだ。
教会で特に大事にされている行事が特礼拝(とくれいはい)。
町により頻度は異なるが、教会の各地で数ヶ月置きに行われる特別な祈りの儀式だ。
ドゥーサンイーツ王国の王都・城下町にある神殿では、二ヶ月に一度、特礼拝が行われる日にだけ大聖堂が開かれる。
特礼拝には普段以上の参拝者が集まるものだが、今日はそれ以上に人が溢れていた。
参拝者が大聖堂に入り切らない、というのではなく。神殿前の広い庭園にいる人々はむしろ、大聖堂の中から出て来る人物を待っているのだ。
警備に当たっている神官兵達の表情も通常より厳しく、また、人数も多い。
更に、いつもの特礼拝では見掛けない騎士達の姿があちらこちらにある。
それもそのはず。
今日の特礼拝には、この国の第三王子であるティーロッカ殿下が参加しているのだ。
大聖堂の中。いるのは王子と二名の騎士、他にはこの神殿の関係者のみ。
参加者を絞った特別な儀式は厳かに、常と変わらず、恙なく進行していた。
王子、神殿長、以下、神殿の幹部達が祈りを捧げ、神の像へ一層の信仰を誓う。
お決まりの祝福、王子から激励の言葉、それを受けた感謝の言葉その他諸々。
一連の儀式が終わりを告げる頃。
若き神官長であるイーシャは数人の神官を連れて、大聖堂の外へと出た。
王子の護衛である騎士もまた、時を同じくして外へ出る。
どちらも、外にいる警備の者達に、そろそろ王子が出て来ると伝える為にだ。
庭園で待機している人々は、普段は見られない第三王子を一目見られる、という期待があればこそ。せっかくの特礼拝に来たのに大聖堂へ入れずにいる不満を、我慢していられるのだ。
この状況で王子が姿を見せずに去るという選択肢は無い。
大衆の環視の中、王子を無事に護衛するのは当然の事ながら、人々の興奮や混乱も抑えなければならない。
神官兵士に指示を出す神官長も、騎士達も、否が応でも緊張感は高まって行った。
だが……どうした事か。
一向に王子が出て来る様子が無い。
大聖堂からは厳かな雰囲気とは異なる、ややザワめいた気配。
騒ぎが起きたという程ではない。複数人がそれぞれに集まってお喋りを始めた、という程度か。
もしかすると口々に王子へと感謝の言葉を捧げているのかも知れない。
だが誰も出て来ない事に神官長は引っ掛かりを覚えた。
近くにいる神官兵数名を引き連れ、騎士のリーダーの所へ話をしに行く。
騎士も同じ事を考えていたのだろう。他の騎士を呼び寄せた。
「ちょっと様子を見て来ようかと思ってな。何かあればすぐ報せに来させる。」
「であれば、ウチのも一人連れて行ってくれ。」
「分かった。この場を頼む。……ロイズ、ついて来い。」
神官長は若手の神官……といっても神官長も若いのだが……を連れ出す。
こんな事は初めてだ、と。
内心どこか落ち着かない思いを噛み潰しながら。
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