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第七章 ~ゲームの強制力に縛られた者、縛られない者~

バグはバグなりに色々あるんでな・5 $メリクル$

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「持って来い。」
「……はい?」
「リング。……今すぐ。持って来い。ここに。」
「えっ、あ、はい。」

額に手をやったまま唸るように言った。
エステードが慌てた様子でリングを取りに行く。

後ろ姿を目で追ってみると、部屋の隅にあるちょっとした金庫のような収納の前でエステードは屈み込んだ。
扉を開けて、沢山のアクセサリーでも入りそうな何段重ねかのジュエリーボックスを、大事そうに両手で取り出す。
一番上の引き出しから大層ご立派なジュエリーケースを取り出したのを見て、その大仰さに俺は苦笑いだ。
これで白手袋でも嵌めようもんなら、声を出して笑ったろうな。悪い意味でな。



リングを手にしたエステードが戻って来た。
俺はそれを無言で掴み、奪い取る。

「あっ。」

大事に持ってたリングを引っ張られたエステードは、バランスを崩して倒れ込む。
ちょうど俺の膝に跨る格好になり、焦って離れようとする腰に腕を回した。
グッと力を込めてやると、腕の中のエステードが身体を固くする。


「預けとくっつ~のは、こういう事だ。」

オロオロして動けないエステードの頭に、奪い取ったリングを乗せてやった。

乗せた瞬間、エステードは何をされたか理解出来ないって表情になる。
恐る恐る自分の頭に手を伸ばし、指先がリングの縁と俺の手に触れた。


「ぁ、あの…」
「……おぅ。」
「どういう事です?」
「はぁっ?」

素でマヌケな声が出た。
今のは、俺は悪くないだろ。

「だ、だって、リング……、預かっ…」
「だから! お前のだ、っつってんだよ、分かれよ!」

エステードがいつまでもモダモダしてるもんだから、ついつい言葉が荒くなる。
今のも、俺は悪くないだろ。


「…………。」

こんだけハッキリ言ってやったっつ~のに、エステードは無言になった。
俺は妙に居たたまれない気分で、ガシガシ横髪を掻き上げる。
その間もエステードは無言だ。
よっぽど驚いたか、それとも嬉しさで感極まってるかと思いきや。
エステードはカッと両眼を見開いたまま。指も、リングを撫でるでもなく、ただただ触れてるだけの状態でいる。


コイツの表情が乏しいってのを、俺は充分に理解してる。
それを前提にしても、良く分からん微妙な表情だ。

強いて言えば不本意そう、か……?
いやまさか、そんなワケがあるか。
俺からリングを貰って、どこに不満があるっつ~んだ。


「メリクル。確認したい事があります。」
「お、…おぅ。」

何でか知らんけど、エステードの声は緊張感が漲ってた。


「これはハーレムリングですか?」
「見りゃ分かるだろ。」
「ハーレムリングですか?」
「…っ、そうだ、ハーレムリングだ。」

それがハーレムリングかどうかなんて分かり切ってるだろが。
今さら、何を確認してるんだ。


「金獅子のリングですよね?」
「あぁ、そうだ。それがどうし……、どうした、おいっ。」

突然、エステードが泣きだした。
いっそ睨んでるんじゃないかってぐらい力強く見開いてた両眼に、見る見るうちに涙が溜まって幕を張る。


急に泣き出すなんて滅多にあるもんじゃねぇ。
教会で、俺が戻った事に安心して泣いたのがかなりレアケースだ。
少なくともエステードには、あれぐらいのショックがあったハズだ。

……理由が全く思い付かん。

俺が焦るのも当然だろ。
身に覚えが無いから尚更な。
俺が何かやらかした相手に罵られながら泣かれる、とかなら屁でもねぇけどな。


盛大に『?』マークを飛び散らす俺を尻目に、とうとうエステードは両手で顔を覆い隠した。
泣き声こそ聞こえないものの、かなりガッツリ泣いてるのがヒシヒシ伝わって来る。


「おい、なんで泣いてる?」

理由も分からず泣かせといてやる必要は無い。

隠してる顔を強引に上向かせた。
ボロボロに涙を溢れさせながら、エステードが俺を睨む。


「なんで、これを、私に被せるんですかっ。」
「な…んで、って…」
「どうして私に、金獅子ハーレムのリングを渡すんですかっ。私に、金獅子ハーレムの妻になれと言うんですかっ。」
「それは…」
「私が、会った事も無い、天守のものになれとっ!?」
「!! ん…なワケあるかぁっ!」

今のは流石に聞き捨てならねぇわ。
いつ、誰が、お前を、イクシィズにくれてやるなんて、言った?


「お前がイクシィズの妻だって!? っざけんな!!」
「…だっ……だったら、なんで、こんな…」
「だっても、なんでもあるかっ! 誰がオッサンに渡すかよ、お前は俺のだ。」
「……そう……なんですか……?」
「知らなかったんなら今、覚えろ。」
「……はい。」

俺の剣幕に気圧されたのか、エステードの涙は引っ込んだようだ。
瞬きで数滴零れ落ちた後、新たに目を潤ませる事は無かった。

エステードは手の甲でガサツに自分の目元を擦る。
恥ずかしくなったのか、俺の膝の上から降りようとした。
んなもん当然、逃がしてやるような優しい俺じゃない。


勝手に誤解して泣き喚いたんだ。
どんだけ恥ずかしくてもここに居ろ。

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