上 下
351 / 364
第六章 ~ゲームと違ってオレのハーレムは自動生成されない~

ケンカの吹っ掛け方が下手過ぎる

しおりを挟む
エステードさんが「メリクルじゃない」って断言したし、オレ自身も「違うな」って感じてるけど。呼び方は『仮メリクル』のまま進めとく。



「やっぱり約束した本人じゃなきゃ、頼み事の対応は無理か?」
「……、奴ではキミを手助け出来な…」
「オレを手助けすると思って、メリクルと代わってくれ。」

よく聞こえなかった、なんて言い逃れ出来ないように。
オレは仮メリクルの目を見て、ハッキリと声に出した。


「俺はメリクルだと言ってるだろう? 奴は、動作不良が酷過ぎる。」
「……うん、そうだな。でも……そっちのメリクルと代わってくれ。」
「イグゥ? キミには特別に目を掛ける気でいたんだぞ? まさか本気で言ってるわけじゃないよな? メリクルは日頃から、子供達の話を微笑んで聞いてくれる『優しいお兄ちゃん』だろう? でも奴は、そうじゃない。」

自分じゃなく、荒っぽい方……仮メリクル曰く、欠陥のある方……を望まれたのがよっぽど衝撃なんだろう。
自分の方が相応しいってアピールする仮メリクルの声は、ちょっと焦ってるようだ。
オレに目を掛ける気でいた、って言葉も胡散臭い。
だって、リオが入院してる病院の近場で会った仮メリクルの態度からは、そんな感じはしなかったから。


「……再会した時、キミはガッカリしたはずだ。」

確かにオレが再会したメリクルはもう『お兄ちゃん』じゃなかった。
もしかしたらオレの記憶にある『お兄ちゃん』キャラは、あのメリクルじゃなかったのかも知れない。子供時代のオレが懐いてたのは仮メリクルかも知れないし、他の別人だったのかも知れない。

でも今になって真相なんて分かんないし。
それに……。


「前提が違ってる。子供の頃のオレならともかく……成長した今、メリクルが『優しいお兄ちゃん』キャラかどうかってのは、大して重要な問題じゃないんだ。それに……悪いんだけどさ、オレにはアンタも『優しいお兄ちゃん』って思えないな。」
「俺と奴が同じに見えるとでも?」
「まさか。そんなワケない。別人だって分かってる。」

目を見開いた仮メリクルは、何か不穏な感じを察したっぽい。
その予感は合ってる。

オレは仮メリクルを否定するから。
それが仮メリクルに「死ね」と言ってるようなものだとしても。


「アンタはサポートキャラなんだろうけどさ。役に立たない助言は要らない。」
「役に立たない、だと?」
「誰だって、価値が低いなんて言われたら傷付くんだ。そんな暴言を吐いたのと同じ口から出る言葉を、有難く聞けるワケないだろ。」
「不慣れな天守が正しく判断出来るよう、時として厳しい言葉を使う事もある。」
「……っ。ポイントが高いか低いかでしか妻を見てないように、アンタはオレのことも……天守のシルシがあるって点でしか見てないんだな……。」
「当然だ。」
「だったらオレはもう、アンタに用は無い。さっさとメリクルに代わってくれ。それがアンタに出来る唯一の手助けだって、分かってくれないか?」
「唯一とは失礼だな。俺に出来る事はもっと沢山あるぞ?」
「……だからなんだ。」
「考え直すべきだ。」

お互いに目を逸らさず、一歩も引かず。
オレが言いたかった台詞は大体言えた。
仮メリクルの台詞も、もし反論して来るならこんな感じかな~って、予測した内容とほぼ同様だ。

だけどオレの予想外に。
仮メリクルがオレに敵意を表さない。


「……考え直す余地なんか、無い。」

おかしいぞ。こんなにオレが言ってるのに。
リオやエステードさんに向けた不機嫌顔とか敵意とか、あれは何処に行ったんだ?
サポキャラだから、天守キャラには悪感情を向けないように設定されてるのか?
ハッキリした『害意』じゃなくてもいいから、ちょっとはムッとして貰わないと予定が狂うって言うか。せめてオレと『言い争う』程度にはなって貰わないと……。

天守同士の争いに、ならないじゃんか。

オレ……ケンカ仕掛けるの、下手過ぎか?
こんな風に小賢しく考えてないで、もっと激昂すべきだったのか。でも今更急に激怒とか出来ないぞ。
あぁオレがモブだからかっ。
天守である前にモブキャラだから、自力じゃイベントは起こせないのか。



オレがそうやって考えてたら。
横からフィロウが仮メリクルを捕まえた。


「つまり? メリクル…さん、じゃないって事だよね?」

ワナワナしたフィロウが仮メリクルの胸元を掴み上げる。
兄であるエステードさんを侮辱された怒りの所為か、意外なくらいに力強い。
仮メリクルがちょっと爪先立ちになってる。


これが身長差、か……!


「黙って聞いてればお兄さんの事、好き勝手に暴言吐いといて……さっきもそうだけど……、本物の恋人でも許せないのに…」
「キミには関係の無い事だ。」
「イグゥにも嫌がられてるの、分かるでしょ。偽者の手助けは要らないって言ってるんだよ。早く代わって……偽物メリクルは退場して!」
「メリクルは俺だ!」
「違うっ! 本物のメリクルさんを返してあげて……っ!」
「なんだと……っ! っぐ…ぅ………っ!」

声を荒げながら睨み合うフィロウと仮メリクル。
二人とも瞳に天守のシルシが浮かび上がってる。

それってつまり、今、天守同士の争いをしてるってワケで……。


そうか、これが。
モブ天守と、モブじゃない天守との差、か……!
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

伝説のドラゴン 世界をかけた戦い~記憶がない俺が天龍から授かった魔法で無双になる?!~

杏子
ファンタジー
俺はふと目が覚めると、崖の下に寝転がっていた。 頭が割れるように痛い。 『いって~······あれ?』  声が出ない?!! 『それよりも······俺は·········誰?』  記憶がなかった。  振り返るとレインボードラゴン〈天龍〉が俺の下敷きになっていたようで気を失っている。 『こいつのおかげで助かったのか?』  レインボードラゴンにレイと名付け、狼の霊獣フェンリルも仲間になり、旅をする。  俺が話せないのは誰かが魔法をかけたせいなのがわかった。 記憶は?  何も分からないまま、なぜか魔法が使えるようになり、色々な仲間が増えて、最強(無双)な魔法使いへと成長し、世界を救う物語です。

晴れの日は嫌い。

うさぎのカメラ
BL
有名名門進学校に通う美少年一年生笹倉 叶が初めて興味を持ったのは、三年生の『杉原 俊』先輩でした。 叶はトラウマを隠し持っているが、杉原先輩はどうやら知っている様子で。 お互いを利用した関係が始まる?

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

処理中です...