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第六章 ~ゲームと違ってオレのハーレムは自動生成されない~

俺が妻になる前日の話・1 $ルサー$

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特にどうって事の無ぇ、いつも通りの平日の夕方。
昼過ぎに対応した揉め事の報告書を提出して、俺は定時に詰め所を出た。

家まで帰るいつもの道を、いつもより早足で歩く。
今日これから急ぎの用事があるってワサじゃねぇ。
ただ会いたかった。
早く帰ってイグザの顔が見たかった。


……同じ家で一緒に住んでンのに「会いたい」とか、俺自身でも、相当イカレてるって自覚はある。
今からこんな調子で、ハーレムの本妻業がちゃんと出来ンのかって心配もある。

だが今日は仕方ねぇ。
どうしても気分が落ち着かない。


明日は、俺の休みで。
二人程、挨拶をして。

教会で、イグザのハーレムを登録する日だから。





「ルサーっ、お帰り~っ。」

玄関に入った途端、イグザが飛んで来た。
それと、食欲をそそる凄く良い匂いも。


「あぁ、ただいま。……いい匂いだな。」
「しっかり煮込んでるからだな。今日はビーフシチューだぞ。」
「そいつァ楽しみだ。」

喜んだ俺を見たイグザは嬉しそうに顔を綻ばせた。

天守のシルシがあると分かったのに、イグザは変わらず食事を作ったり家の掃除をしたり、何かと甲斐甲斐しい。
本来なら料理や掃除に限らず、妻の方から何かと天守の世話をするモンだってのに、すっかり逆になっちまってるな。
今日も、手間が掛かるだろうに、俺の好物を用意してくれたようだ。

肉が好物だってのは間違いじゃねぇが、俺はイグザの作る物なら何だって好物だぞ?


「もうすぐ出来るぞ。ルサー、着替えといで。」
「あぁ、そうだな。」


恥ずかしいのにそれ以上の幸せな気分で俺は、二階にある自分の部屋へ上がった。
脱いだ上着をそこら辺に放り投げ、着替えを掴んで浴室に降りる。
下着もタオル類も、イグザが脱衣室に用意した『専用の置き場』に置いてあるから、他に必要な物は無ぇ。

来てる物を脱衣カゴに突っ込み、さっさと浴室に入った。
汗を流す為に……いや。浮付き過ぎな気分を落ち着ける為に、シャワーを捻る。
一昨日の事なんぞを思い出しながら、俺はいつも通り身体を洗い始めた。



あの日の会食で、カシュとビリーが二人揃ってイグザの妻になる事に決まり、その場で『顔合わせ』も済ませた。
ビリーは見た目の割に礼儀正しそうな男だったから、俺や他の妻とも上手くやって行けるだろう。それに案外、子供っぽいと言うか、可愛げもあった。
もちろんカシュもだ。見た目も人懐っこいタイプだから、余計な心配は要らねぇな。

これで、俺との挨拶が終わってねぇのは、明日会う予定の二人……リッカとユーグだけだ。


そう考えて、俺はふと、身体を洗う手を止めた。
別に不満を感じたからじゃねぇ。
イグザを信頼してる。
イグザがそうしてぇンなら、俺に反対する気も無い。
だが……心配になる気持ちが込み上げて来る。


ハーレム設立の手続きを急ぐのはイグザの希望があったからだ。

設立に関わった事が無ぇから俺もハッキリとは言えねぇが、通常なら設立の手続きをするまでに、もう少し期間が必要になるだろう。
妻になる男の親との絡みとか。妻同士のルールとか。天守が何処に住んで、妻とは何処でどう過ごすとか。神様から赤ん坊を授かる事を考えりゃ、宮殿の事も決めといた方が良い。その辺りを詰めてたら日にちなんぞ、あっという間に過ぎちまうだろうからな。

だがイグザには、急いで天守になりたい事情があった。
イグザが単なる資格持ちじゃなく、実際に天守になって、やりたい事があった。


一昨日、家に帰って来てから。
本妻になる予定の俺に、イグザが話してくれたんだが……。リオと、リッカとユーグは、イクシィズのハーレムと浅からぬ因縁があった。

リオは王都で、金獅子ハーレムの宮殿に連れてかれ、そこで散々な目に遭った挙句に多額の借金を背負わされたらしい。
宮殿であった事の詳細までは聞いてねぇが胸糞悪い想像はつく。タチでもリオはあの美貌だからな。
イグザは天守になった後、リオの事について『天守同士』で話を付けたいようだ。

リッカとユーグは、イクシィズの妻……らしい。
他の天守の妻に手ぇ出すとか、ウッカリ叱りそうになっちまった。
どうやらこの町にあったハーレムは随分と前に解散になってたらしい。だのに二年前、妻達の知らねぇ内に『休止状態』ってヤツに戻されてたそうだ。その後も何の報せも無いんだと。
つまり今のままだと、この二人を妻として登録は出来ねぇ。
それをどうにかする為にも、イグザが天守になる必要がありそうだ。


今後、イクシィズや金獅子ハーレムに関わる事になるって、申し訳なさそうな顔をするイグザに。俺は許しを出した。
「俺の事で頭に血が昇らねぇよう、ちゃんとイグザが気を付けるなら許す」……と。
正直に言えば、俺はあのハーレムに関わりたくねぇし、イグザにも微塵も関わって欲しくはねぇ。

イグザを信頼してる。
何かしら、ちゃんと考えがあンだろう。
イグザは一般的に言われてる『タチっぽい短気さ』で出来てるような男じゃねぇ、って事も分かってる。

それでも……天守同士で対面したら、どうなるかは分からねぇだろ。
俺の過去の事もイグザには話してあるんだから。
つい、カッとならねぇか。
頭に血が昇って、イグザが傷付くような事にならねぇか。

本妻になる俺が心配すンのも、仕方ねぇだろ……。
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