319 / 364
第六章 ~ゲームと違ってオレのハーレムは自動生成されない~
俺が妻になる前日の話・1 $ルサー$
しおりを挟む* * *
特にどうって事の無ぇ、いつも通りの平日の夕方。
昼過ぎに対応した揉め事の報告書を提出して、俺は定時に詰め所を出た。
家まで帰るいつもの道を、いつもより早足で歩く。
今日これから急ぎの用事があるってワサじゃねぇ。
ただ会いたかった。
早く帰ってイグザの顔が見たかった。
……同じ家で一緒に住んでンのに「会いたい」とか、俺自身でも、相当イカレてるって自覚はある。
今からこんな調子で、ハーレムの本妻業がちゃんと出来ンのかって心配もある。
だが今日は仕方ねぇ。
どうしても気分が落ち着かない。
明日は、俺の休みで。
二人程、挨拶をして。
教会で、イグザのハーレムを登録する日だから。
「ルサーっ、お帰り~っ。」
玄関に入った途端、イグザが飛んで来た。
それと、食欲をそそる凄く良い匂いも。
「あぁ、ただいま。……いい匂いだな。」
「しっかり煮込んでるからだな。今日はビーフシチューだぞ。」
「そいつァ楽しみだ。」
喜んだ俺を見たイグザは嬉しそうに顔を綻ばせた。
天守のシルシがあると分かったのに、イグザは変わらず食事を作ったり家の掃除をしたり、何かと甲斐甲斐しい。
本来なら料理や掃除に限らず、妻の方から何かと天守の世話をするモンだってのに、すっかり逆になっちまってるな。
今日も、手間が掛かるだろうに、俺の好物を用意してくれたようだ。
肉が好物だってのは間違いじゃねぇが、俺はイグザの作る物なら何だって好物だぞ?
「もうすぐ出来るぞ。ルサー、着替えといで。」
「あぁ、そうだな。」
恥ずかしいのにそれ以上の幸せな気分で俺は、二階にある自分の部屋へ上がった。
脱いだ上着をそこら辺に放り投げ、着替えを掴んで浴室に降りる。
下着もタオル類も、イグザが脱衣室に用意した『専用の置き場』に置いてあるから、他に必要な物は無ぇ。
来てる物を脱衣カゴに突っ込み、さっさと浴室に入った。
汗を流す為に……いや。浮付き過ぎな気分を落ち着ける為に、シャワーを捻る。
一昨日の事なんぞを思い出しながら、俺はいつも通り身体を洗い始めた。
あの日の会食で、カシュとビリーが二人揃ってイグザの妻になる事に決まり、その場で『顔合わせ』も済ませた。
ビリーは見た目の割に礼儀正しそうな男だったから、俺や他の妻とも上手くやって行けるだろう。それに案外、子供っぽいと言うか、可愛げもあった。
もちろんカシュもだ。見た目も人懐っこいタイプだから、余計な心配は要らねぇな。
これで、俺との挨拶が終わってねぇのは、明日会う予定の二人……リッカとユーグだけだ。
そう考えて、俺はふと、身体を洗う手を止めた。
別に不満を感じたからじゃねぇ。
イグザを信頼してる。
イグザがそうしてぇンなら、俺に反対する気も無い。
だが……心配になる気持ちが込み上げて来る。
ハーレム設立の手続きを急ぐのはイグザの希望があったからだ。
設立に関わった事が無ぇから俺もハッキリとは言えねぇが、通常なら設立の手続きをするまでに、もう少し期間が必要になるだろう。
妻になる男の親との絡みとか。妻同士のルールとか。天守が何処に住んで、妻とは何処でどう過ごすとか。神様から赤ん坊を授かる事を考えりゃ、宮殿の事も決めといた方が良い。その辺りを詰めてたら日にちなんぞ、あっという間に過ぎちまうだろうからな。
だがイグザには、急いで天守になりたい事情があった。
イグザが単なる資格持ちじゃなく、実際に天守になって、やりたい事があった。
一昨日、家に帰って来てから。
本妻になる予定の俺に、イグザが話してくれたんだが……。リオと、リッカとユーグは、イクシィズのハーレムと浅からぬ因縁があった。
リオは王都で、金獅子ハーレムの宮殿に連れてかれ、そこで散々な目に遭った挙句に多額の借金を背負わされたらしい。
宮殿であった事の詳細までは聞いてねぇが胸糞悪い想像はつく。タチでもリオはあの美貌だからな。
イグザは天守になった後、リオの事について『天守同士』で話を付けたいようだ。
リッカとユーグは、イクシィズの妻……らしい。
他の天守の妻に手ぇ出すとか、ウッカリ叱りそうになっちまった。
どうやらこの町にあったハーレムは随分と前に解散になってたらしい。だのに二年前、妻達の知らねぇ内に『休止状態』ってヤツに戻されてたそうだ。その後も何の報せも無いんだと。
つまり今のままだと、この二人を妻として登録は出来ねぇ。
それをどうにかする為にも、イグザが天守になる必要がありそうだ。
今後、イクシィズや金獅子ハーレムに関わる事になるって、申し訳なさそうな顔をするイグザに。俺は許しを出した。
「俺の事で頭に血が昇らねぇよう、ちゃんとイグザが気を付けるなら許す」……と。
正直に言えば、俺はあのハーレムに関わりたくねぇし、イグザにも微塵も関わって欲しくはねぇ。
イグザを信頼してる。
何かしら、ちゃんと考えがあンだろう。
イグザは一般的に言われてる『タチっぽい短気さ』で出来てるような男じゃねぇ、って事も分かってる。
それでも……天守同士で対面したら、どうなるかは分からねぇだろ。
俺の過去の事もイグザには話してあるんだから。
つい、カッとならねぇか。
頭に血が昇って、イグザが傷付くような事にならねぇか。
本妻になる俺が心配すンのも、仕方ねぇだろ……。
0
お気に入りに追加
675
あなたにおすすめの小説
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
四大精霊の愛し子はシナリオクラッシャー
ノルねこ
BL
ここはとある異世界ファンタジー世界を舞台にした、バトルあり、ギャルゲー・乙女ゲー要素ありのRPG「最果てに咲くサフィニア」、通称『三さ』もしくは『サン=サーンス』と呼ばれる世界。
その世界に生を受けた辺境伯の嫡男ルーク・ファルシオンは転生者ーーーではない。
そう、ルークは攻略対象者でもなく、隠しキャラでもなく、モブですらなかった。
ゲームに登場しているのかすらもあやふやな存在のルークだが、なぜか生まれた時から四大精霊(火のサラマンダー、風のシルフ、水のウンディーネ、地のノーム)に懐かれており、精霊の力を借りて辺境領にある魔獣が棲む常闇の森で子供の頃から戦ってきたため、その優しげな相貌に似合わず脳筋に育っていた。
十五歳になり、王都にある王立学園に入るため侍従とともに出向いたルークはなぜか行く先々で無自覚に登場人物たちに執着され、その結果、本来攻略対象者が行うはずのもろもろの事件に巻き込まれ、ゲームのシナリオを崩壊させていく。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!
慎
BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥
『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。
人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。
そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥
権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥
彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。
――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、
『耳鳴りすれば来た道引き返せ』
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる