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第六章 ~ゲームと違ってオレのハーレムは自動生成されない~
俺が妻になる前日の話・2 $ルサー$
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ついつい考え事をしちまった割に、手は習慣通りに動いてたようだ。
さほど時間も掛からずに身体を洗い終えた。
浴室から出て、台所でイグザに声を掛けてから居間に移動した。
長ソファに腰を下ろした頃、グラスを手にしたイグザが俺を追い掛けて来た。
「もう大体は出来てるけど、ちょっと休んでから御飯にしよっか。」
「あぁ……そうだな。」
イグザは俺の隣に腰掛ける。
いつもだったら食事前にサカらねぇように言ってやる所だった。
だが今日は何だか、俺と同じようにイグザも落ち着かねぇ様子だ。
「いよいよ、明日か……。」
平静そうに言う声がいつもと違ってるように聞こえる。
やや前のめりになってる姿勢が心なしかソワソワしてる風に感じる。
既に身体はくっ付いてるってのに、もっとイグザを感じたくて、俺はイグザに体重を少し預けてみた。
名前を呼んで抱き寄せられるのが心地良くて堪らねぇ。
「オレ、凄いドキドキしてる。」
「……俺もだ。」
「自分が言い出して急いだクセにさ……。何か見落としてるんじゃないかって、今も凄い心配になってる。」
「イグザが気弱になってンのも珍しいな。……気ィ付けて、それでも見過ごしたなら仕方ねぇ。」
ハーレムが現実味を持ち、いよいよ明日って時だ。
これで大丈夫かって不安が湧いて来るのも当然だろう。
イグザでもこんな風になるのかって思えば、どうしようもなく可愛く思えて、愛しさが込み上げて来る。
俺も念の為。明日、教会でやる予定の手続きについて思い返した。
妻になる手続きでは、教会から国民登録を確認される。
普通に暮らしてる奴なら特に問題にはならねぇ。住所の登録を誤魔化して逃げ隠れするような犯罪者でなければ、な。
ただ単に、他所のハーレムと重複して登録する事の無ぇように、だ。
俺の国民登録の方は問題無いハズだ。
ノマルの町に来て数年が経ってからだったが、俺はここで国民登録をしてある。
ルベロが親父……いや、リスタニア国王から離籍届を預かって来てくれてな。あぁ、離籍届ってのはつまり、俺がリスタニアの王族から外れるって内容の紙だ。それは同時に、俺がリスタニア国からも離れるって証明にもなってた。
それを使って俺はノマルの町に国民登録をして、ついでに名前も変えた。ルサージュから、ルサーに。
元の名前が綺麗に消えるワケじゃねぇが、吹っ切るのに必要だったからだ。
ハーレムの設立とは別に、妻も書かなきゃならねぇ書類がある。
妻をハーレムに登録する際、必要になる書類。
俺は昔、それに幾つか書き込んだ経験があった。
イクシィズの金獅子ハーレムに加入させられる時の、忌々しい記憶だがな。
あん時はまだ十二歳だった。
だから通常の加入届じゃなく、将来の加入予約みてぇな書類を書いた気がする。
天守に会う前に宮殿を出されちまったから、俺が正式な加入届を見る事は無かった。
「お腹……空いて来た。」
「そろそろメシにすっか。」
力の抜けたイグザの笑顔に、俺も笑って返す。
大した話をしたワケでもねぇのにだいぶ落ち着いたようだ。
「そうだな、そうしよう。そんで、ご飯の後はルサーが食べたい。」
「……っ、へっ、変な言い方をするな、オヤジかっ。」
悪戯っぽい顔で言われて、咄嗟に妙な声を出しちまう所だった。
慌ててイグザを叱ってみたものの、効果があるようには見えなかった。
赤くなりそうな顔を隠す為に、俺はイグザより先に立ち上がる。
その癖、イグザに触りたくて手を差し出した。
「ほら、さっさと立て。せっかくの料理が冷めちまうぞ?」
ニヤリと唇の片方だけを吊り上げて見せる。
この程度の事で喜ぶイグザが可愛くて堪らねぇ。
明日……恐らく夕方辺り。俺はイグザの妻になる。
つい最近、恋人になったばかりだってのに、この俺が。ハーレムに入る。
傷付けられたあの頃なら、とても考えられなかった事だ。
だからってワケでもねぇんだが今日は、今はまだ恋人のイグザと……俺の可愛いオトコと、ゆっくり過ごしたかった。
晩飯を食って。
暖かい紅茶を飲みながら。
近い内にコーヒーミルを買いに行こうって。
……普通に、喋ってたンだがなぁ。
長ソファで身体をくっ付けて座った時点で気付け、って話だな。俺が悪い。
いや……期待してなかった、とは言えねぇしな。
シャワーで軽く汗を落とすだけのハズが、シッカリ身体を洗っちまってるし。
「ルサー。」
こうやって名前を呼ばれたら。
切なそうに見詰められて、視線を逸らせるワケが無ぇ。
「ルサー。」
「ぃ、グザ……。」
イグザに触られてる耳が擽ったい。
指先が髪の中に潜り込んで来る。
男らしく大きな手で後頭部を支えられ、ゆっくりと顔を寄せて来るイグザに……。
俺は目を閉じた。
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