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第六章 ~ゲームと違ってオレのハーレムは自動生成されない~

エステードがアレやコレやの話・8 $ルサー$

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全く身にならねぇ意見交換会がようやく終わった。
王都の連中を、団長と同僚二人が詰め所の裏口へと案内してやる手筈だ。

アチラさんはまだ文句を言い足りねぇ様子だった。
歩きながらまた何か言い出しそうだが、あの二人は俺と比べりゃ、遥かに穏やかな性格だから大丈夫だろう。
変に絡まれても、カッとなって言い返したりはしねぇハズだ。

教会まで送ってやる為に用意した馬車を、団長は、わざわざ裏口に着けさせてた。
あの連中を詰め所の正面から出させる気は無ぇらしい。
馬車を使わせてやるのも恐らく、ノマルの町でウロチョロすんなって事だろ。
それに、普段は見掛けねぇ兵士が大勢ゾロゾロと歩いてンのは、町の住民が見たら「何か起きたのか」って不安に感じるだろうしな。




「ところで補佐、私は何か書いた方がいいですか?」
「ん~? 別に何もしなくてイイじゃん? 然るべくって、言ったじゃん。」
「……団長は、後で改めて、と…」
「そんなの、団長にさせればイイじゃん。あぁ見えて、あれで意外に……頼りになるトコあるし……。……あっ、時間っ。」

エステードは若干面倒くさそうだ。
軽い調子で答えてた補佐が、ハッとしたように時計を確認する。

団長を褒めてウッカリ恥ずかしくなっちまったんだろう。
職場内でしかも要職者同士だから配慮してンだろうが、隠さねぇでもイイのにな。


「もうこんな時間じゃん。ホントに勤務時間、終わりそうじゃん。じゃあもう……意見交換会でメチャクチャ疲れたし、参加メンバーはこっから休憩って事でいいじゃん?」
「いえ、私は特に、疲れては…」
「ぅ~ん、エステードは疲れてなくてもなぁ~。」

エステードに顔を向けた補佐が、微妙な表情を浮かべて視線を横に流す。
その先に居るのは、唇を噛んでワナワナ震えてるカシュだ。
まるで自分が責め立てられたように、カシュの顔色が良くねぇ。


「大丈夫ですよ、カシュ。」
「うぅ……。」

補佐の視線で気付いたエステードが肩に手を乗せると、カシュは申し訳無さそうに俯いた。
色々と言いてぇ所だったのを、カシュなりにずっと我慢してたんだろう。
俺も手を伸ばして、カシュの頭を撫でてやる。


「休憩室ならソファもあるし、とりあえずカシュ連れてってさ~、休んだらいいじゃん。エステード、お前もね? 何か飲んで落ち着くよ~に。」
「……はい、そうします。」
「さぁ~て、と。念の為、団長達の様子でも見に行こっかな~。……あ、お前らは時間になったら帰っていいじゃん。」

エステードが了承したのを確認して、補佐は会議室を出て行く。
……が。

補佐は廊下に一歩、足を踏み出した格好で振り返った。


「あ、忘れてたぁ~。ルサー、オトコ来てたぞ。」
「は?」

思わず変な声が出ちまった。

俺に言ってンだから、オトコってのはイグザの事なんだろうが……。
いつ頃の話だ? いつ来たんだ?
そもそも何でそれを補佐が知ってる?


「意見交換の途中でトイレ行ったじゃん? その時にたまたま見付けた~。待ってるように言っといたから、ルサー、迎えに行ってやればいいじゃん。」
「オイ、結構前からじゃねぇか。ったく……、一階フロアか?」
「王都兵士団がいたから、悪いんだけど詰め所の外~。だって、アイツらと鉢合わせとかしたら嫌じゃん? 見せてやる必要は無いじゃ~ん。」
「ルサーさん、私はカシュと休憩室に行きますから。呼びに行ってあげてください。何でしたら、休憩室に連れて来ても良いですよ。……補佐、良いですよね?」
「別にイ~んじゃね?」

意見交換の時からだと、結構な時間が経ってる。
待ってるように言われてンだったらイグザは恐らく、どっかの店に入ってたり、座れるような場所に移動したりもしてねぇだろう。
気を利かせてくれたエステードに感謝して、俺はイグザを呼びに行った。




   *   *   *




とりあえず詰め所の正面から出た俺の目に。
派手で浮付いた印象だが見栄えの良い若い男と一緒に居る、イグザの姿が見えた。
この二人の組み合わせで突っ立ってるのは、かなり人目を惹いてたようだ。

寄ってたかって囲まれてねぇのは、イグザと並んでる男がすげぇ遊び慣れてそうで、そこら辺のネコじゃ相手になるどころか返事もして貰えなさそうに見えるからだ。
自分の容姿にかなり自信を持ってる男しか、話し掛けられねぇだろうな。


「……なんだ。意外と近くに居たんだな。」
「ルサ~っ、迎えに来たぞっ。」
「……おう。」

イグザは俺にすぐ気付いて笑顔になった。
人から見られてる事なんぞ気にもしてねぇ、俺だけに向けた表情が擽ったい。
だがそれと同時に、俺はちょっとばかし面白くなかった。

最近のイグザは、人懐っこい笑顔の中にオトコくさい色気も混じるようになってる。
こうやってジロジロ見られるのも多くなっててな。

今みてぇに遠巻きで眺めるだけじゃなく、襲い掛かって来るネコもいるからよ。
もうちょい気を付けるよう、イグザにはハッキリ言ってやるべきか?


「あ、そうだ、ルサー。……えっとぉ、この人、オレの幼馴染みのビリー。そんで、カシュの恋人のヴィルでもある。」
「んん? ……あぁ、そうだったな。」

イグザから紹介されて、説明を聞いて思い出した。
そう言やぁ、カシュの恋人がイグザの幼馴染みだった、って話だったか。
想像してた人物像とはだいぶ違ってた所為で、内心かなり驚いた事は否めねぇ。

名前を思い出す前のイグザを「見覚えが無い」と言った件について、カシュは改めて詫びたい、とか言ってたが。俺が今更それを責めるツモリは無ぇ。
何か事情があったか、見間違いでもしたんだろう。
文句を言う権利があるとすればイグザ本人で、俺が言う事じゃねぇからな。


「ぁの……、よろしく…お願い、します……。」
「ん、おぉ…まぁヨロシク頼む。とりあえず中に入れ。奥に案内してやるから。」

団長や本部のタチ兵士を思い出すぐらい、見た目より礼儀正しく、気も弱そうだ。
穏やかそうな奴だから、コイツも休憩室に連れてってもいいだろう。

あぁ……だが。カシュの恋人だったな。
カシュが気落ちしてる姿を見ても、荒れずに居てくれりゃいいんだが……。
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