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第六章 ~ゲームと違ってオレのハーレムは自動生成されない~
エステードがアレやコレやの話・7 $ルサー$
しおりを挟む「私もハッキリ言いますけど、被害届を取り下げる気はありません。」
エステードはキッパリと言い放った。
アチラさん方は信じられねぇモンを見たように目を見開いた。
俺から言わせて貰えば、逆にどうしてエステードが言われるままに、被害届を取り下げるとか思えるんだか。
自分達に都合の良い発想しか出来ねぇにしろ、今までの口論を振り返りゃ、その先の展開や反応ぐらい見当が付きそうなんだがなぁ。
言う事を聞かせたきゃ、表面上だけでも穏便に進めるモンだろ。
「私の被害届がアレの処遇にどれだけ影響してるかは知りませんけど、都合が悪くて困ってるのなら、せめて謝罪ぐらいはするべきです。それすら無いのに、取り下げるなんてしませんよ。」
俺には、エステードがごく普通の事を言ってるように聞こえたんだが、アチラにはそうは聞こえなかったらしい。
口々に非難したり、罵りの言葉を吐いたりし出した。
さっきまでの会話レベルにすらなってねぇ、ほぼほぼ「被害者ヅラするな」「思い上がるな」「ふざけるな」の類似台詞ばっかりだ。
面倒だから割愛する。
ややしばらく、そんな風にザワザワした雰囲気が続いた。
エステードは落ち着かないって感じで自分の横髪を弄ってるが……あの様子はむしろ枝毛を探して時間を潰してるようだ。
かなり荒れ狂ってた俺の機嫌は、今は、だいぶ落ち着いて来てた。
恐らくエステードもだろう。
途中まで俺はアチラさんの態度……勝手な言いっぷりにかなりムカ付いてたんだ。
今更になって来るんだから、何かしらの進展でもあンのかと思いきや。まだ同じ事の繰り返し、蒸し返しだ。しかも謎の上から目線でよ。
……とは言え、だ。
余りにも予想を下回っての、グダグダな有り様を見たら。
根本的な考え方が余りにも違う所為か、コッチは冷静になるらしい。
つ~か、まだゴチャゴチャ言ってンのか。いつまで居る気だ、おい。
どうせこのまま平行線だろうからよ、さっさと帰りゃいいものを。
コッチの時間が勿体ねぇだろが。
「あ~、っと……。そろそろ話を纏めさせて貰っても……良いだろうか?」
無駄な時間がいつまで続くのかってウンザリして来た頃だ。
そっと機嫌を窺うような声で切り出したのは、今までずっと黙ってた、あんまり気が強くねぇウチの団長だった。
イラっとした空気のアチラさんが何か言うより先に、団長が言葉を続ける。
「そちらの希望としては、エステードに被害届を取り下げて欲しい。それが無理なら宥恕を求めたい。という事で良かっただろうか?」
「希望じゃなくて。指示だよ、指示。」
「それは、ちょっと……指示というのは、無理かなぁ、と。……別組織だからな。」
傲慢な物言いに対して、団長は気弱な口調で明確に否定した。
揚げ足を取られたとでも思ったか、アチラさんは眦を釣り上げる。
俺は俺で、ちょっとばかし驚いた。
団長の『纏め方』がだいぶ強引だったからだ。
アチラさんは気付いてるか知らねぇが、宥恕を求めたいって話は出てなかったろ。
「だったらアンタ、部下に指示しなよ。そいつ、当然の事も知らないようだから。」
「いや、それも……仕事上の話でもないので…そのぉ、ちょっと無理かなぁ、と。」
「無理なら黙ってろよ、役立たず。」
「ぅん、まぁそう…だな。その…気持ちは、分かる。だが……。こちらはそろそろ、終業時刻になるんで。申し訳ない。」
弱そうな口調で、申し訳無さそうな表情をする割に、内容は強気だった。
団長の台詞は要するに、執務時間が終わったらもう対応しねぇぞ、って意味だな。
まだ店内に残ってる客に「閉店時間だから帰れ」って言い放つ、不愛想な食い物屋の店主と同レベルだ。
いつもはもっと弱気だってのに珍しい。
そんなに定時で帰りてぇ用事でもあんだろか。
「そちらがエステードに被害届の取り下げを求めるのは、あの時の彼等の処罰がまだ決まっていないから……だろう? 決定が下るのに随分と時間が掛かっているようだ。」
「………。」
「この際、そちらが自発的に来たのか、上からの命令で来たのかはともかくとして。差し出がましくて申し訳ないんだが、今頃になってエステードがどうこうした所で恐らく、結論に影響は殆ど無いだろう。だから今更、被害届をどうこうと話す時間が勿体無いなぁ、と……思うわけなんだが。」
言い当てられたからか、思う所があるからか、アチラさんは口を閉ざした。
団長は途中からエステードを見て喋ってる。
「被害届の処理も含めて、この一件は『王都兵士団の賢明な判断に期待する』……という事で良いか?」
「……はい。言いたくはないですが、『然るべく』……ですね。」
仕方なそうにエステードが同意した。
エステードの反応を確認した団長は、補佐や俺達の様子も見た後、アチラさんに顔を向ける。
「じゃ、そういう事で。王都兵士団には後で改めて、こちらから、ちゃんと連絡しておく、という事で……今日は遠い所からわざわざ、お疲れ様。」
相手を促すように団長が立ち上がる。
これ幸いと、俺も見送る風を装って立ち上がった。
「あの、本当に……悪いんだが。そろそろ…俺の執務時間、終わるんで……。」
グチグチ言ってなかなか立たねぇ相手に、団長は身も蓋も無ぇ言い方で『お願い』した。
タチの攻撃性フェロモンを出せば早いだろうに、団長はチラッとも出さなかった。
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