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第六章 ~ゲームと違ってオレのハーレムは自動生成されない~
希望があれば聞かせてくれ
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エステードさんを迎えに来た領主家の馬車を見送ってから。
オレとルサー、ビリー、カシュは個室のある食事処に移動した。
ルサーとカシュが了承してくれたんで、今日は四人で、晩御飯を食べに来たんだ。
二人を家に招いてオレが何かを作るんでも良かったけどさ。
それだと、オレが食事を作り終わるまで何も始めれないからなぁ。
適当に料理を幾つか注文して。
最初に頼んだ飲み物が運ばれて来て。
食事が届くまで、ちょっと時間が空くだろうな~、ってタイミングで。
隣に座ったルサーがオレを突っついた。
「あ、うん……えっとさ。今日は、その……この四人で、改めてちゃんと話したくって、来て貰ったんだけど……さ。」
ちょっと緊張して、他の三人を見回すオレ。
オレ以外は落ち着いてるもんだ。
ルサーが穏やかに頷いて、先を促してくれる。
「えー、……このたび、ですね。オレに……ぁの、……天守のシルシがぁ、見付かりましてぇ……。それで、えっと……ハーレムを、作ろうと…思うんだけど……。」
「…ぷっ。……イグザ、お前……、緊張し過ぎだろぉが。」
「ヴィルからもう、大体の話は聞いてるからぁ、ソコは省いても大丈夫だよぉ?」
「………。」
企業の謝罪会見一歩手前、みたいなオレの言いっぷりに。
ルサーは吹き出して。
カシュは宥めるように微笑ってくれた。
ビリーは苦笑いだ。
「ルサーはぁ、もちろん妻になる、でしょっ?」
「ん、あぁ。出来れば本妻に、って考えてる。」
「なるほどね~。……で、ヴィル……あっ、ここではビリーの方がいいかな?」
「あぁ、いやいや、カシュはビリーを『ヴィル』って呼ぶんで大丈夫だぞ?」
オレにとっての大事なビリーは、カシュにとっての大事なヴィルだから。
そんな気を遣う必要なんか無いハズだろう?
きっとビリーだって、カシュがそうやって気遣うのは嬉しくないだろうからな。
「分かった、じゃぁ、それで。……ヴィルも、妻にしたいんでしょ?」
「そりゃ、もちろん。」
「うんうん、そうだよねぇ~。……それでね? 昨夜とか、一昨日とか……その件でヴィルと、話したんだけど……ね?」
そこで一旦、話を区切ったカシュが隣のビリーに視線を向ける。
ビリーもカシュを見て、ちょっとだけ照れたように口をキュッてした。
別に手を繋いだり身体を寄せたりしたんじゃなくても、その瞬間の二人に、なんだか甘い雰囲気が漂った。
何となくだけど、オレは気付いた。
こんな感じの遣り取りって、オレも、身に覚えがあるから。
だぶん、この二人……。昨夜か一昨日か……ゲフンゲフンっ。
ちょっと想像しそうになったオレは、慌てて瞬きして、気を引き締めて。
現実世界に戻って来た。
「イグゥ……。カシュと、話して……どう、したいか……。って、考えて…来た。」
「そっかぁ、それで……どうなんだ?」
「俺、イグゥの……妻、に……。……なりたい。」
「……! そ、そっ、そうか、ありがと、ビリーっ!」
思わずオレは立ち上がって、向かいの席にいるビリーの手を取った。
ぎゅって握ったらビリーは嬉しそうに微笑んでくれる。
それが嬉しくて、オレもヘラヘラした笑みが零れた。
「それじゃ、えっと……、えっと…」
「カシュ、の事なんだ…けど……。」
「そう、それっ。カシュは、どういう風にしたいんだ?」
そう、問題はそこだ。
ビリーがオレの妻になってくれた場合に、カシュがどうなるのか。
フィロウの部屋で、法律とか法律の詳解を読んだだけじゃ分かんなかった。
妻が他の男と肉体関係を持った際にはハーレムから追放出来るとか、相手の男に対して慰謝料を請求出来るとか、そんなのしか書いてなかったから。
考えてみたら、そもそもハーレムに入った妻に『天守以外の男』なんて、普通は有り得ない話だからな。
最初っから、そして今でも、そんな事態は想定されてないんだろう。
オレとしては……。オレがカシュをどうしたいのか、ビリーにカシュをどうして欲しいのか。自分でも自分の正直な気持ちが分かんない。
ビリーにオレ以外の『好きな人』がいるのは複雑な気もするんだけど、だからって二人に別れて欲しいとかじゃなくて。分かりやすく説明するなら嫉妬、って言葉が近いか……でも、なんか違うんだよ。
この場合の間男な立ち位置にいるカシュを、別にオレは怒ってなんかいない。
むしろオレ……カシュが泣くのは。泣かせるのは嫌だって、そんな風に思ってる。
だから、ビリーの言葉を、カシュの反応を、オレはジッと待った。
まずは二人の希望を聞きたくてさ。
二人が望む方向で、それをオレがヨシと出来るなら、それが一番だって思う。
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