上 下
288 / 364
第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~

もう忘れてもいいじゃない・6 $リオ$

しおりを挟む
「ご免な、今更になって、こんな話……。」

でも、これでもまだ話せてない事がいっぱいある。
ハーレムを追い出された後の話が。


それを話そうと思った時に、イグゥが静かだって気付いた。
静か過ぎる。
なんだか……怒ってるみたいだ。


「……イグゥ、怒ってるの?」

イグゥは黙って首を振る。
違うって伝えてるんだろうけど、喋ってくれない。


「なぁ、なんか言えよ。……呆れた、でも……何でもいいから。」

いつの間にかイグゥは拳を握り締めてた。
怒らないで欲しくて、おれはそっと片手を添える。
それがおれに出来る精一杯の甘えた仕草だ。

イヤだよ……お願いだから、黙らないでくれよ。


「リオ……。オレっ…リオ……、……抱…きたい…………。」

手を掴まえられる。
自分でもバカみたいに身体が緊張した。


ダキタイ……。抱き……、え、ちょっとっ!


「いっ、イグゥ、ダメ……っ、ここ、病院だぞっ。」

何でもいいから言えって、言ったけど!
そんな、いきなりそんなのダメだって!


「せめてギュッてしたい。なぁ、ソッチ向いちゃダメか?」

あ、……あぁ、ソッチの抱く、なら。まぁ……ヨシ。
凄いビックリして焦っちゃった。結構イグゥも動揺してるからいいか。



正面に向き直ってギュッってしたい、って。イグゥは必死に口説いて来る。
割といつもの感じ……よりも、ちょっと情けない感じで。
カッコ良くてドキドキさせてたイグゥも良かったけど、こんな一面も見せてくれるイグゥが……やっぱり好き、だなぁ。

自然に、そう思ったから。ちょっと力が抜けて。
抱き締めるぐらいならいいかな、って思ったから……



「へ、変な事しない…なら、いいよ。」
「リオ~っ!」
「…ぅわっ!」

もおぉっ、なんでベッドに押し倒してるんだよっ!
ただ抱き締めるんじゃなかったのかよ、勢い有り過ぎだってば!


「あ、ちょっと! ダメだって!」

本当にダメだからっ、病室だからっ。
これ以上の事シないから大丈夫とかじゃなくて。病室でこんな熱烈に抱っこするとか、それもダメなんだぞっ。
イグゥも分かってると思うけど、でもイグゥ……あんまり我慢が利かなさそう。


「ギュッてするだけ、抱き締めるだけだからっ。……あぁ落ち着く~。」
「コラぁっ、もうっ。……もぉ、……しょうがないなぁ。」

仕方なく……ホントだってば……仕方なく、イグゥに注意するのを諦めた。
おれの腕力じゃ、引き剥がすのは無理。ジタバタしてもただ疲れるだけだろうし。
諦めついでに。腕の中におれを閉じ込めてるイグゥの背中へ腕を回した。照れ臭いからなるべく、そっと。


でもなんか、こうしてると……おれも落ち着いて来たみたいだ。


「イグゥ。黙ってた事……許して、くれる?」

気になった事を素直に言えた。
怖いのは、イグゥを怒らせたまま、嫌われて、許して貰えない事だったんだ。


イグゥは本当に落ち着いたみたいで、穏やかな言葉でおれを許してくれた。
それだけじゃなく、イグゥは沢山の言葉でおれを慰めたり、励ましたり。
不安に感じてたおれの身体の事も、借金の事も、……根気良く、大丈夫だって、イグゥは伝えてくれた。
おれはイグゥの言葉だけで、それだけで充分嬉しかったんだ。




でも、それが、どういうワケか……。
たぶんあれ、怒涛の展開? っていうのか、な……?


……あのさ、おれも一応、ちゃんと聞いてたんだよ?
でもイグゥの話って、ちょっと難しい理屈で、魔法みたいで……。



何の話だ、って? おれの借金の話だよ。
んとさ、理由としては『宮殿の滞在費』なんだけど……イグゥが言うには、それっておれが払うものじゃないんだってさ。

おれも納得して払い続けてるんじゃない。
でもおれより、イグゥの方がメッチャ怒ってて。

ハーレムに文句言う、とか。逆に慰謝料を払わせる、とか。
そんな事を期待してるワケじゃないけど。


おれの為にイグゥがこんなに怒ってくれてるのが嬉しい。
呑気にそう思って喜んでたら。



「無理じゃない、リオ。……オレのハーレムに入ってくれ。」
「えっ?」

また……サラッとプロポーズみたいな事を。
だからぁ……もぉ~、……そういう大事な台詞は、サラッと言うな、って!

しかも、おでこにキスまでして。
だからぁっ、もぉっ。

まぁ……確かにおれって、改まってイザ! って感じになるの、苦手なんだけど。


「ハーレムに入って、オレの妻になって欲しい。リオを守りたいんだ、オレに守らせてくれ。イクシィズのハーレムから、リオを完全に離したい。……オレに、任せてくれないか?」

何度も守ってくれてるだろ。
おれの事、どんだけ守ってくれる気だよ……もぅ。



凄い堂々と説明するイグゥ。

法律の事とか、あんまり良く分かんないけどさ。
イグゥって……案外、インテリ系なトコ、あったりする?




「天守として、リオの夫として。ちゃんとした手続きでリオを解放したい。オレが代理人になって全部、キッチリ終わらせたい。……リオ……、オレの妻になってくれ。」


おれ……あれよあれよと、口説かれてる。



……あれ、ちょっと待てよ?
おれ、イグゥの妻になるとしたら……や、妻じゃなくても恋人でも、だけど。
抱き付くだけじゃなくって、もっと先もスる?

おれの後ろ、濡れないんだけど。
大丈夫、かな……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きな乙女ゲームの世界に転生したぞ!……ってあれ?俺、モブキャラなのに随分シナリオに絡んでませんか!?

あるのーる
BL
普通のサラリーマンである俺、宮内嘉音はある日事件に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 しかし次に目を開けた時、広がっていたのは中世ファンタジー風の風景だった。前世とは似ても似つかない風貌の10歳の侯爵令息、カノン・アルベントとして生活していく中、俺はあることに気が付いてしまう。どうやら俺は「きっと未来は素晴らしく煌めく」、通称「きみすき」という好きだった乙女ゲームの世界に転生しているようだった。 ……となれば、俺のやりたいことはただ一つ。シナリオの途中で死んでしまう運命である俺の推しキャラ(モブ)をなんとしてでも生存させたい。 学園に入学するため勉強をしたり、熱心に魔法の訓練をしたり。我が家に降りかかる災いを避けたり辺境伯令息と婚約したり、と慌ただしく日々を過ごした俺は、15になりようやくゲームの舞台である王立学園に入学することができた。 ……って、俺の推しモブがいないんだが? それに、なんでか主人公と一緒にイベントに巻き込まれてるんだが!? 由緒正しきモブである俺の運命、どうなっちゃうんだ!? ・・・・・ 乙女ゲームに転生した男が攻略対象及びその周辺とわちゃわちゃしながら学園生活を送る話です。主人公が攻めで、学園卒業まではキスまでです。 始めに死ネタ、ちょくちょく虐待などの描写は入るものの相手が出てきた後は基本ゆるい愛され系みたいな感じになるはずです。

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

残業リーマンの異世界休暇

はちのす
BL
【完結】 残業疲れが祟り、不慮の事故(ドジともいう)に遭ってしまった幸薄主人公。 彼の細やかな願いが叶い、15歳まで若返り異世界トリップ?! そこは誰もが一度は憧れる魔法の世界。 しかし主人公は魔力0、魔法にも掛からない体質だった。 ◯普通の人間の主人公(鈍感)が、魔法学校で奇人変人個性強めな登場人物を無自覚にたらしこみます。 【attention】 ・Tueee系ではないです ・主人公総攻め(?) ・勘違い要素多分にあり ・R15保険で入れてます。ただ動物をモフッてるだけです。 ★初投稿作品

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

噂の補佐君

さっすん
BL
超王道男子校[私立坂坂学園]に通う「佐野晴」は高校二年生ながらも生徒会の補佐。 [私立坂坂学園]は言わずと知れた同性愛者の溢れる中高一貫校。 個性強過ぎな先輩後輩同級生に囲まれ、なんだかんだ楽しい日々。 そんな折、転校生が来て平和が崩れる___!? 無自覚美少年な補佐が総受け * この作品はBのLな作品ですので、閲覧にはご注意ください。 とりあえず、まだそれらしい過激表現はありませんが、もしかしたら今後入るかもしれません。 その場合はもちろん年齢制限をかけますが、もし、これは過激表現では?と思った方はぜひ、教えてください。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

王道BL学園~モブに転生したボクは見ていたい!巻き込まれたくないのに!~

星崎 杏
BL
腐女子の私が死んで気がついたら、お気に入りのゲームのモブに転生した!? ボクは見ていたいだけなのに、巻き込まれるのはノーサンキューです! 念のため、R15にしています。過激なシーンは少なめにしたいです。

父が腐男子で困ってます!

あさみ
BL
父子家庭に育った尾崎リョウは16歳の誕生日に、若くてイケメンの父、宗親(ムネチカ)に腐男子である事をカミングアウトされる。 趣味に文句は言わないと思うリョウだったが、宗親のBL妄想はリョウの友人×リョウだった。 いつでも誰といても、友人×リョウで妄想されては聞かされるリョウは大迷惑。 しかも学校にいる美少年をチェックしては勧めてくる始末。 どう見ても自分と釣り合わない優等生や、芸能人の美少年まで攻キャラとして推してくる。 宗親本人は腐男子であるだけで、恋愛対象は美女だという事で、自分勝手にリョウだけを振り回す毎日。 友人達はみんな心が広く、宗親の趣味を受け入れたり、面白がったりで、今までよりもリョウの家に集まるようになる。 そんな中、宗親に感化されたかのように、自分も腐男子かもしれないと言いだす友人や、リョウの事を好きになったとストレートに伝えてくる友達まで現れてしまう。 宗親の思い通りにはなりたくないと思うリョウだが、友人達の事も気になりだして……。 腐男子の父親に振り回される、突っ込み系主人公総受けBLラブコメ。

処理中です...