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第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~

部外者は黙ってろ

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   *   *   *




お昼ご飯を食べ終えたリオが病室にいるって、病院の人に聞いた。
扉の前でオレは、自分の頬をピシャッて叩いて気持ちを切り替える。

オレが変な表情をしてたらリオがもっと不安になるだろ。
さっきの、ちょっとアレなメリクルは、何かの間違いだ。



コン、コンコン。

ノックの音に「どうぞ」って返事が来たのと同時に扉を開ける。
ベッドの上で膝を抱えてたリオは、オレを見て目を丸くした。


「イグゥ……、どうして…」
「もう来ないなんて言ってないぞ?」
「……イグゥっ!」

ちょっとオドケて言うオレに、身を乗り出したリオが腕を伸ばす。
駆け寄って捕まえたら、リオの身体はオレの腕にスッポリ収まった。


「ご免な、イグゥ……。」

オレの服をギュッて握るリオは、一旦退散する前よりも疲れて見える。
たぶん、一人になってから、ずっと。ツラい気持ちを抱えて、考え込んだり、後悔したりだったのかも。

もうちょい早く来れば良かった。


「オレも……ゴメン。」
「違う、イグゥは悪くないだろ。イグゥに言えない、おれが悪いんだから。」
「リオも、悪くない。」


焦って必死になると、オレは急に長文の饒舌になるキライがあるから。
注意して、なるべく短文で。正論をぶちかますような、勢いある台詞は控えるんだ。

実はこの期に及んで正直ノープラン。
実際にはどんな対応するのが正解なのか、オレは絶対の方法が分かんない。
イグザはそっち系の勉強、してないからな。
日本人時代のオレには、経験が伴わない単なる一般的な知識しか無いし。


「おれの事、怒ってないのか? ……おれ、何にも言わないで。」
「怒ってないぞ。話しては欲しい、けど……。」

また長文を並べ立てそうになったオレはどうにか踏み止まった。
抱き締めたリオの髪を撫でて自分の気持ちを落ち着かせる。
リオはゆっくり、オレの身体に凭れ掛かった。
病院の匂いに混じって、リオの香が僅かにして来て。
思いっ切り深呼吸しそうになったのを、再びオレはどうにか踏み止まる。




しばらくの間そうしてたら、やがて。
リオが身じろぎして、短く息を吐いた。

「なぁ、ちょっと……聞いてもいい?」
「ん、何だ?」
「ハーレムに入るの、タチとかネコとか関係無いって……ホント?」
「あぁ本当だ。法律書を読んだし、その解釈についても確認してある。ハーレム妻になるのに、属性は関係無いんだ。」
「じゃ、さ。その…例えば、だけど……。……き、清らかかどうか、って…」
「関係無いっ! まっっったくっ、関係無い、問題無いぞっ!」


思いっ切り断言するオレ。
だって今、言い難そうなリオの様子で、何となく分かったんだ。
リオの心に……幾つかある内の一つかも知れないけど、何が引っ掛かってたのか。
この流れだったら、どんなバカでも分かるだろ?

今、リオはそれを話そうかどうしようか、迷ってるのかも。
そう考えたら、オレがついリキんじゃうのも無理ないんだって。


「おれさ……。イグゥの事、好き…だよ……。」
「オレもリオが好きだ。リオに何があっても……妻にしたいって、思ってる。」
「イグゥ、ぁの……あのさ…」
「俺はお薦めしないな。価値が低すぎる。」


何かを告白しようとした、そのリオの発言を。
邪魔する人物が現れた。


いつ来たのか、出入口の近くにメリクルが立ってる。
無表情と微笑の中間くらいの、微妙に穏やかっぽい表情で。



……なんかまた、頭の奥がチリチリして来た。


「イグゥの知り合い?」
「……あぁ、えっと……。イクシィズって男が天守の、金獅子のハーレムで若守(わかもり)様って立場の人だ。」

リオに聞かれて、知り合いだって言い難いオレ。
メリクルの顔をした男は勝手に近付いて来て、オレのすぐ真正面に立った。ワザとらしく覗き込むように身体を折り曲げて、リオを見て来る。
オレは一歩前に出てその視線からリオを庇う。


「……ところで、今の発言は何のツモリだ?」
「新米の天守に大事な事を教えておこう。タチを妻にしても殆どポイントにならない。誰であろうと、タチなら獲得ポイントはネコ妻の半分だ。美人だからって何の加算もされない。」
「……話はそれだけか?」

いきなりゲーム説明みたいな発言をしだす、一応、メリクルっぽい男。
言い方が気に入らなさ過ぎて、ほんのちょっとも参考にしようって思えない。


仮メリクルの見下すような視線がオレを通り越してリオに向かう。

「そこの彼は、金や地位でハーレムに貢献出来そうにない。清らかですらないのに、何の価値が?」
「っ! 黙れ…っ!」

咄嗟に仮メリクルの襟元を掴んだ。
リオが息を呑む。
間近で見る仮メリクルの目は、動揺も反発も感じさせない。


「それ以上、リオを侮辱するな……。」
「ハーレムや妻に関して手助けするのがサポートキャラの役目だ。」
「余計なお世話だ、部外者は黙ってろ!」

荒ぶるオレ。
メリクルがオレに乗り移ったんじゃないか。


病室の扉まで仮メリクルを乱暴に引き摺ってく。


「オレは、自分の良心と法律は遵守するツモリだけど、暴言に従う気は無いぞ。妻にするかどうかは、本人とオレで話し合って決める。」
「俺に手伝って欲し…」
「無い。……出てけ。」

台詞に被せ気味で断った。
肩を竦めた仮メリクルがノブに手を掛ける。

「ハーレムの方、頑張れよ。」


去り際に仮メリクルが残した言葉は、いかにもゲームキャラの締め台詞っぽかった。
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