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第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~
ちょっとくらい髪が湿っててもいいじゃないか
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衣服が入ったクローゼットを引っ掻き回して大慌てで着替えを取り出す。
ココア色のタンクトップに、やや薄めな同系色でなんとなく古着感のある細身ズボン。アイボリー色の前開きシャツも手に取ったけど、ちょっと考えてやっぱり止めた。
エステードさんが居るんだから、本当はもっとちゃんとした格好するべきなんだろうけどさ。
暑いんだよ。今、オレ、凄く。
シャワーで暖まって出て来た上に、そっから更に体温が上昇するようなハプニングをやらかしたからさ。
そんなわけで身体がポカポカした状態なんで、今はシャツは無しだ。
ひょっとしたら後で着るかも知れないから、ベッドの上に放り投げとく。
ちなみに、オレを裏切ったバスタオルは部屋の中にあった。
ドアのすぐそば、床に落ちてたのを拾い上げて、背中から両肩を覆う。
花道を歩くプロレスラー気分でオレは、髪を乾かす為に脱衣所へ向かった。
* * *
「ルサー、エステードさん、お待たせっ。」
タオルで頑張って髪の水分を搾り取ってから、雑に乾かして。
気恥ずかしさを誤魔化すように、元気良くオレが飛び込んだ台所には、良い匂いが漂ってた。
オーブンの前でルサーが待ち構えてて、エステードさんは鍋を見守ってる。
クンクン……、熱したチーズの匂い。
これはもしかして……!
「ピザだ~っ。」
「アタリ。」
振り返ったルサーがニヤリと微笑う。
はしゃぐオレ、お子様。テンション超上がる。
地味~に初体験なんだよ、イグザでは。
ワクワクする、久々のピザ、凄いワクワクする。ジャンクフード、やっほぅ!
「早かったな、イグザ。ちゃんと乾かしたか?」
「まぁ、大体はな。」
ヘラヘラ笑うオレを見て何かしら感じたんだろう。
キュッと口元を引き締めたルサーがオレに手を伸ばす。
シッカリした男の手がオレの頭を撫でてから後ろ髪を掻き分けた。潜り込んで来た指に触られた部分がモゾモゾする。
「く…っふ、……ルサー、擽ったいって…」
「おい、髪……っ。まだ乾いてねぇだろがっ。」
「あれぇ? 大体乾かしたんだけどなぁ。」
「ちゃんと乾かせ、風邪ひいちまうぞっ。服だってそんな……薄着でよ。」
「だって暑いんだよ。」
「だってもクソもあるか。ンな事言ってて身体冷やしたらどうする。取り敢えず何か適当に、シャツでも羽織って来い。」
子供にするみたいな対応だ。オレ、子供扱いされてるぞ。
あんな……子供とは絶対しないようなことも何回もシてるのに。
「あの、ルサーさん。じゃれ合うのも結構ですが、鍋敷きを出してください。あとピザの方も、そろそろ良いんじゃないですか?」
「別にじゃれ合ってねぇっ。……ったく。」
舌打ちしたルサーが食卓テーブルに鍋敷きを置くと、その上にエステードさんが鍋を置いた。さっきから見守ってたやつだ。
中には煮込んだ肉とスープが入ってるっぽい。スープって言うよりか、汁が多めの煮込み肉って感じか。
「あ、イグゥ君。事後報告ですみませんが、台所を借りてます。」
「いやいや大丈夫、全然オッケー。」
「……おい、エステード。なんでイグザに言う?」
「普段、台所を使ってるのはイグゥ君だと思ったから、ですが。」
ルサーは料理が苦手だって、エステードさんも知ってるっぽい。
何か言い返そうとしたルサーは結局、無言でピザ用の大きな皿を手に取った。
「ルサーさんは料理をしないでしょう? 買って来た物を温めるか、小さく切るぐらいしかしないって言ってたじゃないですか。」
言いながらエステードさんは、買って来たハムを切り分け始めた。
意外に……って言い方も悪いんだけど、エステードさんの包丁使いが安定してる。
ちょっと悔しそうな表情のルサーがピザを皿に乗せ換えようとしてるのを、手伝おうとしたら。なんかムッとしたみたいで、断られて追い払われたオレ。
仕方なくエステードさんの隣に並ぶ。
「エステードさん、手伝うよ。養育所でご飯作ってたから、ある程度は出来る…」
「お前はちゃんと髪を乾かして来いっ。それか、……シャツを着て来い。」
手伝おうとしたのに、ルサーがあぁ……。
病弱なウェネット時代ならともかく、頑丈なイグザだぞ?
しかもこれから外出するんでもないし、自宅に居るんだからさ。そんなに心配しなくたっていいのに。
クスクスと楽しそうな笑い声を小さく零すエステードさん。
口元をそっと押さえてオレの方を見た視線は優しくて、珍しく……って言い方も悪いんだけど、柔らかな微笑が浮かんでる。
……あれ? なんか……こういう風に微笑ったエステードさんって、ちょっと、かなり色気あるかも。
いや、妻にしたいとか、好きとかって気持ちじゃないぞ。
ないけどさ……。普段とのギャップがある所為で、凄い色気だって錯覚する。
なんで普段のエステードさんって、あんなに色気無いんだろう。別にガサツなわけでもないのにな。
「イグゥ君、お手伝いは大丈夫ですよ。それより、髪の毛をちゃんと乾かして来てください。ルサーさんが心配してますから。」
「あーうん。……ん゛っ?」
なんか首筋の裏側にピリリッって奔る緊張感。
振り返ったら、ルサーがすっごい鋭い視線でコッチ見てた。
「わ、分かった。乾かして来る…、来るからっ。」
もしかしたらルサーには今オレが考えたことがバレたのかも。
何となくヤバそうな感じになるのも嫌だし、大人しく髪を乾かして来るか……。
ココア色のタンクトップに、やや薄めな同系色でなんとなく古着感のある細身ズボン。アイボリー色の前開きシャツも手に取ったけど、ちょっと考えてやっぱり止めた。
エステードさんが居るんだから、本当はもっとちゃんとした格好するべきなんだろうけどさ。
暑いんだよ。今、オレ、凄く。
シャワーで暖まって出て来た上に、そっから更に体温が上昇するようなハプニングをやらかしたからさ。
そんなわけで身体がポカポカした状態なんで、今はシャツは無しだ。
ひょっとしたら後で着るかも知れないから、ベッドの上に放り投げとく。
ちなみに、オレを裏切ったバスタオルは部屋の中にあった。
ドアのすぐそば、床に落ちてたのを拾い上げて、背中から両肩を覆う。
花道を歩くプロレスラー気分でオレは、髪を乾かす為に脱衣所へ向かった。
* * *
「ルサー、エステードさん、お待たせっ。」
タオルで頑張って髪の水分を搾り取ってから、雑に乾かして。
気恥ずかしさを誤魔化すように、元気良くオレが飛び込んだ台所には、良い匂いが漂ってた。
オーブンの前でルサーが待ち構えてて、エステードさんは鍋を見守ってる。
クンクン……、熱したチーズの匂い。
これはもしかして……!
「ピザだ~っ。」
「アタリ。」
振り返ったルサーがニヤリと微笑う。
はしゃぐオレ、お子様。テンション超上がる。
地味~に初体験なんだよ、イグザでは。
ワクワクする、久々のピザ、凄いワクワクする。ジャンクフード、やっほぅ!
「早かったな、イグザ。ちゃんと乾かしたか?」
「まぁ、大体はな。」
ヘラヘラ笑うオレを見て何かしら感じたんだろう。
キュッと口元を引き締めたルサーがオレに手を伸ばす。
シッカリした男の手がオレの頭を撫でてから後ろ髪を掻き分けた。潜り込んで来た指に触られた部分がモゾモゾする。
「く…っふ、……ルサー、擽ったいって…」
「おい、髪……っ。まだ乾いてねぇだろがっ。」
「あれぇ? 大体乾かしたんだけどなぁ。」
「ちゃんと乾かせ、風邪ひいちまうぞっ。服だってそんな……薄着でよ。」
「だって暑いんだよ。」
「だってもクソもあるか。ンな事言ってて身体冷やしたらどうする。取り敢えず何か適当に、シャツでも羽織って来い。」
子供にするみたいな対応だ。オレ、子供扱いされてるぞ。
あんな……子供とは絶対しないようなことも何回もシてるのに。
「あの、ルサーさん。じゃれ合うのも結構ですが、鍋敷きを出してください。あとピザの方も、そろそろ良いんじゃないですか?」
「別にじゃれ合ってねぇっ。……ったく。」
舌打ちしたルサーが食卓テーブルに鍋敷きを置くと、その上にエステードさんが鍋を置いた。さっきから見守ってたやつだ。
中には煮込んだ肉とスープが入ってるっぽい。スープって言うよりか、汁が多めの煮込み肉って感じか。
「あ、イグゥ君。事後報告ですみませんが、台所を借りてます。」
「いやいや大丈夫、全然オッケー。」
「……おい、エステード。なんでイグザに言う?」
「普段、台所を使ってるのはイグゥ君だと思ったから、ですが。」
ルサーは料理が苦手だって、エステードさんも知ってるっぽい。
何か言い返そうとしたルサーは結局、無言でピザ用の大きな皿を手に取った。
「ルサーさんは料理をしないでしょう? 買って来た物を温めるか、小さく切るぐらいしかしないって言ってたじゃないですか。」
言いながらエステードさんは、買って来たハムを切り分け始めた。
意外に……って言い方も悪いんだけど、エステードさんの包丁使いが安定してる。
ちょっと悔しそうな表情のルサーがピザを皿に乗せ換えようとしてるのを、手伝おうとしたら。なんかムッとしたみたいで、断られて追い払われたオレ。
仕方なくエステードさんの隣に並ぶ。
「エステードさん、手伝うよ。養育所でご飯作ってたから、ある程度は出来る…」
「お前はちゃんと髪を乾かして来いっ。それか、……シャツを着て来い。」
手伝おうとしたのに、ルサーがあぁ……。
病弱なウェネット時代ならともかく、頑丈なイグザだぞ?
しかもこれから外出するんでもないし、自宅に居るんだからさ。そんなに心配しなくたっていいのに。
クスクスと楽しそうな笑い声を小さく零すエステードさん。
口元をそっと押さえてオレの方を見た視線は優しくて、珍しく……って言い方も悪いんだけど、柔らかな微笑が浮かんでる。
……あれ? なんか……こういう風に微笑ったエステードさんって、ちょっと、かなり色気あるかも。
いや、妻にしたいとか、好きとかって気持ちじゃないぞ。
ないけどさ……。普段とのギャップがある所為で、凄い色気だって錯覚する。
なんで普段のエステードさんって、あんなに色気無いんだろう。別にガサツなわけでもないのにな。
「イグゥ君、お手伝いは大丈夫ですよ。それより、髪の毛をちゃんと乾かして来てください。ルサーさんが心配してますから。」
「あーうん。……ん゛っ?」
なんか首筋の裏側にピリリッって奔る緊張感。
振り返ったら、ルサーがすっごい鋭い視線でコッチ見てた。
「わ、分かった。乾かして来る…、来るからっ。」
もしかしたらルサーには今オレが考えたことがバレたのかも。
何となくヤバそうな感じになるのも嫌だし、大人しく髪を乾かして来るか……。
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