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第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~

変な夢を見た所為で置いてかれた

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   *   *   *



またオレは夢を見てた。
BLゲームの『ハーレムワンダーパラダイス』を遊ぶ、日本人ゲーマーな頃の夢。



「あ~、なんか……ミスったか? 気ぃ散ってたな、今どっちの選択したのか覚えてないぞ……。」

って言いながらも、そんなに深刻そうでもない日本人。
ゲーム画面ではアイテムを購入したっぽい表示の後、続いて『ハーレム宮殿に戻る』の行動が選択されて。キャラの立ち絵や背景を表示する為の画面中央部分が、真っ黒画面になってから、宮殿の入り口画像になった。


……買い物中に連打したんだな。
その勢いで、選ぶツモリの無い選択肢で決定ボタン押しちゃったか。ゲーマーなら誰もが『あるある』だろう。


「エンドレスモードって結構、作業ゲーだな。……ちょっとダルい。」

このモードで、日本人は完全に効率重視を選んだ。
通常シナリオで見れるイベントはワザワザ追わない。エンドレスでしか出ないキャラ、見れないイベントを中心に、通常シナリオではなかなか出現させ難いものを拾う方向でやってる。

リスタニア国の第二王子のイベント画像は、ハーレム入宮のと、誕生日の初回だけ。誕生日と同じ月に入宮させれば、後は用無しだ。
本妻システムを使って、リセット技にも手を出して、効率良く第一王子と交代。
第一王子のイベントの一つに、入宮後の一年間は発生しないものがある。だから第一王子はしばらく放置してていい。


……酷いぞ、色々。


「別に酷くない。一般的な方法だ。第二王子のイベント、少な過ぎだろ。」

ライバル天守と競うんじゃないから、ポイントより人数が重要。
無理してまでネームドキャラを妻にしなくてもいい。ぶっちゃけ、モブでいい。
とにかくハーレムを大きくする。馬鹿みたいな人数が条件の称号狙いだ。


「よ~し、ジャンジャン来~い。」

システムに表示されるモブ妻候補達を片っ端からモノにしてく。
ある程度ハーレムが大きくなってるからな。ここら辺はもう流れ作業的な。わんこそばを食べてるようなものだ。勝手にお椀に入って来る。
妻との『出逢い』の他、定期的な『逢瀬』もシステムが表示してくれる。


「あぁぁ……そう、だったかぁ? 作業感が凄くて飛ばしちゃったのか。」

ゲーム上での一日が終わり。画面の端にメッセージが幾つか届いた。
内容を確認した日本人の……イグザと違って端正な眉間に皺が寄る。

一つは、今日、デートの約束をすっぽかした事実を表示した文章。
もう一つは、他の町のハーレム妻から、久し振りに宮殿を訪れて欲しいってお強請りの手紙だった。
差出人は……。

「…ウェネット。……って、あれ? 妻からの手紙なんて機能、あったか?」

首を傾げた日本人。
ヘルプや機能一覧を確認して、特に見当たらないのが分かったら興味を失った。

「こっちから手紙を出すコマンドも無いし……。まぁいいか。今は気にしても仕方ない項目なんだろう。」



……バカだったなぁ。なんで、あんな男に、手紙なんか書いたんだろう。
死ぬまでの間に返事なんか一通も無かった。
読んでくれたかどうか、それも分かんない。
どうせこんな風に、大して気にしてくれないって。決まってるのに。
そんなゲームシステムなのも、分かってたのに。




この夢は忘れよう。
そう思いながら。オレの意識は……今のオレの現実世界へ。

ゆっくり覚醒してった。






   *   *   *






オレの部屋、オレのベッドに、オレ一人。


心の川柳を詠んで、ベッドで上半身を起こすオレ。
着たままで寝ちゃった服には、大分シワが寄ってた。
エステードさんを迎えに行く前に別な服に着替えた方が良さそうだ。

カーテンがしっかり閉じられてる室内は薄暗い。
心なしか凄く静かな感じもして……。


「あ、ヤバい……何時だっ?」

すっかり普っ通~に寝転がってるけどさ。
ホント、あの、今……何時だよ?


慌てて時計を見て。


オレはまた絶望した。



……十八時をとっくに過ぎちゃってるじゃんよおっ!!!



日中当番の兵士の就業時間は確か、九時から十八時までだったから完全に遅刻だ。
川柳なんか詠んでる場合じゃないぞ。
もう、服のシワとか気にしてられない。

外れたボタンとか、ズボンからはみ出したシャツとかを直すだけ直して、慌ててベッドから飛び降りた。
寝グセも付いてそうな髪を撫で付けながら、部屋を出ようとしたオレの視界に、チラッて。何かのメモ用紙っぽい物が。
扉に、挟まってた。

何となく嫌な予感がしながらメモを開いて。



「るっ、……ルぅサあぁ~~~っ!」

思わず大声が出た。
ソレは案の定、置手紙ってやつだった。
ルサーから、オレ宛に。


起こそうと思ったんだけど。かなりオレが寝不足なようだから。
一人でエステードさんを迎えに行くんだってさ。オレを残して。
ついでに晩御飯を何か適当に買って来る、ってさ。お持ち帰り注文ってやつだ。


つまり……。

「起こしてくれるって、言ったのに……。ルサァーっ!」

置いてかれた! オレ、置いてかれたぞ!


メモ紙を握り締めたまま部屋を飛び出したオレ。
もしかしたら、まだ間に合うかもって。近くにいるかもって。

だけどやっぱり。居間にも台所にもルサーは居ない。
キッチリ鍵が掛かってた玄関の外へ、道の方にまで出て探してみた。
どこにもルサーの姿は見付からなかった。




家の中にトボトボ戻って来たオレ。
自分の部屋に戻るのは寂しくて嫌で。居間の一人掛けソファで膝を抱える。
やたらションボリしちゃって、室内が暗いのに灯りを点けるのもメンド臭かった。

分かってるんだ。変な夢なんか見ちゃって、寝過ごした自分が悪いんだって。
でも……。せっかく、どこかに食べに行くって話、してたのにな。ルサーもエステードさんも、ガッカリしてるだろうなぁ。
たぶんルサーは、エステードさんにフィロウの話をする予定だろうに……。出入り鼻からオレがぶち壊しちゃってどうするんだよ、もうっ。


「……はぁ。電気……じゃなかった。灯り、点けるか。」

しばらくの間、暗い中でジッとしてたオレだけど。
もしルサーが戻って来て、家が真っ暗なのを見たら心配するかも知れない。
そう思って、部屋を明るくした。
明るくして見たら、オレ一人の居間は余計にガラ~ンって感じだ。


……なんでだろう? 今はやたらと寂しい。


「早く帰って来ないかなぁ。」

エステードさんが来るなら何か用意しときたいんだけどさ。
ルサーが何を買って来るかも分からないし。何を用意しようか、考え付かない。


「……あれだな。せめてシャワーでも浴びとこうかな。」

今のオレ、いかにも寝起きですって感じだぞ。
服はシワだらけ。寝グセ付き。目の下とか頬っぺたとか、なんかガビガビだ。

ちゃんとしなきゃ……。

ちゃんと……。


そうと決まればのんびりはしてられない。
顔をピシャッと叩いて、オレは元気良く浴室へ向かった。
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