264 / 364
第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~
変な夢を見た所為で置いてかれた
しおりを挟む* * *
またオレは夢を見てた。
BLゲームの『ハーレムワンダーパラダイス』を遊ぶ、日本人ゲーマーな頃の夢。
「あ~、なんか……ミスったか? 気ぃ散ってたな、今どっちの選択したのか覚えてないぞ……。」
って言いながらも、そんなに深刻そうでもない日本人。
ゲーム画面ではアイテムを購入したっぽい表示の後、続いて『ハーレム宮殿に戻る』の行動が選択されて。キャラの立ち絵や背景を表示する為の画面中央部分が、真っ黒画面になってから、宮殿の入り口画像になった。
……買い物中に連打したんだな。
その勢いで、選ぶツモリの無い選択肢で決定ボタン押しちゃったか。ゲーマーなら誰もが『あるある』だろう。
「エンドレスモードって結構、作業ゲーだな。……ちょっとダルい。」
このモードで、日本人は完全に効率重視を選んだ。
通常シナリオで見れるイベントはワザワザ追わない。エンドレスでしか出ないキャラ、見れないイベントを中心に、通常シナリオではなかなか出現させ難いものを拾う方向でやってる。
リスタニア国の第二王子のイベント画像は、ハーレム入宮のと、誕生日の初回だけ。誕生日と同じ月に入宮させれば、後は用無しだ。
本妻システムを使って、リセット技にも手を出して、効率良く第一王子と交代。
第一王子のイベントの一つに、入宮後の一年間は発生しないものがある。だから第一王子はしばらく放置してていい。
……酷いぞ、色々。
「別に酷くない。一般的な方法だ。第二王子のイベント、少な過ぎだろ。」
ライバル天守と競うんじゃないから、ポイントより人数が重要。
無理してまでネームドキャラを妻にしなくてもいい。ぶっちゃけ、モブでいい。
とにかくハーレムを大きくする。馬鹿みたいな人数が条件の称号狙いだ。
「よ~し、ジャンジャン来~い。」
システムに表示されるモブ妻候補達を片っ端からモノにしてく。
ある程度ハーレムが大きくなってるからな。ここら辺はもう流れ作業的な。わんこそばを食べてるようなものだ。勝手にお椀に入って来る。
妻との『出逢い』の他、定期的な『逢瀬』もシステムが表示してくれる。
「あぁぁ……そう、だったかぁ? 作業感が凄くて飛ばしちゃったのか。」
ゲーム上での一日が終わり。画面の端にメッセージが幾つか届いた。
内容を確認した日本人の……イグザと違って端正な眉間に皺が寄る。
一つは、今日、デートの約束をすっぽかした事実を表示した文章。
もう一つは、他の町のハーレム妻から、久し振りに宮殿を訪れて欲しいってお強請りの手紙だった。
差出人は……。
「…ウェネット。……って、あれ? 妻からの手紙なんて機能、あったか?」
首を傾げた日本人。
ヘルプや機能一覧を確認して、特に見当たらないのが分かったら興味を失った。
「こっちから手紙を出すコマンドも無いし……。まぁいいか。今は気にしても仕方ない項目なんだろう。」
……バカだったなぁ。なんで、あんな男に、手紙なんか書いたんだろう。
死ぬまでの間に返事なんか一通も無かった。
読んでくれたかどうか、それも分かんない。
どうせこんな風に、大して気にしてくれないって。決まってるのに。
そんなゲームシステムなのも、分かってたのに。
この夢は忘れよう。
そう思いながら。オレの意識は……今のオレの現実世界へ。
ゆっくり覚醒してった。
* * *
オレの部屋、オレのベッドに、オレ一人。
心の川柳を詠んで、ベッドで上半身を起こすオレ。
着たままで寝ちゃった服には、大分シワが寄ってた。
エステードさんを迎えに行く前に別な服に着替えた方が良さそうだ。
カーテンがしっかり閉じられてる室内は薄暗い。
心なしか凄く静かな感じもして……。
「あ、ヤバい……何時だっ?」
すっかり普っ通~に寝転がってるけどさ。
ホント、あの、今……何時だよ?
慌てて時計を見て。
オレはまた絶望した。
……十八時をとっくに過ぎちゃってるじゃんよおっ!!!
日中当番の兵士の就業時間は確か、九時から十八時までだったから完全に遅刻だ。
川柳なんか詠んでる場合じゃないぞ。
もう、服のシワとか気にしてられない。
外れたボタンとか、ズボンからはみ出したシャツとかを直すだけ直して、慌ててベッドから飛び降りた。
寝グセも付いてそうな髪を撫で付けながら、部屋を出ようとしたオレの視界に、チラッて。何かのメモ用紙っぽい物が。
扉に、挟まってた。
何となく嫌な予感がしながらメモを開いて。
「るっ、……ルぅサあぁ~~~っ!」
思わず大声が出た。
ソレは案の定、置手紙ってやつだった。
ルサーから、オレ宛に。
起こそうと思ったんだけど。かなりオレが寝不足なようだから。
一人でエステードさんを迎えに行くんだってさ。オレを残して。
ついでに晩御飯を何か適当に買って来る、ってさ。お持ち帰り注文ってやつだ。
つまり……。
「起こしてくれるって、言ったのに……。ルサァーっ!」
置いてかれた! オレ、置いてかれたぞ!
メモ紙を握り締めたまま部屋を飛び出したオレ。
もしかしたら、まだ間に合うかもって。近くにいるかもって。
だけどやっぱり。居間にも台所にもルサーは居ない。
キッチリ鍵が掛かってた玄関の外へ、道の方にまで出て探してみた。
どこにもルサーの姿は見付からなかった。
家の中にトボトボ戻って来たオレ。
自分の部屋に戻るのは寂しくて嫌で。居間の一人掛けソファで膝を抱える。
やたらションボリしちゃって、室内が暗いのに灯りを点けるのもメンド臭かった。
分かってるんだ。変な夢なんか見ちゃって、寝過ごした自分が悪いんだって。
でも……。せっかく、どこかに食べに行くって話、してたのにな。ルサーもエステードさんも、ガッカリしてるだろうなぁ。
たぶんルサーは、エステードさんにフィロウの話をする予定だろうに……。出入り鼻からオレがぶち壊しちゃってどうするんだよ、もうっ。
「……はぁ。電気……じゃなかった。灯り、点けるか。」
しばらくの間、暗い中でジッとしてたオレだけど。
もしルサーが戻って来て、家が真っ暗なのを見たら心配するかも知れない。
そう思って、部屋を明るくした。
明るくして見たら、オレ一人の居間は余計にガラ~ンって感じだ。
……なんでだろう? 今はやたらと寂しい。
「早く帰って来ないかなぁ。」
エステードさんが来るなら何か用意しときたいんだけどさ。
ルサーが何を買って来るかも分からないし。何を用意しようか、考え付かない。
「……あれだな。せめてシャワーでも浴びとこうかな。」
今のオレ、いかにも寝起きですって感じだぞ。
服はシワだらけ。寝グセ付き。目の下とか頬っぺたとか、なんかガビガビだ。
ちゃんとしなきゃ……。
ちゃんと……。
そうと決まればのんびりはしてられない。
顔をピシャッと叩いて、オレは元気良く浴室へ向かった。
0
お気に入りに追加
675
あなたにおすすめの小説
四大精霊の愛し子はシナリオクラッシャー
ノルねこ
BL
ここはとある異世界ファンタジー世界を舞台にした、バトルあり、ギャルゲー・乙女ゲー要素ありのRPG「最果てに咲くサフィニア」、通称『三さ』もしくは『サン=サーンス』と呼ばれる世界。
その世界に生を受けた辺境伯の嫡男ルーク・ファルシオンは転生者ーーーではない。
そう、ルークは攻略対象者でもなく、隠しキャラでもなく、モブですらなかった。
ゲームに登場しているのかすらもあやふやな存在のルークだが、なぜか生まれた時から四大精霊(火のサラマンダー、風のシルフ、水のウンディーネ、地のノーム)に懐かれており、精霊の力を借りて辺境領にある魔獣が棲む常闇の森で子供の頃から戦ってきたため、その優しげな相貌に似合わず脳筋に育っていた。
十五歳になり、王都にある王立学園に入るため侍従とともに出向いたルークはなぜか行く先々で無自覚に登場人物たちに執着され、その結果、本来攻略対象者が行うはずのもろもろの事件に巻き込まれ、ゲームのシナリオを崩壊させていく。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
至って平凡なハーレムのお話
える
BL
夢から醒めたら、世界線が変わってしまった主人公。
気になる人達と両片思いの状態でスタートとか、俺得でしかない!!
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
緩く書いていきます。
随時リクエスト募集、誤字脱字報告はどうしても気になった場合のみにお願いします。
~更新不定期~
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
アリスの苦難
浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ)
彼は生徒会の庶務だった。
突然壊れた日常。
全校生徒からの繰り返される”制裁”
それでも彼はその事実を受け入れた。
…自分は受けるべき人間だからと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる