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第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~

過去の自分を殴って止めたい

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急に意識が浮上した。
薄暗い部屋の中。あんまり見覚えの無い天井。


……えぇっと、ここは?


どうやらオレが寝そべってるのはベッドじゃないっぽい。
身体の上にはタオルケットが掛けられてるけど、下にシーツが無い。何より、ベッドよりちょっと硬くて、結構狭い感じで……。
たぶん、ソファだな。目の前に背凭れっぽい物が広がってる。

もぞもぞ身じろぎしてから、落ちないように、気を配りつつ寝返りを打つオレ。
反転して開けた視界に、凄い王子様なイケメンがいた。

「起き、た……っ、ィグゥ…」
「フィロウ……。オレ、寝ちゃってたのか。」

零れ落ちそうな雫を両眼一杯に溜めてるフィロウ。
ソファのそばに座り込んで、どうやらオレをずっと見てたようだ。

ここはフィロウの部屋で、オレは長ソファで寝ちゃってたっぽいな。
意識がハッキリしてくのと一緒に、自分が今こうなってる経緯も思い出した。


確かオレ、自分でも知らないでスパークリングワインをガブ飲みしたんだよな。
それで酔っ払って、着替えもしないで。しかも記憶が薄っすらだけど、隣に座ってたフィロウの膝枕で寝ようとした。そんな覚えが微かにある。

うわあぁぁ、最悪だなオレ。
でもちょっと言い訳させてくれ。
オレ、昨夜は三時間しか寝てなかったんだ。ルサーと……ルサーがちょっと怒るくらい、ネチっこくセックスしてたから。
しかもその状態でユーグとも何回かシて、旧帝国語の勉強でかなり頭も使ったし。
そこにアルコール入れたりしたら、そりゃ酔っ払いもするだろ。


…………ゴメン。オレが悪いって良く分かった。

泊まりに来たのに、勝手に酔っ払って、さっさと寝ちゃって。
今って何時だ? それも分かんない時間に、フラっと起きるって。酷いな。


「あー……悪い、フィロウ。」

自分が悪いってのは分かってる。それでもオレは。
アルコールをガブ飲みする原因になった、あのケーキを恨みがましく見ちゃう。


やっぱり報告した方がいいんじゃ。って考えてたら。


「ゴメン、イグゥ……ゴメンなさ…ぃ……っ。」

ポロポロ。


綺麗なフィロウの瞳から、涙が幾つも零れ落ちた。
泣きながら謝罪するフィロウ。デジャヴだ。

「フィロウの所為じゃない…」
「…違う。」

自分が油断した所為で……って、まだ罪悪感を感じてるのかと思って。
大丈夫だって伝える為に抱き寄せるオレの手を、フィロウは柔らかく拒否した。

「違うんだよ、イグゥ……。」
「ん? 何が…」
「ボクなんだ。」

唇を震わせて、ジッとオレを見るフィロウ。
何かを決意したような表情だ。

何度か呼吸を整えた唇がゆっくり動く。

「ぁの、薬……媚薬。ボクが…ケーキに……。」
「え゛っ。」

すっごく変な声、出た。
聞いた言葉はちゃんと認識出来たけど、理解が追い付かない。


額面通りに受け取ったらさ。
フィロウが仕込んだ、って話になるじゃないか。
で、それをオレが食べるって認識も、フィロウにはあったハズ。
それじゃつまり、フィロウはオレに媚薬入りケーキを食べさせる気だった、って話になるワケだろ。

「ぇ、嘘じゃ……、……冗談、か?」
「ぅううん、嘘じゃない。……ボクはイグゥに、こっそり、媚薬を……飲ませようと……した。」
「そぉ、か……。あぁ~……。」

思わず天を仰いだ。
片手で自分の顔、上半分を覆って目を瞑る。

「なん、で……。」

唸るように呟いたオレ。

なんで仕込みに気付いちゃったのか。なんでフィロウに聞かなかったのか。
とにかく、過去の自分を殴って止めたい気持ちで一杯だった。



オレ、……やっちゃったなあぁぁぁ!
居もしない悪人に警戒して、なんかソレっぽい台詞とか言ったりしたなぁっ!
ああぁぁ、もうっ、ホントっ、バカじゃないのか! カシュの短い髪を見て余計な深読みした、あれと同じ状況じゃないか!

フィロウがなんで、媚薬を使う対象にオレを選んだか。
オレ『が』良かったのか、オレ『でも』良かったのか。分かんないけど。

一つ、ハッキリ言える。

せっかくフィロウが誘ってくれたチャンスをふいにした!

全く気付かなかった上に、なんか明後日の方向で警戒し出して、酔っ払って寝るとか……、……うん、もう、無いな!
物凄いチャンスを踏みにじったな、オレ。


いや、お前、恋人いるだろ、何を言ってるんだ。……って感じだけど。
でもオレ結構、フィロウは気になってたんだってば。

フィロウはゲームの主人公キャラだし。ハーレムを作るし。ネームドキャラや他のモブ妻達との出逢いも、邪魔しちゃダメだって考えてたから。
モブですらないオレは一応、遠慮してたんだ。
実際のゲームとは年代が違うって分かってからもさ。
イイ感じの笑みとかはくれるけど一線引いてる感じだったし。それにやっぱりフィロウは天守でさ、凄い王子様っぽいイケメンだし。それに、オレに対しては『そんな感じ』が無かったからさ。

でも。フィロウが誘ってくれてたんなら。
乗りたかった、なあぁ……。



「……それ、は……、……ゴメンなさいっ。」
「あ、ぅん?」

フィロウの声で現実に戻って来た。
手をそっと外してフィロウを見たら、顔面蒼白になってる。

あれ? どうしたんだ? オレが怒ってるように見えてるのか?
むしろ怒るのはフィロウじゃないか? 恥をかかせたようなもんじゃないか?


「イグゥが、好き……だから。」

オレを見たまま、フィロウは力無く微笑った。


「……ゴメンね? 聞いてたんだ、ボク。イグゥも……天守だ、って。」
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