229 / 364
第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~
シルシがあっても欲しいものは手に入らない・1 $フィロウ$
しおりを挟む
きっと一目惚れだったんだ。……ぅううん、間違いなく、そう。
ボクがイグゥと初めて出会ったのは、もう二十日ぐらい前になるかな。
その日は何かの用事でたまたま出掛けてて、お昼をどうしようか、なんて考えながら町を歩いてたんだよね。
だけど何となく、それまで利用した事のある店に入る気がしなくて。
宿屋や食事処が建ち並んでるエリアを越えて、もっと先に進んで。
幾つかの屋台が出てる広場。
そこで……イグゥの後ろ姿を見た。名前も知らない頃の話だけど、イグゥって呼ぶね?
離れた位置だったのにイグゥから目が離せなかった。
百九十センチ後半……むしろ二メートル弱のボクが言ったらナンだけど。イグゥは背が高くて、だけど細っこいワケじゃなくて、立ち姿がピシッとしてて。
凄くカッコ良かった。ただ立ってるだけで堂々とした雰囲気があった。
どうして周囲の人達は誰も、あの人に注目してないのか、それが不思議で。
もしかしたら、明らかにネコ顔なのかも。
そう思いながら、ボクの足はもっと近くに寄ろうとして動き出す。
ボクはいつも全身を隠すようなフード付きの外套を着てたから、その時も、フードの奥からコッソリと覗き見るツモリでいた。
だけどイグゥは急に振り返った。
ボクは何もしてない。何も言ってない。
こんなに図体の大きくて、瞳も髪も何もかも黒いボクが、声なんか掛けられるわけが無いんだ。
なのにイグゥは振り返った。
イグゥの顔を見た時。イグゥがボクを見てるって思った時。
ドキドキを通り越して、ゾクゾクした。身体が熱くなる。
目も熱くて、視界がボンヤリして、せっかくのイグゥが良く見えない。
呼吸が……上手く息が吸えなくなった気もして来た。
こんなの初めてで分かんない。
一体ボクはどうしちゃったんだろう?
「あ、ぅううん。見てただけだから。」
貴方の事を見てた、だけ……。
反射的に口を突いて出た言葉がこれ、なんて酷過ぎだよ。
自分でも気持ち悪いんだから、きっと言われた方はもっと気持ち悪いよね。
ボクは逃げ出した。
どんな顔をされるか、目にするのが怖くて。大急ぎで自分の家まで逃げ帰った。
イグゥの事がずっと頭から離れないまま。
身体が熱くなったまま。
そして屋敷の使用人に発見された。
ボクの両瞳に、天守のシルシがある事を。ボクが天守だって事を。
きっとイグゥに欲情した所為だ。
天守の存在は喜ばしいもの。
タチだってリバだって、自分が天守になったら誇らしいはず。
だけどボクは泣きたくなった。
ボクが天守って事は、……万に一つのチャンスも奇跡も、無いって事だから。
ハーレムを作らなきゃならないのに、あの人はきっと妻にはならないから。
* * *
その翌日。
領主をしてるお父さんとお母さんは、天守のシルシが出たボクがハーレムを作るに当たってどうしたいか、ボクの意思を確認してくれた。
もしボクが望むなら、妻になり得る人達を集めて集団見合いをする事も出来るって。
有難いけどボクはそれを断った。出来るだけ自分で探してみる、って。
その言葉を信じてくれて、両親はボク抜きで妻を集めたり、ハーレム作りを一刻も早くって急かしたりせず。大々的に町の人達に広める事も控えてくれた。
推定十四歳頃から始めてた領主業の勉強は、一旦休止になった。
小規模ならともかく、ボクがハーレムを中規模以上にするツモリなら、領主業との掛け持ちは出来ないから。
翌々日からボクは何をするでもなく、ただ町に出てた。
妻になる人を探すべきなのに、声を掛ける相手が見付からない。
ボクの目はあの人……イグゥを探してたから。
フード付き外套を身に纏っても、ボクの大きな身体は隠せない。
知ってる人が見れば、あれは領主の息子だってすぐバレる。
誰も声を掛けて来ないのは、ボクが町の様子を眺めてるのは何かの仕事中か勉強中だから、とでも思ってくれてるんだよね。きっと。
その誤解も、いつまでもつかな。
ただ日数だけが過ぎてく。
あれ以来、イグゥを見掛けてないからかもだけど。
気持ちが沈んで。
前が見れない。
誰に対してかも分かんないような、いっつも後ろめたい気持ち。
責められてないのに、責められてる気分。
ねぇ……。……誰か…、………代わってよ……。
ボクに甘い両親と比べ、お兄さんだけはキッチリ厳しかった。進捗状況も聞かれたし、本とか資料とかを渡されたりした。
厳しいは……言い過ぎかな。世間一般的にはお兄さんの対応の方が普通だ。
天守のシルシがあるんだもん。いつ作るの? まだ妻が一人も居ないの? どうする気なの? ……ってなるよ。
領主の息子が領主業の勉強を休んでる。
実はシルシが見付かったらしい。
ハーレム作りが進んでないのに妻の募集をしてない。
その辺りの事が噂になって、領主の対応に疑問を持たれてから慌てても遅い、って。
分かってるよ、ボクだって。
お兄さんの言ってる事は正しい。
でも素直に言う事を聞く気になれないんだもん。
嫌いじゃないよ。ただ……羨ましいだけ。
だってお兄さんは、ボクの要らないものを何も持ってない。
高過ぎる身長も。真っ黒な毛も。子供っぽい顔も。領主の重圧も。天守の義務も。
それなのにお兄さんには、ボクの欲しいものが全部ある。
抱き締めて貰える程度にスラッとした身体。柔らかい色の髪。知性的な美形。家を出て、兵士業をして、一人暮らしで、ある程度の自由とお金。
結構前からお兄さんにオトコがいるのも知ってるよ。
「自分は領主の器じゃない」とか、「良い子でいるぐらいしか出来ない」とか言ってたのに。それでも愛されるんだから……お兄さんはいいよね。
ボクがイグゥと初めて出会ったのは、もう二十日ぐらい前になるかな。
その日は何かの用事でたまたま出掛けてて、お昼をどうしようか、なんて考えながら町を歩いてたんだよね。
だけど何となく、それまで利用した事のある店に入る気がしなくて。
宿屋や食事処が建ち並んでるエリアを越えて、もっと先に進んで。
幾つかの屋台が出てる広場。
そこで……イグゥの後ろ姿を見た。名前も知らない頃の話だけど、イグゥって呼ぶね?
離れた位置だったのにイグゥから目が離せなかった。
百九十センチ後半……むしろ二メートル弱のボクが言ったらナンだけど。イグゥは背が高くて、だけど細っこいワケじゃなくて、立ち姿がピシッとしてて。
凄くカッコ良かった。ただ立ってるだけで堂々とした雰囲気があった。
どうして周囲の人達は誰も、あの人に注目してないのか、それが不思議で。
もしかしたら、明らかにネコ顔なのかも。
そう思いながら、ボクの足はもっと近くに寄ろうとして動き出す。
ボクはいつも全身を隠すようなフード付きの外套を着てたから、その時も、フードの奥からコッソリと覗き見るツモリでいた。
だけどイグゥは急に振り返った。
ボクは何もしてない。何も言ってない。
こんなに図体の大きくて、瞳も髪も何もかも黒いボクが、声なんか掛けられるわけが無いんだ。
なのにイグゥは振り返った。
イグゥの顔を見た時。イグゥがボクを見てるって思った時。
ドキドキを通り越して、ゾクゾクした。身体が熱くなる。
目も熱くて、視界がボンヤリして、せっかくのイグゥが良く見えない。
呼吸が……上手く息が吸えなくなった気もして来た。
こんなの初めてで分かんない。
一体ボクはどうしちゃったんだろう?
「あ、ぅううん。見てただけだから。」
貴方の事を見てた、だけ……。
反射的に口を突いて出た言葉がこれ、なんて酷過ぎだよ。
自分でも気持ち悪いんだから、きっと言われた方はもっと気持ち悪いよね。
ボクは逃げ出した。
どんな顔をされるか、目にするのが怖くて。大急ぎで自分の家まで逃げ帰った。
イグゥの事がずっと頭から離れないまま。
身体が熱くなったまま。
そして屋敷の使用人に発見された。
ボクの両瞳に、天守のシルシがある事を。ボクが天守だって事を。
きっとイグゥに欲情した所為だ。
天守の存在は喜ばしいもの。
タチだってリバだって、自分が天守になったら誇らしいはず。
だけどボクは泣きたくなった。
ボクが天守って事は、……万に一つのチャンスも奇跡も、無いって事だから。
ハーレムを作らなきゃならないのに、あの人はきっと妻にはならないから。
* * *
その翌日。
領主をしてるお父さんとお母さんは、天守のシルシが出たボクがハーレムを作るに当たってどうしたいか、ボクの意思を確認してくれた。
もしボクが望むなら、妻になり得る人達を集めて集団見合いをする事も出来るって。
有難いけどボクはそれを断った。出来るだけ自分で探してみる、って。
その言葉を信じてくれて、両親はボク抜きで妻を集めたり、ハーレム作りを一刻も早くって急かしたりせず。大々的に町の人達に広める事も控えてくれた。
推定十四歳頃から始めてた領主業の勉強は、一旦休止になった。
小規模ならともかく、ボクがハーレムを中規模以上にするツモリなら、領主業との掛け持ちは出来ないから。
翌々日からボクは何をするでもなく、ただ町に出てた。
妻になる人を探すべきなのに、声を掛ける相手が見付からない。
ボクの目はあの人……イグゥを探してたから。
フード付き外套を身に纏っても、ボクの大きな身体は隠せない。
知ってる人が見れば、あれは領主の息子だってすぐバレる。
誰も声を掛けて来ないのは、ボクが町の様子を眺めてるのは何かの仕事中か勉強中だから、とでも思ってくれてるんだよね。きっと。
その誤解も、いつまでもつかな。
ただ日数だけが過ぎてく。
あれ以来、イグゥを見掛けてないからかもだけど。
気持ちが沈んで。
前が見れない。
誰に対してかも分かんないような、いっつも後ろめたい気持ち。
責められてないのに、責められてる気分。
ねぇ……。……誰か…、………代わってよ……。
ボクに甘い両親と比べ、お兄さんだけはキッチリ厳しかった。進捗状況も聞かれたし、本とか資料とかを渡されたりした。
厳しいは……言い過ぎかな。世間一般的にはお兄さんの対応の方が普通だ。
天守のシルシがあるんだもん。いつ作るの? まだ妻が一人も居ないの? どうする気なの? ……ってなるよ。
領主の息子が領主業の勉強を休んでる。
実はシルシが見付かったらしい。
ハーレム作りが進んでないのに妻の募集をしてない。
その辺りの事が噂になって、領主の対応に疑問を持たれてから慌てても遅い、って。
分かってるよ、ボクだって。
お兄さんの言ってる事は正しい。
でも素直に言う事を聞く気になれないんだもん。
嫌いじゃないよ。ただ……羨ましいだけ。
だってお兄さんは、ボクの要らないものを何も持ってない。
高過ぎる身長も。真っ黒な毛も。子供っぽい顔も。領主の重圧も。天守の義務も。
それなのにお兄さんには、ボクの欲しいものが全部ある。
抱き締めて貰える程度にスラッとした身体。柔らかい色の髪。知性的な美形。家を出て、兵士業をして、一人暮らしで、ある程度の自由とお金。
結構前からお兄さんにオトコがいるのも知ってるよ。
「自分は領主の器じゃない」とか、「良い子でいるぐらいしか出来ない」とか言ってたのに。それでも愛されるんだから……お兄さんはいいよね。
0
お気に入りに追加
675
あなたにおすすめの小説
四大精霊の愛し子はシナリオクラッシャー
ノルねこ
BL
ここはとある異世界ファンタジー世界を舞台にした、バトルあり、ギャルゲー・乙女ゲー要素ありのRPG「最果てに咲くサフィニア」、通称『三さ』もしくは『サン=サーンス』と呼ばれる世界。
その世界に生を受けた辺境伯の嫡男ルーク・ファルシオンは転生者ーーーではない。
そう、ルークは攻略対象者でもなく、隠しキャラでもなく、モブですらなかった。
ゲームに登場しているのかすらもあやふやな存在のルークだが、なぜか生まれた時から四大精霊(火のサラマンダー、風のシルフ、水のウンディーネ、地のノーム)に懐かれており、精霊の力を借りて辺境領にある魔獣が棲む常闇の森で子供の頃から戦ってきたため、その優しげな相貌に似合わず脳筋に育っていた。
十五歳になり、王都にある王立学園に入るため侍従とともに出向いたルークはなぜか行く先々で無自覚に登場人物たちに執着され、その結果、本来攻略対象者が行うはずのもろもろの事件に巻き込まれ、ゲームのシナリオを崩壊させていく。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
至って平凡なハーレムのお話
える
BL
夢から醒めたら、世界線が変わってしまった主人公。
気になる人達と両片思いの状態でスタートとか、俺得でしかない!!
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
緩く書いていきます。
随時リクエスト募集、誤字脱字報告はどうしても気になった場合のみにお願いします。
~更新不定期~
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
アリスの苦難
浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ)
彼は生徒会の庶務だった。
突然壊れた日常。
全校生徒からの繰り返される”制裁”
それでも彼はその事実を受け入れた。
…自分は受けるべき人間だからと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる