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第五章 ~ゲームに無かった展開だから遠慮しないで歯向かう~

すっかり惚れちまってた男・1 $ルサー$

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俺の仕事上がり、アイツ……じゃねぇ。イグザが迎えに来た。
あぁくそ、まだ慣れねぇな。ついつい癖でアイツって言っちまう。
ちゃんと名前で呼んでやろうと思ってはいるんだが。


……とにかく。夕方、イグザは俺を迎えに来たんだが。
何処となく元気が無ぇ。

詰め所に姿を見せたイグザは……殆どが俺の欲目だろうが……初めて見掛けた時よりもずっと、タチのオーラが強く漂ってて。しかもそんなんで俺を迎えに来るもんだからよ。同僚から割と揶揄われて。
照れ臭くなった俺は、迎えに来るなら前以って言え、と文句を言ったんだが。それを見たイグザは、ふにゃって感じの笑みを見せた。

イグザにしちゃあ、随分と大人しい。
普段通りなら、もっとハッキリ嬉しそうに笑うか、褒めてくれとでも言うように誇らしげにする所だぞ。
今日、何かあったか……?



「リオの見舞いには行けたか?」
「……あぁ。午前中の内に行って来た。酷くなってなくて、良かった。」

帰り道。
俺が話し掛ければイグザは答える。話してる間は表情も明るい笑みになる。
だがちょっと黙れば。やっぱり元気が無ぇ。

リオと何かあったか? と思ったが。
昼頃に詰め所で姿を見掛けた時は、こんな感じじゃなかった。


そういや、リオと言えば。
俺はリオが、もしかするとビルメリオ……ビリーなんじゃねぇかって考えてもいたんだが。どうやらそれは人違いだったようだ。むしろ、カシュの恋人であるヴィルがビリーだったんだとさ。
詰め所の前で今朝、カシュと会った時にそんな事を言ってたな。

あの後、イグザはカシュの後を追い掛けてったから、一緒にビリーと会ったのかも知れねぇ。
だとすると、ビリーの方と何かあったか。それか、カシュと?


「ルサー。今日、晩御飯……ちょっと軽めでいいか?」
「ん? あぁ、構わねぇ。」
「……。」

家までの距離は遠くもねぇが近くもねぇ。
いつもはイグザが色々と話題を振ってくれたり、ニヤニヤしながら俺を見たりしてるトコなんだが。
話し声は普段と然程変わらんものの、すぐに会話が途切れる。イグザらしくねぇ。



イグザの口数が多いから、大して気にもしてなかったんだが。
こうなってみると、話題を振るのもなかなか大変なモンなんだな。

とりあえず詰め所で俺が仕入れた情報について、確認がてら話題にした。

「ところでイグザ。同僚から聞いたんだが、エステードん所に行ったらしいな?」
「…………うん。」

明らかにイグザの声が沈んだ。
沈んだと言うか、ちょっと苛立った気配の後、落ち込んだみてぇだ。

その反応に。
まさかと思いながら。

「エステードと何か、あったのか……?」
「ううぅん? ちょっと相談に乗って貰いに……いや、何でもない。」


俺には言えない事か。
そう問い質そうとして。言いそうになって、俺は止めた。

俺に言っても仕方ねぇ事か。言いたくねぇか。
何にしろ、イグザの中ではちゃんと理由があって、エステードん所に行くのを選んだって事だ。


何とも言えねぇ気分で俺は、俺に向かって似合わねぇ微笑を浮かべるイグザを見た。




   *   *   *




家に戻って来てから、イグザが少し元気になったようだ。
と言っても、変な微笑を浮かべなくなった、ぐらいの変化だがな。


イグザが食事の支度をしてる間に、俺はシャワーを浴びる。
これまで一人で暮らしてた時は、単なるルーティンとして何も思う事は無かったんだが。イグザとヤルようになってから、たまに、ふとイヤラシイ記憶を思い出す事もあった。
そんな時は自分の事ながら微妙な気分になっちまう。

たまたま今日も……。
昨夜シタ事とか。イグザがいなくなった時の事とか。戻って来た時の事とか。
こっ、……告白された時の事とかを思い出しちまって。
浴室から出る前に、一旦水で身体を流したりした。




俺が衣服を着る頃にはもう食事は出来上がってた。
台所から間違いなく美味い匂いがするから、すぐに分かる。

「今日も美味そうだな。」

俺の言葉に、いつもはちょっと照れくさそうな自慢げな表情をするイグザが。
食卓テーブルを挟んだ向かい側に腰掛けながら、何かを後悔するみてぇな表情で遠くを見た。


そんな顔、見たらよ……。黙ってられねぇだろうがっ。


「……ルサー、どうしたんだ?」
「そりゃあコッチの台詞だ。どした? ……イグザ。」

先に聞いて来たのはイグザからだった。
その台詞に乗っかるように、俺はとうとうイグザを問い質す。

イグザはやや目を見開いた。
何も変わった所は無い、ってツモリだったか?


「お前にしちゃ、何だか妙に大人しいじゃねぇか。」
「そ…う、かな……?」

もし、そんな事は無い、と。イグザが否定したんなら。俺に隠そうとするなら。
俺はすぐさま「無いって事ァ無ぇ!」と言い返してただろう。
だがイグザは自分でも気付いてなかったようだ。



基本的にイグザは不安を漏らさねぇ。

……なぁ。俺は、……俺には、相談出来ねぇか?



食事をしながら。
腹の中ではそんな言葉がグルグルと渦巻いてた。
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