上 下
126 / 364
第四章 ~なんだかんだでゲームに沿う形でハーレムっぽい感じになる~

忘れたかった過去・3 $ルサー$

しおりを挟む
純潔を失い、身体に『割れた実』が出来た俺は、それから十日間程、宮殿の一室に幽閉された。
扉には大きくてゴツイ鍵が掛かってて、その外側には四六時中、見張り兵が立ってる。

そんな事をしなくとも、俺には出歩く気なんぞ少しも無かったが。
すっかり見知らぬ人……大人に対する恐怖心と猜疑心を持っちまってたからな。


閉じ込められてる間、一人の妻が俺に食事を運んで来た。
いつも決まった時間に来て、部屋の中央にあるテーブルにトレイごとメシを置いて出て行き、また決まった時間になると食器を下げに来る。
顔立ちが美しく、着てる服も上等な物だが、陰気な妻だった。
大人に怯える俺が常に、部屋の隅で小さくなってたからかも知れねぇが。妻は一言も発さず、いつも俯き加減で視線が合う事は一度も無かった。


やがて俺の処罰が決まった。
俺が数人の男から乱暴された事件は、どういう絡繰りによってか知らねぇが……全て俺の『落ち度』って事にされてた。

『ハーレムに迎え入れる直前に確認した所、ルサージュの身体に割れた実があった。これでは本妻として迎える事は出来ない。本来ならば天守を騙した事は大罪だが、本人は子供で無知な故に、自分が純潔か否かの重要性が分からなかったのだろう。特別に寛大な扱いを考えているが、そうした者を送り出した国として、如何様に考えているのか。』

この件でハーレム側はリスタニアに『それなりの詫び』を要求した。
第二王子だった俺が大ハーレムで犯した失態を、小国リスタニアがどう償うか。補填するか。
それを決める為の十日間だったんだ。
リスタニアからは、慰謝料の支払いと、俺の代わりに兄王子であるアレイスティを差し出すという提案がされたらしいが……実際はどうだか知らん。



妻として、天守に目通りする事も無く。
俺は宮殿を出され、他所の町へ追いやられる事になった。
国に戻る事を許されず。
ルサージュ第二王子が国でどういう扱いになったのか……廃嫡されたのか、死んだ事にされたのか……それも分からねぇまま。


馬車に乗り込む俺を見送るのは、ハーレムで働いてるだろう数人の大人。それと……件の、俺に地獄を見せた神官と、俺に食事を運んでた陰気な妻。

怯える俺は半泣きになって、逃げるように馬車へと乗り込んだ。


「御免なさい……。」

聞き覚えの全く無い声に謝罪された所で、振り返る余裕なんぞ無い。
俺は馬車の中で、壁際に小さく蹲った。

まだ開けたままの扉のそばに神官がやって来た。
一番見たくない奴が、馬車の中と外で分かれてるとは言え、一番近くにいる。
小さく悲鳴を上げる俺に、神官は目を細めた。

「これは悪い子への罰ですよー。お優しい天守様に感謝しつつ、一人で精々反省して暮らしなさーい。泣いてリスタニアに戻ろうとしても、すぐに分かりますからねー。その時は、別なお仕置きでーす。」




      *      *      *




俺が運ばれたのは、ノマルという名の町だった。
もっと辺鄙な未開の地に連れて行かれた可能性を考えれば、随分と良い所だが。誰も知らねぇ町に一人きりで放り出される子供の俺は、不安と恐怖で一杯になって、町の様子を観察する事も出来なかった。


一軒の家の前で馬車から引き摺り下ろされ。
一本の鍵と、国から持って来た小箱と、俺がその場に置き去りとなった。

もう国には帰れねぇ。家族にも会えねぇ。
神官の口振りから、宮殿を出た後も何処かで見張ってるんだろう。俺はそう思った。


家の中に入ると、俺はその場に蹲った。窓の雨戸が閉じられてて薄暗い室内で。
もう何回、どんだけ泣いたか数え切れねぇのに。後から後から、勝手に涙が溢れ出た。

淋しくて仕方なくて、小箱を強く抱き締めた。
事件の後も、道中でも。こんな物、捨ててやろうかと思ったし、床に叩き付けて壊してやろうかとも思ったが。
その時の俺が唯一持ってる、家族から貰った物だから。
捨てる事も壊す事も、俺は出来なかった。



一人で泣いて、一人で寝て、一人で起きて……を繰り返し。ようやく周りを見る事が出来た。

家の中には家具が備え付けてあり、冷蔵庫や戸棚には食料もそれなりの量が入ってた。
もしかすると陛下が、俺を憐れんで用意してくれてたのかも知れねぇな。

あんな目に遭っても腹は減るようだ。
だが残念ながら俺には料理をする技術が無かった。気力もだ。
俺は仕方なく果物と、生の野菜を食って飢えを凌いだ。


物は食えば無くなる。
家に金も置かれてたから、買い物に行けばいい話だが……俺は出掛けられずにいた。



突然、聞き慣れない音が室内に響く。
それがこの家の呼出音だと理解するまでに、しばらく時間が掛かった。

家にいるのは俺一人。そんな所に一体誰が訪ねて来る?


呼出音は何回か鳴ったが俺は出ない。出る理由が無い。
扉を叩く音も聞こえた。俺は出ない。
ただソファの上で膝を抱えた。
だが……。


ガチャリッ。


扉の開く音が聞こえた時、俺は飛び上がった。
誰かが入って来る。硬い足音がする。

玄関の鍵を掛けてない事、それを確認してない事を後悔しながら、慌ててソファから下りる。
何処かに隠れる場所を探したが、それよりも先に、部屋の扉が開けられた。

恐怖で立ち竦む俺の前に現れたのは。



リスタニアにいるハズの、ルベロだった……。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

晴れの日は嫌い。

うさぎのカメラ
BL
有名名門進学校に通う美少年一年生笹倉 叶が初めて興味を持ったのは、三年生の『杉原 俊』先輩でした。 叶はトラウマを隠し持っているが、杉原先輩はどうやら知っている様子で。 お互いを利用した関係が始まる?

伝説のドラゴン 世界をかけた戦い~記憶がない俺が天龍から授かった魔法で無双になる?!~

杏子
ファンタジー
俺はふと目が覚めると、崖の下に寝転がっていた。 頭が割れるように痛い。 『いって~······あれ?』  声が出ない?!! 『それよりも······俺は·········誰?』  記憶がなかった。  振り返るとレインボードラゴン〈天龍〉が俺の下敷きになっていたようで気を失っている。 『こいつのおかげで助かったのか?』  レインボードラゴンにレイと名付け、狼の霊獣フェンリルも仲間になり、旅をする。  俺が話せないのは誰かが魔法をかけたせいなのがわかった。 記憶は?  何も分からないまま、なぜか魔法が使えるようになり、色々な仲間が増えて、最強(無双)な魔法使いへと成長し、世界を救う物語です。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

処理中です...