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第三章 ~改めてゲームを見守ろうとしてから自分の名前を思い出すまで~

礼拝堂とオヤツが目的地と用件

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前に、果物屋を見張ってたら、エステードさんに声掛けられたなぁ……。
あれは確か、一週間くらい前だったっけ。

って思い出したりしてるのは。



「教会でバッタリ会うなんて初めてだね?」

エステードさんの弟、フィロウに。
同じような感じで声掛けられてるからだ。


フィロウがニコニコしながら寄って来る。
『超美麗グラフィック』が売りのファンタジーRPGでイケメン王子様キャラとして出て来そうな、爽やかさと凛々しさが同居してるような笑顔だ。
黒髪黒目なのに、陽射しを集中して浴びてるのか、周囲がキラキラして見える。
しかもフィロウは、オレがこの町で『知り合い』って呼べる人の中で、実は唯一オレより背が高い。

……隣に並ばれると、オレのモブ感が半端無いぞ。



「教会に用事? これから?」
「いや、終わった……トコ?」

フランクに話し掛けて来るフィロウ。

そう言えば一昨日。オレはそそくさ帰ったけど。
あの後、エステードさんと何か話したのかな。揉めてなきゃいいけど。
……この様子なら大丈夫そう、だな。

「なんで疑問形なのさ?」
「えーっとさ、実は読みたい本があって図書室に行ったんだけ……あ。……そうだ、フィロウ!」

話し出してから思い付いた。
オレはガシッとフィロウの腕を掴む。ビックリした顔でフィロウが瞬きする。


オレが読みたかった本は全部、エステードさんが借りてる。
エステードさんに、読ませてくれって頼んでいいもんか、迷ってたんだけど。
考えてみたら、エステードさんが借りてるのってハーレム関連の本なんだから、フィロウに読ませる為な可能性が高くないか。
だったら今、その本を保管してるのはフィロウかも知れないぞ。


「エステードさんからハーレムの本とか預かってないかっ?」
「何か凄い分厚っいやつなら、読めって渡されたけど。何で知っ…」
「なぁ、それ、オレにも読ませて貰えないか?」
「え? あれを?」

戸惑ってる感じなフィロウに、グイグイお願いする。
だってオレ今、フィロウと並んでみて、自分がモブだって改めて再認識したからな。
モブは黙っててもラッキーが転がって来ないんだから、自分からお願いして行かなくちゃさ。


「えーと……? ……んん~。ふぅーん……。」

あんなの読みたいの? って言わんばかりだったフィロウだけど。
フィロウなりに、何となく納得してくれたようだ。
甘いマスクにやや悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「……いいよ。ウチに来る?」
「フィロウの、か? あのデカイお屋敷に? ……う~ん。」

有難いんだけどオレは躊躇した。
フィロウの屋敷は、ゲームに出て来るライバル天守の住居だから。


黒髪黒目で瞳に『天守のシルシ』があるフィロウは、ゲームの主人公だって思ってたんだよ。
だけど、今いる世界がストーリーモードから二十年くらい経ってるなら。
ゲームでは主人公だった天守や、ライバル天守がどうなってるのか、考えたらちょっと怖くないか。
一瞬、エンドレスモードなんじゃ。って頭に浮かんだけど……。
それこそ『エンドレス』なんて現象、この世界では再現されてるんだろうか。


「割と迷惑だけど、お兄さんからの預かり物だからね。外に持ち出すのは出来ないから。」
「そりゃそうだな。」
「もうしばらく……たぶん、うん。預かってるから、読みたかったらおいでよ。いつでも良いからね?」
「あぁ、ありがとう、助かる。」

迷惑って……。さり気なく本音を言ったな、フィロウ。
そんな風に言うくらいだから、さては、ハーレム作りが全然進んでないな?
これじゃ、エステードさんも不安になるよな。分厚い本とか渡すよな。

納得してるオレに、気付かないままフィロウは話す。


「ねぇ? キミの用事が終わったんなら、ちょっと付き合わない?」
「ドコへ?」

ここが学園物BL小説の世界で、そしてオレが主要キャラだったら、フィロウに「そういう意味じゃないってばっ」なんて赤面しながら言われるんだろうけどなぁ……。

「礼拝堂。……と、オヤツ。」

ほら、これがモブの現実だ。
見事に、簡潔に、目的地と用件を言われただろ。


「意外と信仰熱心なんだな、フィロウ。……何か願い事か?」
「うん。ハーレムがどうにかなりますように、って。」

……エステードさん。分厚い本を渡すだけじゃ、駄目じゃないかな、これ。
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