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第三章 ~改めてゲームを見守ろうとしてから自分の名前を思い出すまで~

閉じ込めた記憶と想い・1 $リッカ$

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*   *  * リッカの回想から *  *   *




  ※【子供のお使いにも成れない(大人だから)】辺り


夜も結構更けて、受付をするお客さんの波も落ち着いた頃。
アノ子は店に入って来た。


初めてアノ子を見た瞬間、ドキッとした。動けなくなっちゃった。

凄く高身長で、でも全然ヒョロッとしてない均整の取れた逞しい肉体に、あまり感情の読めないクールな顔。
……似てる、ような気がして。
昔の……アタシをハーレムに入れた頃の宮さまに。


でも、真剣な顔で真っ直ぐカウンターに向かったのに、ウチのオヤジ店員相手に緊張した様子でしどろもどろな説明をする姿を見てたら。当たり前だけど別人だって分かった。
宮さまは見た目通り、何でも分かってて、何でも出来るシッカリした人だったもの。……もう当時の記憶は殆ど残って無いけど。

ホッと安心して、アタシはようやく動けるようになった。
ちょうど店の奥が騒がしくなったから、ソッチに行こうとしたの。

だって、ほんのちょっとでも宮さまに似てる人の近くには居たくなかったから。
忘れようと頑張って閉じ込めた記憶を、これ以上思い出すのが嫌だったのよ。
もう二度とあんな思いは御免だものね。

……なのに。


「オイ、兄貴。話は聞いてたろ? 後、頼んだぞ。」

オーナーの息子でもあるオヤジは、よりにもよってアタシに、ソノ子の相手を任せたのよ。
アタシもう、すっかり気が動転しちゃって。
無駄に媚びっ媚びの、変なテンションで相手しちゃったワ。
サービスまでして、思い返せば恥ずかしいったら無いわよねン。


買い物を終えて去ってく後姿を見ながら、もうしばらくは……ひょっとしたら二度と……会う事は無いでしょうね、って。
アタシは安堵のような、違うような、自分でも分からない溜息を吐いてた。






  ※【ハタから見ると痴話ゲンカ】辺り


それから一週間くらい経ってたかしら。
アノ子にまた会ったのは。
……言っとくけど、アタシが会おうと思って会ったんじゃないから。


その夜は。ルサーって名乗った兵士が、店の子に会いに来てたのよ。
ちょうど休みの日で会えなかったんだけどね。

オヤジが対応してるのをコッソリ見ながら、アタシは妙な感慨に耽ってた。
名前に聞き覚えがあると思ったら……。
二十年近く前だったかしら。その当時、まだ十三歳かそこらで兵士になった子がいて。
町の養育所の子でもないから、ちょっと心配してたんだけど……確か、その子の名前がルサーだったわネ。

年齢的に同一人物なんでしょうけど、子供兵士だったルサーがこんなオッサ……ぁン、失礼。こんなに成長したンですもの、アタシもトシ取るワケよねぇ。


そのルサーが、店を出た途端に誰かから声を掛けられて、そのまま揉め出したのよ。
お店の前よ? 仕方ないから、割って入ったワよ。
聞こえた声の感じだと、険悪に争ってる感じじゃなくて、何だか痴話ゲンカみたいだったもの。
ネコ同士のカップルとかじゃタマ~にあるのよね。
好きな人がいても、それとは別として娼夫に抱かれに来るお客さんと、それが嫌な恋人との揉め事って。

声を掛けてから、その内の一人がアノ子だって気付いた。
だからって何か言ったりはしないけども。

ルサーの腕を、アノ子は必死に握ってた。
お店の邪魔をした事、素直に謝って去ってく後姿を、アタシはまた何とも言えない気分で見送ったわ。


アノ子のお相手ってルサーだったのね。
好きな人とちょっとした喧嘩したり、仲直りしたり、お互いに許し合ったり……それって。一体どんな感じなのかしら?


ハーレムに入ってたけど、アタシと宮さまにはそういうの、無かったから。
きっと本当は羨ましかったのね。
もう誰かに心を寄り添わせようだなんて思わない。そう決めてたクセに。






  ※【余計な首を突っ込んだとは思わないぞ】辺り


まさか翌日にまた顔を合わせるなんて、ちっとも考えてなかったわよ。
それも、まだ日が高い日中の内に、お店の外でなんて。


アタシは良い香りのするアロマオイルを買いに、外出してた。
店にもあるんだけど、どうしてもムードを盛り上げる系の香ばっかりだから。
雑貨屋に行く途中、若い娼夫が年上の人達と揉めてるのが目に入って。
余計なお世話だって思いながら、首を突っ込んじゃった。

そこに、アタシと同じように入って来たのが、アノ子だった。


それから……まぁ色々あったのよ?

アノ子が凄く強くて、割とアッサリその場を収めたり。
やっぱりルサーとイイ仲なのを再確認したり。
怪我してたリオを手当てして、お店辞める話にアタシがしゃしゃり込んだり。



でも……何よりアタシの心に残ったのは。



「リッカ達は下がってて。」

アタシの名前を呼ぶ、気遣うような優しい声。


「ねぇ? ……手を。貸して貰える?」
「あ。あぁ……もちろん。」

アタシを起こしてくれた、温かな手の震え。



アノ子は宮さまのような超人じゃない、生身の、普通の人だった。




その時に感じたのは、ハーレムに入った時のような激しいトキメキじゃない。

いつまでもジワジワして、胸に残ったのよ……。
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