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第三章 ~改めてゲームを見守ろうとしてから自分の名前を思い出すまで~
名前も知らない男と●●●13 $リオ$
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病院で手当てをして貰って。
ずっと彼に手を握ってて貰って。
朧気には覚えてるけど、気付いた時には大体終わってた。
恥ずかしい事に。
おれの怪我自体は大した事無かったみたい。
止血してくれた後、看護師さんが他へ行けるぐらいには。
彼の方が不安そうな顔になって、おれの手を握って来る。
元気出して欲しくて、おれはわざと揶揄うような調子で色々言った。
リンゴを拾ってくれた事はあんまり覚えてないみたいで、ちょっと寂しかったけど。
彼がどんどん驚いて、しかも「いやいや、いやいやっ」て謙遜するから。
つい、カッコいいって思った事も言っちゃって。
「友達になれたの、実は凄い嬉しい。」
好きって言いそうになったのを。
嘘じゃないけど、おれは別な言葉に置き換えた。
おれの気持ちの落し所。自分で決めたのに。
あれからもどんどん好きになって……持て余しそうだ。
丁度良くルベロさんが話し掛けてくれ助かった。
頭を撫でて子供扱いするルベロさんの存在に、安心して話してた時。
急に彼が焦り出した。
やっぱりルサーを迎えに行く予定だったんだ。
何だか意思の疎通が微妙そうだけど、結局ルベロさんが詰め所に行ってくれる事になった。
その間ずっと、おれは黙ってた。
おれは「迎えに行ってあげなよ」って言えなかった。
彼がおれに付き添ってくれてるのは、友達として心配だからなのに。
嬉しいなんて思ってゴメン。
ルベロさんが出てってから。
行けば良かったって後悔してるのか。彼は何も言わない。
言えば良かったって後ろめたくて。おれも話せないでいた。
こんな時、友達って何を話したらいいんだっけ?
「なぁ? ルサーって人、さ……。」
何でもいいから顔を見て話せば……。
そう考えて身体を起こしたおれは、すぐさま彼に寝かせられた。
気に掛かり過ぎて、ルサーの名前を出してた。
でも一度口から出た言葉は引っ込められない。
「アンタの恋人?」
「ふぉうっ!」
彼は面白いぐらい動揺した。
狼狽える彼はしどろもどろになって、まるでおれに言い訳するみたい。
「じゃあ……恋人じゃない?」
まさか、って思いながら聞いた。
おれがちょっと聞いてただけでも、大事にしてるんだな……って思うぐらいなのに。
「世話になってる。けど、どうなんだろ。」
「抱いてるんだろ? 好きじゃ……ない?」
彼は自分でも分かってない言い方をする。
おれがハッキリ聞いたら、彼は声を詰まらせた。
ちょっと迷って……観念したみたいにポツポツ喋り出す。
「オレは……好き、なのかも。……ルサーはどう思ってるか、分かんないけど。」
その時の彼は、凄く自信の無い様子だった。
心細くなるような表情で、落ち込んでるように見えた。
おれは正直ビックリした。
彼もルサーも、お互いに好きなんだろうなって思うのに。彼がこんなに自信の無い顔をするなんて。
彼って、もしかして……。自分の外見とか、人から見られる事に無頓着なだけじゃなくて。
恋愛なんて自分には縁が無いって思ってる? 自分が誰かに好かれるなんて有り得ない?
そんな事無いのに。
アンタは自分で思ってるより魅力的だよ。
少なくともここに一人、アンタの事が好きだって男がいるんだぞ。
「その人がどうかは知らないけど……。おれは、好き……かな。」
「……んぁ? ご免、リオ、何の話だっけ?」
おれは告白してた。黙ってるなんて無理だった。
だけど彼は聞いてなくて。
「あんな、カッコいい事しといて……そりゃ、好きになるだろ。」
恥ずかしくて雑な言い方になったけど、もう一度、伝えた。
なのに彼は、それが自分の事だって理解出来なかったらしい。
しかも何でか。ルサーの話をしてる、みたいな事を言い出した。
違う、そうじゃない……っ。
慌てて起き上がったおれを、彼が寝かせに掛かる。
「リオ、寝てなきゃダメだろ。」
でも今度は彼を離さない。
彼の服を掴んで、引っ張って。
一緒に倒れて、おれの上に彼が覆い被さる体勢になった。
さっきより、ずっと近い距離から彼を見上げる。
「……カッコいいとか、好きになるとか。おれの話だから。」
「えっ……どこが?」
なぁ、聞いて……。はぐらかさないで。おれの話。ちゃんと聞いてよ。
おれの気持ちの話なんだから。
ルサーの事は今だけ、ちょっとだけ、心の奥に仕舞ってよ。
言葉を選んでも上手く言えなくて。
泣きそうになる。
「一目惚れ。……って、あの、一目惚れか?」
「そ。」
それ以外に何があるんだよ。
お願いだから。聞いてよ。
フラれるのは怖い。
だけど告白してるのに聞いて貰えないなんて、それ以前の話じゃないか。
「アンタの事が好きだよ。」
祈るような思いで告げた。彼は黙り込んだ。
次に彼が口を開いた時、拒絶の言葉を聞くかも知れない。
おれはその覚悟をして待った。
意外と短い沈黙の後。
彼の返事は「分からない」だった。
おれがタチだからとか、ルサーがいるからとかじゃなくて。自分の気持ちが分からないみたい。
何て事ない。
彼は……恋愛方面で子供なんだ。
「おれはアンタに惚れてるけど、ソッチはそうじゃないだろ? それでも、嫌じゃないみたいだって分かって、ちょっと嬉しい。」
何だか一気に力が抜けた。
自分でも、単純で現金な性格だって思うけど。
ネコじゃない癖に、って嫌がられなくて嬉しい。
「だから、まずは友達で。……きっと好きになって貰うから。よろしくな?」
「お、おぅ……。」
彼は人からの好意にも凄く鈍くて。自分の気持ちにも鈍いから。
おれの気持ちを分かって貰うまでに、だいぶ掛かりそうだけどな。
こんな状況に、ルサーが来たのは。
おれにとって都合が良いかも知れない。
彼の恋人にして貰おうって時に、この人から隠れてはいられないから。
「ちょろっと話、聞かせて貰えるか?」
目を細めてご機嫌斜めな様子。
だけどおれは、ビビってる場合じゃない。
ハーレムじゃなくても、一タチ多ネコってよくある事。
圧倒的にタチは少ないんだ。タチの『唯一』を争ってみても、切り捨てられる確率の方が高いから。
「……ルサーさん、って言ったっけ。……いいよ?」
娼館では『当番』の事もあって先輩達と揉めちゃったけど。
コッチの『先輩』とは、上手くやってかなきゃ。
「一度ちゃんと話さなきゃ、って思ったトコ。」
緊張しながら、おれは『ルサー先輩』に笑みを向けた。
ずっと彼に手を握ってて貰って。
朧気には覚えてるけど、気付いた時には大体終わってた。
恥ずかしい事に。
おれの怪我自体は大した事無かったみたい。
止血してくれた後、看護師さんが他へ行けるぐらいには。
彼の方が不安そうな顔になって、おれの手を握って来る。
元気出して欲しくて、おれはわざと揶揄うような調子で色々言った。
リンゴを拾ってくれた事はあんまり覚えてないみたいで、ちょっと寂しかったけど。
彼がどんどん驚いて、しかも「いやいや、いやいやっ」て謙遜するから。
つい、カッコいいって思った事も言っちゃって。
「友達になれたの、実は凄い嬉しい。」
好きって言いそうになったのを。
嘘じゃないけど、おれは別な言葉に置き換えた。
おれの気持ちの落し所。自分で決めたのに。
あれからもどんどん好きになって……持て余しそうだ。
丁度良くルベロさんが話し掛けてくれ助かった。
頭を撫でて子供扱いするルベロさんの存在に、安心して話してた時。
急に彼が焦り出した。
やっぱりルサーを迎えに行く予定だったんだ。
何だか意思の疎通が微妙そうだけど、結局ルベロさんが詰め所に行ってくれる事になった。
その間ずっと、おれは黙ってた。
おれは「迎えに行ってあげなよ」って言えなかった。
彼がおれに付き添ってくれてるのは、友達として心配だからなのに。
嬉しいなんて思ってゴメン。
ルベロさんが出てってから。
行けば良かったって後悔してるのか。彼は何も言わない。
言えば良かったって後ろめたくて。おれも話せないでいた。
こんな時、友達って何を話したらいいんだっけ?
「なぁ? ルサーって人、さ……。」
何でもいいから顔を見て話せば……。
そう考えて身体を起こしたおれは、すぐさま彼に寝かせられた。
気に掛かり過ぎて、ルサーの名前を出してた。
でも一度口から出た言葉は引っ込められない。
「アンタの恋人?」
「ふぉうっ!」
彼は面白いぐらい動揺した。
狼狽える彼はしどろもどろになって、まるでおれに言い訳するみたい。
「じゃあ……恋人じゃない?」
まさか、って思いながら聞いた。
おれがちょっと聞いてただけでも、大事にしてるんだな……って思うぐらいなのに。
「世話になってる。けど、どうなんだろ。」
「抱いてるんだろ? 好きじゃ……ない?」
彼は自分でも分かってない言い方をする。
おれがハッキリ聞いたら、彼は声を詰まらせた。
ちょっと迷って……観念したみたいにポツポツ喋り出す。
「オレは……好き、なのかも。……ルサーはどう思ってるか、分かんないけど。」
その時の彼は、凄く自信の無い様子だった。
心細くなるような表情で、落ち込んでるように見えた。
おれは正直ビックリした。
彼もルサーも、お互いに好きなんだろうなって思うのに。彼がこんなに自信の無い顔をするなんて。
彼って、もしかして……。自分の外見とか、人から見られる事に無頓着なだけじゃなくて。
恋愛なんて自分には縁が無いって思ってる? 自分が誰かに好かれるなんて有り得ない?
そんな事無いのに。
アンタは自分で思ってるより魅力的だよ。
少なくともここに一人、アンタの事が好きだって男がいるんだぞ。
「その人がどうかは知らないけど……。おれは、好き……かな。」
「……んぁ? ご免、リオ、何の話だっけ?」
おれは告白してた。黙ってるなんて無理だった。
だけど彼は聞いてなくて。
「あんな、カッコいい事しといて……そりゃ、好きになるだろ。」
恥ずかしくて雑な言い方になったけど、もう一度、伝えた。
なのに彼は、それが自分の事だって理解出来なかったらしい。
しかも何でか。ルサーの話をしてる、みたいな事を言い出した。
違う、そうじゃない……っ。
慌てて起き上がったおれを、彼が寝かせに掛かる。
「リオ、寝てなきゃダメだろ。」
でも今度は彼を離さない。
彼の服を掴んで、引っ張って。
一緒に倒れて、おれの上に彼が覆い被さる体勢になった。
さっきより、ずっと近い距離から彼を見上げる。
「……カッコいいとか、好きになるとか。おれの話だから。」
「えっ……どこが?」
なぁ、聞いて……。はぐらかさないで。おれの話。ちゃんと聞いてよ。
おれの気持ちの話なんだから。
ルサーの事は今だけ、ちょっとだけ、心の奥に仕舞ってよ。
言葉を選んでも上手く言えなくて。
泣きそうになる。
「一目惚れ。……って、あの、一目惚れか?」
「そ。」
それ以外に何があるんだよ。
お願いだから。聞いてよ。
フラれるのは怖い。
だけど告白してるのに聞いて貰えないなんて、それ以前の話じゃないか。
「アンタの事が好きだよ。」
祈るような思いで告げた。彼は黙り込んだ。
次に彼が口を開いた時、拒絶の言葉を聞くかも知れない。
おれはその覚悟をして待った。
意外と短い沈黙の後。
彼の返事は「分からない」だった。
おれがタチだからとか、ルサーがいるからとかじゃなくて。自分の気持ちが分からないみたい。
何て事ない。
彼は……恋愛方面で子供なんだ。
「おれはアンタに惚れてるけど、ソッチはそうじゃないだろ? それでも、嫌じゃないみたいだって分かって、ちょっと嬉しい。」
何だか一気に力が抜けた。
自分でも、単純で現金な性格だって思うけど。
ネコじゃない癖に、って嫌がられなくて嬉しい。
「だから、まずは友達で。……きっと好きになって貰うから。よろしくな?」
「お、おぅ……。」
彼は人からの好意にも凄く鈍くて。自分の気持ちにも鈍いから。
おれの気持ちを分かって貰うまでに、だいぶ掛かりそうだけどな。
こんな状況に、ルサーが来たのは。
おれにとって都合が良いかも知れない。
彼の恋人にして貰おうって時に、この人から隠れてはいられないから。
「ちょろっと話、聞かせて貰えるか?」
目を細めてご機嫌斜めな様子。
だけどおれは、ビビってる場合じゃない。
ハーレムじゃなくても、一タチ多ネコってよくある事。
圧倒的にタチは少ないんだ。タチの『唯一』を争ってみても、切り捨てられる確率の方が高いから。
「……ルサーさん、って言ったっけ。……いいよ?」
娼館では『当番』の事もあって先輩達と揉めちゃったけど。
コッチの『先輩』とは、上手くやってかなきゃ。
「一度ちゃんと話さなきゃ、って思ったトコ。」
緊張しながら、おれは『ルサー先輩』に笑みを向けた。
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