90 / 364
第三章 ~改めてゲームを見守ろうとしてから自分の名前を思い出すまで~
名前も知らない男と●●●10 $リオ$
しおりを挟む
オネェを殴ろうとした口髭の店員が、離れた所で無様に倒れてる。
大の男をアッサリとふっ飛ばした彼は涼しい顔で、オネェを庇うように前へ出た。
守ろうとする動作が凄く自然で、そんな風に振る舞える彼に、おれはドキッとした。
ニイさんから指示されたっぽい先輩が彼に向かって、殴ろうとして飛び掛かる。
先輩の左手が彼の服を掴んだ。右腕が振り上げられる。
「……っ!」
おれが悲鳴を上げそうになった、次の瞬間。
「っだあぁ~~~~っ!」
実際に悲鳴を上げたのは先輩の方だった。
彼は殴り掛かって来る拳を叩き落とし、服を掴んでた手も難なく振り解いてた。
さっきといい、今といい……ドキドキする。
何だこれ。そんな場合じゃないって、さっきから。分かってるのに。
「大丈夫……?」
「…うん。」
オネェが駆け寄って来てくれる。
おれの背中をさすってくれて、その暖かさが有難い。
「リッカ達は下がってて。」
初めて聞いた時の穏やかな感じとは違う、ちょっと硬めな声。
オネェの……いや。リッカの様子を確認するように、彼はチラッとこっちを向いた。安心させるように口元に微笑を浮かべて。
それからの彼は、とにかく……凄い。の一言しかない。
隙を突こうとした先輩は、彼が二回ぐらい腕を振るっただけで、動けなくなった。
酒瓶を握って襲い掛かった口髭の店員も、何一つ彼に危害を加えられない内に、地面に這い蹲る姿勢で取り押さえられた。暴れようとして藻掻いてるけど、動けないでいるみたい。
嘘……っ。こんな事ってあるんだ……。
リッカに手を借りてやっと立ち上がったおれは、目の前で起こる事を、信じられない気持ちで見てた。
「……なぁ、退いてくれないか?」
彼はそのままニイさんと話を始めた。
口髭の店員を押さえ付けてるのに、そんな乱暴な事をしてるって思えないぐらい、淡々とした口調で。
おれも動けなくなってた。口もきけない。
芝居でも見てるような気分。それか、夢。まるで現実感が無くて。
偶然助けてくれた人が信じられないぐらい、強いなんて、そんな事。子供向けの絵本でしか見た事が無いよ……。
「リッカ達に乱暴しないって、約束してくれるんなら…」
「ハッ、嗤わせるぜ。」
彼の言葉を鼻でせせら笑って、ニイさんがおれ達の方に顔を向けた。
リッカがおれを背後に庇ってくれる。
脅しの言葉を出したニイさんに対して、彼は冷静だった。
逆にニイさんに警告して、二人に乱暴しないで欲しい、って姿勢を貫いた。
「ニィチャン……、そいつの何なんだ?」
それはおれも聞きたかった事。
ここまでして助けて貰える理由が思い付かない。
リッカの事が心配なら、おれなんか置いてけばいい。
じっと彼の答えを聞いたけど、どうしてなのかは分からなかった。
分かったのは、彼が途方もないお人好しだって事だけ。
結局、その場はニイさんが退いた。
立ち去り際のニイさんから言われた台詞に、店を辞めるって返した。
「へぇ、そりゃ清々するぜ。」
その言葉は、おれの気持ちだったかも知れない。
力が抜けて地面に膝を着いたリッカの背中を、今度はおれがさすりながら。
これでしばらくは、裸を見たり見られたり、身体を触ったり触られたりしなくていいんだって。そう思って、ホッとしてた。
「二人とも……有難う。オネェさん、大丈夫?」
さっきおれがして貰ったように、立ち上がるリッカに手を貸して身体を支えた。
リッカは中途半端な状態で片手を……彼に向かって差し出す。
「ねぇ? ……手を。貸して貰える?」
「あ。あぁ……もちろん。」
「……手。震えてるわよ。」
「あっ……。」
手を取り合う二人。
リッカは彼の手を、大切な物のように両手で優しく握って。
彼は恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうにしてる。
羨ましくて、目が離せなかった。
意外な事に彼は、こういう荒事に慣れてないらしかった。
あんなに強くて、落ち着いてるように見えたのに。
「ふぅん、意外~。涼しい顔してたから、慣れてるんだって思った。……あの、さ? カッコ良かったぞ?」
誰かに話し掛けるのって、こんな緊張するもんだっけ。
ちゃんと話せてるか、ちゃんと笑えてるか、ドキドキしてる。
この気持ちが何なのか。
自分でも薄々気付いて来て、だからこそ、自分で戸惑った。だって……。
だって、おれが。好きに、なっても……いいのかな……?
大の男をアッサリとふっ飛ばした彼は涼しい顔で、オネェを庇うように前へ出た。
守ろうとする動作が凄く自然で、そんな風に振る舞える彼に、おれはドキッとした。
ニイさんから指示されたっぽい先輩が彼に向かって、殴ろうとして飛び掛かる。
先輩の左手が彼の服を掴んだ。右腕が振り上げられる。
「……っ!」
おれが悲鳴を上げそうになった、次の瞬間。
「っだあぁ~~~~っ!」
実際に悲鳴を上げたのは先輩の方だった。
彼は殴り掛かって来る拳を叩き落とし、服を掴んでた手も難なく振り解いてた。
さっきといい、今といい……ドキドキする。
何だこれ。そんな場合じゃないって、さっきから。分かってるのに。
「大丈夫……?」
「…うん。」
オネェが駆け寄って来てくれる。
おれの背中をさすってくれて、その暖かさが有難い。
「リッカ達は下がってて。」
初めて聞いた時の穏やかな感じとは違う、ちょっと硬めな声。
オネェの……いや。リッカの様子を確認するように、彼はチラッとこっちを向いた。安心させるように口元に微笑を浮かべて。
それからの彼は、とにかく……凄い。の一言しかない。
隙を突こうとした先輩は、彼が二回ぐらい腕を振るっただけで、動けなくなった。
酒瓶を握って襲い掛かった口髭の店員も、何一つ彼に危害を加えられない内に、地面に這い蹲る姿勢で取り押さえられた。暴れようとして藻掻いてるけど、動けないでいるみたい。
嘘……っ。こんな事ってあるんだ……。
リッカに手を借りてやっと立ち上がったおれは、目の前で起こる事を、信じられない気持ちで見てた。
「……なぁ、退いてくれないか?」
彼はそのままニイさんと話を始めた。
口髭の店員を押さえ付けてるのに、そんな乱暴な事をしてるって思えないぐらい、淡々とした口調で。
おれも動けなくなってた。口もきけない。
芝居でも見てるような気分。それか、夢。まるで現実感が無くて。
偶然助けてくれた人が信じられないぐらい、強いなんて、そんな事。子供向けの絵本でしか見た事が無いよ……。
「リッカ達に乱暴しないって、約束してくれるんなら…」
「ハッ、嗤わせるぜ。」
彼の言葉を鼻でせせら笑って、ニイさんがおれ達の方に顔を向けた。
リッカがおれを背後に庇ってくれる。
脅しの言葉を出したニイさんに対して、彼は冷静だった。
逆にニイさんに警告して、二人に乱暴しないで欲しい、って姿勢を貫いた。
「ニィチャン……、そいつの何なんだ?」
それはおれも聞きたかった事。
ここまでして助けて貰える理由が思い付かない。
リッカの事が心配なら、おれなんか置いてけばいい。
じっと彼の答えを聞いたけど、どうしてなのかは分からなかった。
分かったのは、彼が途方もないお人好しだって事だけ。
結局、その場はニイさんが退いた。
立ち去り際のニイさんから言われた台詞に、店を辞めるって返した。
「へぇ、そりゃ清々するぜ。」
その言葉は、おれの気持ちだったかも知れない。
力が抜けて地面に膝を着いたリッカの背中を、今度はおれがさすりながら。
これでしばらくは、裸を見たり見られたり、身体を触ったり触られたりしなくていいんだって。そう思って、ホッとしてた。
「二人とも……有難う。オネェさん、大丈夫?」
さっきおれがして貰ったように、立ち上がるリッカに手を貸して身体を支えた。
リッカは中途半端な状態で片手を……彼に向かって差し出す。
「ねぇ? ……手を。貸して貰える?」
「あ。あぁ……もちろん。」
「……手。震えてるわよ。」
「あっ……。」
手を取り合う二人。
リッカは彼の手を、大切な物のように両手で優しく握って。
彼は恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうにしてる。
羨ましくて、目が離せなかった。
意外な事に彼は、こういう荒事に慣れてないらしかった。
あんなに強くて、落ち着いてるように見えたのに。
「ふぅん、意外~。涼しい顔してたから、慣れてるんだって思った。……あの、さ? カッコ良かったぞ?」
誰かに話し掛けるのって、こんな緊張するもんだっけ。
ちゃんと話せてるか、ちゃんと笑えてるか、ドキドキしてる。
この気持ちが何なのか。
自分でも薄々気付いて来て、だからこそ、自分で戸惑った。だって……。
だって、おれが。好きに、なっても……いいのかな……?
0
お気に入りに追加
675
あなたにおすすめの小説
四大精霊の愛し子はシナリオクラッシャー
ノルねこ
BL
ここはとある異世界ファンタジー世界を舞台にした、バトルあり、ギャルゲー・乙女ゲー要素ありのRPG「最果てに咲くサフィニア」、通称『三さ』もしくは『サン=サーンス』と呼ばれる世界。
その世界に生を受けた辺境伯の嫡男ルーク・ファルシオンは転生者ーーーではない。
そう、ルークは攻略対象者でもなく、隠しキャラでもなく、モブですらなかった。
ゲームに登場しているのかすらもあやふやな存在のルークだが、なぜか生まれた時から四大精霊(火のサラマンダー、風のシルフ、水のウンディーネ、地のノーム)に懐かれており、精霊の力を借りて辺境領にある魔獣が棲む常闇の森で子供の頃から戦ってきたため、その優しげな相貌に似合わず脳筋に育っていた。
十五歳になり、王都にある王立学園に入るため侍従とともに出向いたルークはなぜか行く先々で無自覚に登場人物たちに執着され、その結果、本来攻略対象者が行うはずのもろもろの事件に巻き込まれ、ゲームのシナリオを崩壊させていく。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる