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第三章 ~改めてゲームを見守ろうとしてから自分の名前を思い出すまで~

名前も知らない男と●●●7 $リオ$

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娼館エリアの一番奥にある、一番大きな店。そこがおれの職場。
おれをタチ娼婦として雇って欲しいって申し込んだ時には、本当にタチなのかって疑われたけど。
働き出して、しばらく経った。
今の所は……なんとか、やれてる。



雇われた翌日から大体毎日、二人ぐらいの客を相手した。
新人だから固定客がいないってのもあるけど。

客からの主要なニーズは、俺様系やオラオラ系だ。
やっぱりそういうタイプのが、タチっぽい、って言うんだろうな。
綺麗系のタチ娼夫って少ないみたい。


これからどんどん客を増やしてって、固定客も大勢掴んでかなきゃダメなんだろうけど。
でも、おれは……。もっと大勢のネコ客から求められても。
これ以上の人数はたぶん、無理。




「リオ、客だ。指名ナシ。二時間。案内するぞ。」
「りょ~かい。」

店内に用意されたおれの待機&仕事部屋で、受付の男から声を掛けられた。
それに応じてから、軽く自分の身なりをチェックしてたら、すぐに客を連れて来た。

部屋に入って来るのは、たぶん三十歳ギリギリぐらいの素朴な人。
旅装束を纏ってて町の住人じゃなさそう。
娼館を利用し慣れてない感じで、店員に案内されながら物珍しそうに周りをキョロキョロしてる。


「いらっしゃい。」

おれは気さくな感じで話し掛けた。
客が注文したのが『時間制のコース』って事に、かなり気が楽になって。


店で娼夫を買う時、客が選ぶのは通常、二種類ある。
回数制。又は、時間制。

回数って、タチが中出しする回数だ。
割れた実が疼くのを鎮める為に娼夫を買う人は、とにかく早く注いで欲しがってる。
別に長い時間、楽しみたいんじゃないから。まず間違いなく回数制を選ぶ。

それに対して時間制を選ぶ客は。
気持ち良くなりたくて来てる。そのついでに中出しもされておくか~、みたいな感じの人が多い。


この人は時間制だから、早く出さなきゃってプレッシャーが無い分、落ち着いて出来そう。
繋がってからしばらくおれが射精しないでも、相手を気持ち良くさせる事で、この人が楽しんでくれるといいんだけど。


「おれの事はリオって呼んで。……見た目はタイプじゃないかもだけど、これでもちゃんとタチだから。安心してよ。」

……なんてね。嘘。おれは全然『ちゃんとタチ』なんかじゃない。
どうにかこうにか『抱ける』ってだけ。

嬉しそうな笑みを浮かべる客に、申し訳なさを感じた。


「今日はゆっくり楽しむ感じがいい?」

こんなの詭弁。物は言いよう、だ。

ちょっとは気持ちいいって思えるし、勃つのは勃つし、挿入も出来るんだけど。
出すのが……ちょっと。
結構時間が掛かるんだ、おれ。



出そうになった時に、結構な確率で思い出す。
ハーレムでの事。
名前も分からない、天守の妻の顔。
……自分で思ってたよりも引き摺ってるみたい。

萎えるまでにはならなくても、出したい熱はちょっと下がる。


娼館に来るのは、体内に精液を注いで貰うのが目的。って人の方が多い。
だからタチ娼夫は吐精する事を考えて客の相手をしなきゃ。
なのにおれは時間が掛かるから、ちゃんと抱いて中出し可能って言える人数が、一日に二人ぐらい。三人はまだ、した事が無い。




   *   *   *   *   *   *




もうそろそろ夕方。
ちょっと早めに家を出て、果物屋でリンゴを買って、養育所に寄ってから仕事に行くツモリ。

この町では食べ物が凄く安いんだ。
果物だって、子供の頃に憧れてた『リンゴを丸齧り』が気軽に出来るような値段で売られてる。
だからおれは時々、疲れた気持ちを癒す為に、リンゴを沢山買って養育所に差し入れてた。
子供を見てると、自分が汚れてるって事も忘れられた。



果物屋に行くと、何故かルベロさんが若い男と対峙してた。しかも無言っぽい。
それとも喋ってるけど、声が小さくて聞こえないだけなのかもだけど。
不思議に思って男の顔をコッソリ覗いて見た。

見て……分かった。タチなんだろうな、って。
なんだか胸の中がザワザワする。関わるなって言ってるみたいに。


突っ立ってるルベロさんに代わって、店の奥からネモーリさんが出て来た。
目当てのリンゴを買って、すぐにその場を離れた。

坂道を上る途中で、振り返りたくなったけど我慢した。
さっきの男がまだ果物屋の前にいるかも知れないから。
俺様にもオラオラにも見えないのに、タチだって一目で分かるような男が。


きっと、おれと違って『ちゃんとタチ』なんだろうな……。
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