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第三章 ~改めてゲームを見守ろうとしてから自分の名前を思い出すまで~

年下相手と●●●3 $ルサー$

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娼館の前で立ち止まった俺の下に、アイツが駆け寄って来る。


「なんで娼館から出て来たんだよ?」

俺を責めるように言いながら、アイツが俺の腕を掴んだ。今まで一度も見た事も無いような表情で。


アイツは、普段の顔は随分とボンヤリしてる割にすぐ驚いたり、困ったり、焦ったり、表情がよく変わる。特に、人懐っこい顔で笑う事が多い。
こんな風にちょっと苛立ったような、怒った顔は一度も見た事が無かった。


その顔で、アイツは俺を詰り出した。
最近俺の帰りが遅い事や、あんまりアイツと同じ部屋にいねぇ事、娼館で遊んでるんじゃねぇかって疑ってる事。

言われて耳に痛い部分もあったが……これじゃ、まるでアレだろが。
俺が娼館に行ったからって、別に怒る理由なんぞ無いだろよ。……まさか、嫉妬じゃあるまいし。


一瞬、心臓が跳ねたようで、アイツから視線を逸らした。
さっきまでアイツがいた場所に、名残惜しそうにしてる三人の派手な男が目に入って来る。
途端にムカ付いて来た。

……お前こそ、何してんだ。こんな所で。あの三人から誘われてたのか?


「お前の方こそ、こんな所でどうした? あ?」

自分でも分からねぇ衝動で、気付いたらアイツに文句を言ってた。

俺が遊んでるって疑ったお前の方こそ、遊ぶ気だったんじゃねぇのか?
人の身体をさんざん弄り回しといて、まだ足りねぇか?
誰彼構わず相手したがるとか、どんだけ盛ってんだ。



だが俺の苛立ちはすぐに収まり、俺は逆に恥ずかしい思いをする事になった。


アイツは、エステードの家からの帰り道だと言った。
エステードの弟が転んで怪我した場に出くわして、手当てをしてやり、家まで送ってやった帰り道だと。
確かにエステードの家からウチまで、広い道で帰ろうと思えばこの辺りを通る事になる。

ただの通りすがりだってのに、ついカッとなっちまった。
変に思われてなきゃいいんだが……。


「……でぇ? ルサーはぁ? なんで、ココにぃ?」
「あぁ、ちょっと……話を、な。」

自分が恥ずかしくなる俺だが、アイツは追及を緩めねぇ。
取り繕う俺の言葉に、不満そうに、拗ねた子供のように口を尖らせる。

「話……だけか? 誰かお気に入りでも出来たんじゃ? なぁ、オレじゃ……。オレのじゃ、満足出来ない?」
「ばっ! 馬鹿…」

い、いきなり何を言い出してんだ、馬鹿! 責める言葉の内容が、全っ然、子供のそれじゃねぇ。
お気に入りなんぞ、いるワケねぇだろが。
アイツので。……アレで、満足出来ねぇとか……。そんなん……そっちのが、有り得ねぇ…だろぉが……、馬鹿……。


幾らここが娼館エリアとは言え、人目のある場所だ。
このトシになって羞恥心でジワジワ顔が熱くなるとか、自分でもみっともねぇのが分かってるから、余計に恥ずかしくなって来た。

この状況をどうすりゃいいんだ、クソっ……。



「お店のそばで痴話ゲンカとかァ、やめてくれないかしらン?」

不意の声と共に、誰かが俺とアイツとの間に入って来た。
今の俺にとっちゃ救いの主だが。揉めてるらしき二人に割って入るなんぞ、随分と危ない事をしやがる。


小綺麗な衣服を身に纏ったその男は、俺と同じぐらいの年齢か、ちょっと年下ぐらいに見えた。
だが、腕組みをして揉め事に入って来るような男とは思えないような、艶やかさと儚さを匂わせてる。……俺とは違って、な。


「娼館の前で、恋人同士イチャ付いてたらァ、お客さん、通り難いでしょン?」

娼夫か娼館の従業員なんだろうが、この顔を何処かで見た事があるような気がした。


言われた通り、こんな場所で揉めてたんじゃ商売の邪魔だろうからな。
俺とアイツは詫びを言ってその場から離れた。





「ルサー。あのさ……。へ、変な言い方して、ゴメン。なんか、ヤキモチ妬いちゃって。」

第三者から声を掛けられた事でちょっと冷静になったんだろう。
すっかり怒りの雰囲気が消えた、いつも通りの声。
そのクセ、どっか切なそうに聞こえて、俺の心臓がまた跳ねる。

ヤキモチ妬いた、って……お前。そんな仲じゃねぇだろ、馬鹿……。


「……ったく。どっかでメシ食ってくか。」
「オレ、ちゃんと晩御飯、作ってるぞ。温め直せばすぐ食べれるように、して来た。」
「そ……そう、か。」

どっかの店にでも入って、ちょっと落ち着こうとしたが、そうも行かねぇようだ。
アイツは今日もシッカリ晩飯を用意してたらしい。
それに、手を握られて「帰ろう」なんて言われたら……これじゃ寄り道する理由は無ぇ。



手を繋いで歩くのは恥ずかしいモンだ。特に、俺達の年齢差を考えれば、な。

アイツは人目ってヤツが気にならねぇのか、ずっと俺の手を離さねぇ。
たまにアイツの方を見たら、そのたびに目が合う。アイツがずっと、俺を見てるからだ。

何が面白いのか知らねぇがよ……。前、見ろよ。俺がソッチ見れねぇだろ。


妙に鼓動が騒がしい。
ビルメリオって奴の事を。アイツに、話そうかどうしようか……迷ってるってのに。
このまま話さずにいてもいいか。なんて思い掛けてる始末だ。



だが……もう駄目だ。ここいら辺で、自分をしっかりさせねぇと。

思い出せよ、ルサージュ。
今のアイツが、俺に対して甲斐甲斐しいのも、懐いて来てンのも……本来の居場所に帰れねぇからだ。記憶が戻りそうな気配がまるで無いからだ。

なら……僅かでも、記憶を刺激する可能性があるンなら。
教えてやるのが、大人ってもんだろ? なァ?


「ビルメリオ……だったか? お前が、探してた相手……。」
「え、あ、うん?」

急に話し出した俺に、アイツは不思議そうに返事する。
どう伝えればいいモンか、俺は言葉を探して考え込んだ。声が上手く出て来ねぇ。

まだビルメリオが見付かったワケでもねぇのに、無駄に期待させンのか。


「何か伝えたいなら言ってくれ。」

俺の手を握る強さに、何でか知らねぇが泣きそうになった。


だが……惚れちまったら遅いんだぞ。こんな、一回り以上も、年下に。




何食わぬ顔で俺は、アイツに話した。俺が調べて分かった、ビルメリオの事を。

嬉しそうになったアイツだが、すぐにその顔が曇る。
兵士を辞めたって事に、動揺してるようだ。

繋いだ手の小さな震えから、アイツの辛い気持ちが伝わって来る。


「兵士を辞めたからって不幸だとは限らねぇぞ?……それが例え、辞める経緯に辛い事があったとしても、だ。」

それがあんまりにも心細そうで。
離してやらなきゃならねぇアイツの手を、俺は無意識で強く握った。
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