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第三章 ~改めてゲームを見守ろうとしてから自分の名前を思い出すまで~

恐怖と震え

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「あっ……お~い! お待たせぇ~!」

ボンヤリ考えてたら、リオの声。
店から出て来たリオが寄って来る。リオ一人だ。

清々しいって程じゃないけど、リオはそれなりにスッキリした顔をしてた。


「話、終わったよ。まぁ……一応、円満退職。……って感じぃ?」
「なんで疑問形なんだよ。……えっと、リッカは?」

すぐ出て来るだろうって思ったのに、リッカの姿が無い。
リオはちょっと微妙な表情になって、人差し指で自分の顔を掻いた。

「あぁ……なんかさ、まだオーナーと話してる。先に帰っていい、って言われて。」
「そっか。じゃあオレも、そろそろ行こっかな。」


リッカと話し込むんなら、やっぱりユーグって……あのユーグなんだろな。
ヒーローのハーレムに入って、リッカと『妻仲間』になる、あのユーグ……。
見たいなぁ。

でも怖いなぁ。
それにもう夕方だ。詰め所に行かないと。






果物屋で買い物してく予定のリオと、途中まで一緒に行くオレ。
リオと並んで娼館エリアを歩いてたら、時々通行人がこっち見てるのに気付いた。

あ~これ、リオが人目を引いてるな。間違いない。流石はタチ娼夫。


「凄いな……。リオ、結構見られてるぞ。さ・す・が。」
「タチだからな~。こんなモンだろ。」

事もなげに言うリオ。
いかにも慣れてる感じで、整った顔に浮かべる余裕の笑みが羨ましい。

「案外さ。アンタも見られてるんじゃない? タチっぽいしな。」
「それは無い。」

オレが一人で居ても、こんなに見られた覚え無いもんな。
自分で言ったから、ちっとも悲しくなんか無いぞ。






果物屋でそれぞれ買い物して、オレとリオは別れた。
緩やかな坂道を、オレとは反対方向へ上ってくリオを見送る。


リンゴの袋を抱えたリオの後姿は、ほんとにリッカに良く似てる。
……まさか、リッカがリオで、オネェがリッカだったとはなぁ。

ちなみに、オネェなリッカは三十代でも綺麗だ。
オレはリオをリッカだと思ってたし、年齢も違ってたから気付かなかったけど。今のリッカには、ゲームで見てた十代後半のリッカの面影がちゃんとある。



……なんて。ある意味で感慨に耽ってたから。オレは反応が遅れた。



リオのすぐ後ろを、路地の陰から出て来た男がマークするみたいに歩いてる。
男の手にそれが見えて、ハッとして。駆け出したけど間に合わない。


男が、無防備なリオの背中にナイフを突き出す。



オレは必死で叫んだ。


「リオおおおおおぉーーーーーーっっっ!」




驚いた顔で振り向いたリオと、男の身体が激しくぶつかって。

リオの悲鳴。
転げ落ちるリンゴ。


二人はもつれ合うように倒れ込む。
男が更に斬り付けたのか、リオの悲鳴がまた響いた。



「ハァ、ハァ……。お、前が悪ぃんだぞぉ~?」

起き上がった男が、倒れたままのリオを見下ろして言う。
男は、オレの方にもナイフを向けた。


「お前もだぁ~。コケにしやがっ……っぐ、うあぁあぁっっ!」

憎悪の眼差しを向けて来る男……口髭男の腕を。


オレに向かった伸ばして来た腕を、手加減ナシに掴んで、引っ張って、跪かせて。

口髭男の、肩の骨を、外した。




リオが刺された場面を見たか、悲鳴を聞いたかしたんだろう。
痛がって地面に転がった口髭男を、周囲にいた人々が押さえ掛かってる。

そんなのどうだっていい。


「リオっ! リオ、大丈夫かっ!」

オレはリオに駆け寄った。
横たわったリオの太腿辺りから脚の付け根まで、衣服が切り裂かれてた。
さっき、顔の怪我で見たよりも大量の血で、布も肌も真っ赤に染まってる。それどころじゃない。血管が脈打つたびに、ドクドクと溢れて来るような……。

それを見たオレの方が、心臓をギュッて握られた感じだ。


「り……っ! リオぉ! しっかりしろっ!」
「聞こ、え……てる。…って。」

大声を出すオレに、リオが弱弱しく答える。顔色が悪い。
震える唇を無理に動かして、リオは喋ろうとする。


「なぁ、あのさ……。もし、アンタの…」
「リオ、無理に喋るな。今、病院に連れてくから。」
「…名前。分かっ、たら……教えろ、よ?」
「……っ! いぃからっ、喋るな!」


変なことを言い出したリオを、黙らせて抱え上げた。

気付いたらオレも震えてた。


明らかな害意を込めて、誰かが切り付けられる。
そんなのを見たのは初めてだった。
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