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第三章 ~改めてゲームを見守ろうとしてから自分の名前を思い出すまで~

ルサーと話がついてたリオ

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オネェ……いや、リッ……いや……。


あー。うん、変な抵抗は止めよう。

リッカ、って何度か名前を言ってたオレだけど。忘れて欲しいって願ったりもしたけど。
ある意味じゃ間違ってなかったんだから、それでいいじゃないか。




オネェ改めリッカの家は、勤めてる娼館の一階だった。
今働いてる店をちゃんと辞職する前に他の店に入るのは良くないって、リオがちょっと入り難そうだったのを、「お店を通らずに、裏からアタシの部屋に入ればいいのよ」って。
オネ……じゃない、リッカはちょっと強引にリオを引きずり込んだ。

リッカの部屋はリビングと寝室が一部屋になってるようで、予想してたよりずっと広かった。
トイレやシャワー室もちゃんとあって、正直、日本での大学生の一人暮らしよりだいぶ良さそう。
もう一部屋、ちょっと狭めな部屋もあるんだけど、そっちは物置として使ってるらしい。治療道具を取りに物置部屋に入ったリッカはすぐに戻って来た。

ちゃんと片づけてあるんだろうな。同じ三十代でも、物をアチコチに置きっ放しのルサーとは違うようだ。


リオの怪我を、リッカはテキパキ治療した。
目のすぐ上からオデコにガーゼを貼り付けられて、リオは何だかとてもむず痒そう。リッカお手製のクッキーを摘んでるけど、視界がちょっと狭くなってるのか、ちょいちょいガーゼを気にしてる。



オレとリオは丸いテーブルを挟んで向かい合ってた。
ちゃんと話せるようにって、リッカが気を利かせてくれたからだ。

……うん。あの。ルサーが、さ。


「ルサー、って兵士の人が言ってたけど。……アンタ、自分の記憶が無いんだって?」
「うん……まぁ。名前だけな。」
「なんか悪いね? おれが、ビルメリオって子じゃなくて。」
「や、そんな、リオが謝ることじゃないだろ。」


前にルサーが言ってた、ビリーかも知れないソレっぽい人って……リオだったみたいだ。
オレの知らない間にビリーを探してくれてたルサーは、もしかしたらって可能性を感じて、リオに声を掛けてたらしい。

……自分の知り合いで、名前を忘れちゃった男がいる。
もし知り合いだったら名前を教えてやって欲しいし、そうじゃなくても何かの拍子で思い出すかも知れないから、ソイツが訪ねて来たら会ってやって欲しい。……って。


この町や付近にある養育所の出身じゃなくて、割と最近に町にやって来た、若くて、元・兵士。
ここまで合致してて、しかも呼び名が『リオ』だから……そりゃあルサーも、ソレっぽいって思うよな。この情報だったら、オレだってそう思うぞ。



「あはっ、確かにね~。ちょっとだけ聞いた話だと、おれの知り合いじゃなさそうだな。って思ってたけど…」

リオは記憶を辿るように、ジィっとオレを見た。

「やっぱり知り合いじゃないね。……おれの顔見て、何か思い出したりする?」
「あ~~~。……いや。」

思い出すのは、ネームドキャラとしてのリッカのエピソードなんだけど。
そんなん言えないからなぁ。


「名前が分からないんじゃ不便だね。」
「ん~。たまに不便だけど、普段はそうでもないぞ? 今、そうそう名前を呼ばれる機会も無いし。」
「おれがアンタを呼ぶ時に困るじゃ~ん。」

リオが大袈裟に口を尖らせるけど。そうかなぁ?
エルシード……じゃない、エステードさんはオレを「そこのキミ」みたいな感じで呼んで、特に不便は無いっぽいんだけどな。

「まぁそこは適当にリオが工夫して呼べば?」
「なんだ、丸投げか。」

ガーゼを指でツンツンしながら、リオはちょっと考えるような素振り。

「そ~だ、ハニーって呼んであげよっか?」
「やだ。」
「うわ、即答した~。ひどい~。」

酷いって言いながら、リオがケラケラ笑った。
オレもなんだか、久々に友達と話してるような気分。

でもちょっとリオ、急に明るく振る舞い過ぎじゃないかな。働いてるお店を辞めるんだ、凄く不安になっておかしくないのに……。
自分の名前も忘れてるオレに同情して、オレを慰めてる場合じゃないのに。オレなんかを……。



……って。


……だああぁぁっっ! ネガティヴ思考、やめえぇーいっっ!
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