上 下
65 / 364
第三章 ~改めてゲームを見守ろうとしてから自分の名前を思い出すまで~

オレの虚勢とオネェの癒し

しおりを挟む
この世界じゃ、ハーレムで生まれた以外の子供は普通、養育所で育つ。
成長してく子供は、例えば貴族や金持ちに跡取りとして、例えば少し余裕のある夫夫(ふうふ)に大事な家族として……引き取られるか、成人して卒業するまでの間に、養育所で色々と教えて貰う。

読み書き、計算、野草の中から毒と薬と食べられる物を見分ける方法、炊事、洗濯、掃除、裁縫、物作り、乗馬、馬車を操る方法、狩りの方法、弓矢や罠の取扱い方、外で寝なきゃいけない場合にどうしたらいいか、テーブルマナーに性教育……とか。
他の養育所がどうかは知らないけど、オレの居たとこはそうだった。

特に真剣に教えられたのが。……人に襲われたら、どうしたらいいか、だ。

オレが教わり出したのは十二歳くらいだった気がする。ここ最近は十歳の子にも教えてたな。
戦う方法じゃなくて、逃げる為だったり、生きる為だったりの方法を。

年齢が上がるにつれて。
自分を守る為の護身術、同行者も守る為の護身術……って、一人一人の修得具合や適性やらで、内容の難易度も上がる。
扱う物も、素手、短剣術、剣術、槍術……って変わってく。

オレは、武器を持ったセンセイ相手に抵抗する訓練もあって……どんな地獄だよって当時は思ったさ。





今回は山賊みたいに大人数じゃなかったし、たまたま一人ずつ向かって来てくれてたし、オレを殺してやるって程の殺気が相手には無かったし。だから、オレ一人でも対応出来たんだ。

ヘタしたらこんなんじゃ済まなかったかも知れない。
オレも相手も酷いケガをするような、もっと残酷な戦いに発展してたかも知れない。


実際に誰か人を殴ったのも、その腕をへし折りそうな勢いで押さえ付けたのも、オレは今日が初めてだった。
まだ腕に重たさが残ってるみたいで、掌が熱いような気がしてる。



「二人とも……有難う。オネェさん、大丈夫?」

リオは、地面にヘタり込んだオネェが立ち上がれるよう、手を貸そうとしてた。
前に見たときはワンサイドに纏めてた髪が乱れて、顔に掛かっちゃってる。

凄くリッカに似てるんだけど、違うんだよな。


「えぇ、どうにか……。まだドキドキしてるわ。しゃしゃり出たくせに、アタシったら情けないわねン。」

答えるオネェはまだ動きがぎこちない。
リオに身体を支えられたオネェは、立ち上がる前の中途半端な状態で、片手をオレに差し出した。
二人のとこに駆け寄れず、固まっちゃってたオレに向かって。


「ねぇ? ……手を。貸して貰える?」
「あ。あぁ……もちろん。」

呼び寄せられて、ようやくオレの身体が動いてくれた。


リオと一緒に、オネェを立ち上がらせる。
オネェが掴まったオレの手は、そのままオネェの両手に優しく包まれた。


「……手。震えてるわよ。」
「あっ……。」

バレちゃった……。
凄い恥ずかしい。オレ、だいぶカッコ付けてたから。


何だか居た堪れない気分になるオレを、元気付けるみたいに。
オネェはオレの手をギュッてした。

「アナタが、天守さまみたいな超人じゃなくて。ふふっ、ちょっと安心したわ……。普通の人なのに、庇ってくれたのね……。」

オレの手を見つめるオネェの声がまるで、頑張った小さな子を褒めるみたいだ。


「助けてくれて、有難うね。」
「……うん。」

オネェが鮮やかに微笑んだ。
それを見ただけで……良かった。って、そう思えた。恥ずかしいけど。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

四大精霊の愛し子はシナリオクラッシャー

ノルねこ
BL
ここはとある異世界ファンタジー世界を舞台にした、バトルあり、ギャルゲー・乙女ゲー要素ありのRPG「最果てに咲くサフィニア」、通称『三さ』もしくは『サン=サーンス』と呼ばれる世界。 その世界に生を受けた辺境伯の嫡男ルーク・ファルシオンは転生者ーーーではない。 そう、ルークは攻略対象者でもなく、隠しキャラでもなく、モブですらなかった。 ゲームに登場しているのかすらもあやふやな存在のルークだが、なぜか生まれた時から四大精霊(火のサラマンダー、風のシルフ、水のウンディーネ、地のノーム)に懐かれており、精霊の力を借りて辺境領にある魔獣が棲む常闇の森で子供の頃から戦ってきたため、その優しげな相貌に似合わず脳筋に育っていた。 十五歳になり、王都にある王立学園に入るため侍従とともに出向いたルークはなぜか行く先々で無自覚に登場人物たちに執着され、その結果、本来攻略対象者が行うはずのもろもろの事件に巻き込まれ、ゲームのシナリオを崩壊させていく。

断罪だとか求婚だとかって、勝手に振り回してくれちゃってるけど。僕はただただ猫を撫でたい。

たまとら
BL
じいちゃんに育てられたリラク。 なんか、ちょっと違うみたいだ。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

至って平凡なハーレムのお話

える
BL
 夢から醒めたら、世界線が変わってしまった主人公。  気になる人達と両片思いの状態でスタートとか、俺得でしかない!!  ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈  緩く書いていきます。  随時リクエスト募集、誤字脱字報告はどうしても気になった場合のみにお願いします。  ~更新不定期~

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

アリスの苦難

浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ) 彼は生徒会の庶務だった。 突然壊れた日常。 全校生徒からの繰り返される”制裁” それでも彼はその事実を受け入れた。 …自分は受けるべき人間だからと。

処理中です...