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第三章 この国に来た頃まで戻って
80 今回のセルゲイ・ランバルト
しおりを挟むまるで知り合いに話し掛けるような声掛けをされて。
思わず僕は立ち止まってしまう。
一緒に手を繋いでるホゼと先輩も、不思議そうな表情で足を止めた。
ランバルト様が走って来る。
思ったよりも素早くて、あっという間に僕の目の前まで。
お付きっぽい人が慌てて追い掛けて来て。
「こんにちは、セルゲイ・ランバルトです。知ってるでしょ?」
「ぁ……あの…ぇっと……。」
ぐぐいっ、と詰め寄られた僕は返事に困った。
この人生では初めて会ったはずの、ランバルト様の言葉が。
自分の中で、まだちゃんと呑み込めてないんだ。
正直な気持ちは……警戒、してる。
今の、ランバルト様の発言を。
だって余りにも、僕に都合が良過ぎる。
今まで全然、そんな気配も無かったのに。
ランバルト様に前回の記憶があって。それで、僕に話し掛けてくれた……なんて。
普通は記憶があっても、それを誰かに伝えるかどうかは別の話、だと思う。
聞いた人が信じてくれるか……うぅん、信じられなくても仕方ない話だから。
なのに、ランバルト様は僕に話した。
直接それを示す言葉は無くても。自分には今の人生とは異なる記憶があることや、僕も同じように記憶があると確信してることを、匂わせるような話し方で。
「こんにちわっ、ゆあはゆあだよっ。ホゼはホゼだ…」
「ちょ……! おい、ホゼっ!」
話し掛けられた僕が返事を躊躇してる間に、ホゼが挨拶を返してしまった。
またもや先輩が顔色を青くしてホゼを止める。
ほとんど言い終わっちゃってるけど。
「子供が出しゃばってすいませんっ。たぶん、代わりに答えるつもりで…」
先輩の謝罪を聞きながら、ランバルト様はチラッとホゼに視線を向けた。
僕はぎゅっとホゼを抱き締める。
どうしよう。
ホゼが目を付けられちゃったら。
すぐに返事をしなかった、僕の所為だ。
僕は怖くなった。
貴族を不愉快にさせた僕達が罰を受ける、って恐れじゃなくて。
もし、ランバルト様が。
前回や前々回の義弟のような人物だったら。
僕を "ざまぁ" するだけじゃなく、邪魔になった他の人達にも敵意を向けるような人だったら。
……僕に懐いてる、ホゼにも。刃を向けるの……?
「ホゼ。」
「なぁに?」
震えそうになってる僕の前で、ランバルト様がホゼに声を掛ける。
僕の腕の中で、ホゼは何の恐れも無さげに首を傾げる。
「キミ、6歳の割には顔が丸いね。ちょっとデブ予備軍だよ。」
「えええっ?」
ホゼの驚く声が響き渡る。
声は出さなかったけど、先輩も驚き顔をしてる。
「ホゼ、太ってないもんっ!」
「太り気味だよ。……そこの、貴方。」
「えっ、俺? いや、わた…」
「ホゼが経営者の息子だからといって、甘やかしてゴロゴロさせてばかりじゃなく、少しは運動させた方がいいです。まだ小さな子供だから食事を制限するのは問題があるし、甘い物を与えない方法より、食べた分だけ身体を動かす方向で考えた方がいい。」
太ってる呼ばわりされて頬っぺたを膨らませたホゼから、ランバルト様は視線を先輩へと移した。
それから片腕を、神殿の敷地の奥へと向けて。
「あっちに子供が転げ回ってもいい芝生があるんで、そこで遊んだらいいです。」
「ホゼ、お菓子貰いに来たんだもん、並ぶんだもんっ。」
「じゃあまず、向こうにあるテントに行って整理券を貰っておいで。お菓子を貰う為の行列は無いよ。どうせ大人しく並んでられないんだし、邪魔になるだけだからね。」
抗議するホゼに、ランバルト様は別な方向を指さした。
言われてみると確かに、行列のようなものはどこにも見当たらない。
教えてくれるなんて、親切なんじゃ……。
そう思ってから、僕は気を引き締める。
駄目だよ、これくらいの親切で。
あの義弟だって出会った頃は親切だったじゃない。
信用は出来ない。まだ警戒しなきゃ。
「整理券を貰ったら、後は敷地内の好きな場所にいればいい。」
「そうなの? じゃあ行って来る。」
「かっ…重ね重ね、すいませんでしたっ。これで失礼します。」
「ご親切に有難うございました。」
先輩と一緒にお礼を言って、その場を離れようとして。
ランバルト様に、僕は引き止められた。
「さっきの返事を聞いてないんですけど。僕を知ってるでしょう?」
「…………はい。少し、ですけど……。」
改めて問い掛ける言葉を、僕は肯定した。
嘘や誤魔化しじゃ見逃してくれそうにない。そう思ったから。
「……っ! で…ですよねぇっ、やっぱり!」
僕の返事を聞いたランバルト様は嬉しそうに目を輝かせた。
その表情はまるで、喜んだときのホゼみたい。
ランバルト様は輝く笑顔で、僕の肩を掴む。
急な距離の詰め方に、僕の方は顔が強張ってしまった。
……どっちなの? ランバルト様は僕の敵になる人? それとも僕と同じ?
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