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劇場のこけら落としにて

こけら落としにて・4  ◇長男レオナルド視点

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リーヴェルト帝国民のポピュラーな娯楽と言えば、最近はやっぱり観劇だろうな。
劇場に足を運ぶなんぞ、いかにも貴族か金持ちが好みそうな贅沢に思えるかも知れねぇが、近頃は劇場やそれに近い施設も増えててな。手頃な値段での上演もあるらしく、一般的な庶民も割かし楽しんでるらしい。
他国との関係が上手く行ってるのもデカいが、帝国じゃあ割と芸術関係は大事にされてるんだ。

特に有名なのは、ウェンサバ劇場。老舗中の老舗劇場だ。
ここは皇帝陛下の兄弟が代々、強力な後援者になってる所でな。
行く行くはクリスティ殿下かジェフリー殿下のどちらか、あるいはお二人が後援者になるハズだ。


今日の夕方、ウェンサバ新劇場のこけら落とし公演がある。
特別な招待客だけが観られるプレミアムな演目だ。
父親が宰相をやってる関係で、オレとレイもその催しに参加する予定だ。




ガタッ! …バタンっ!


……なんだ、うるせぇな。



「いつまで風呂に入っている気だ、レオっ!」

乱暴に扉を開ける音がしたと思えば、弟のレイモンド……レイだった。


急かしたくなる気持ちは理解してやるがよ?
兄ちゃん、今、身体を洗ってんだぞ? 泡だらけだろう?
バスタブにも並々と湯が張ってあるし、さっき軽く流したから床タイルだってビショビショだろぉがよ。まさか、見えてねぇのか?
そんな状態の風呂場にお前、ガッチリ服を着込んだ状態で入って来るんじゃねぇよ。


……そう言ってやろうと思ったんだが。



「レイ……蒸れるぞ?」
「大体が時間にルーズ過ぎだっ。昼を過ぎてもなかなか帰って来ない。だいぶ予定から遅れて帰って来たかと思えば、のんびりと風呂になぞ入りおって……手早くシャワーで済ませろ。騎士団ではこんなに緩くても許されるのかっ。」

口数が多いぞ、レイ。
兄ちゃんの言葉は無視か?
気持ちは分かったから、とりあえず出てけ。
泡まみれの兄貴の裸体をずっと見続ける趣味は無ぇだろう?



「……何時だ?」
「もう、午後二時半だぞ。三時には出ようと考えていたのに……。」

おいおい、嘘だろ?
開演は確か、午後五時半だったハズだ。
ウチからウェンサバ劇場までは馬車で約二十分。
三十分前に入場するとして、午後四時四十分……道路が混んでて時間が掛かるかも知れねぇって事を考えても、四時半に出りゃ充分だろうがよ。



「分かった、なるべく急ぐ。」
「頼むぞ、レオ。……本当にもう。」

イライラしながらレイが風呂場から出た。
姿が完全に見えなくなるのを待って、オレは身体を洗うのを続行する。
時間は結構あるんだしよ、中途半端にしたって仕方ねぇからな。


それにしたって、今日のレイは随分せっかちな事だ。
よっぽど楽しみなんだろうな。
オレもまぁ、こけら落とし公演も楽しみっちゃあ楽しみなんだが……。
ソッチよりも、今日は。
恐らくジェフリー殿下と、貴賓室で一緒になるだろう、って事の方が重要なんだ。
だからオレはシャワーで汗を流し、身体を石鹸で洗ってる。

……おい? 言っておくがなぁ? 別に何かヤラシイ事を考えて、じゃねぇぞ?

今日オレは、騎士の仕事を休めなかったんだ。
ちょっと立て込んでてな。劇場に芝居を観に行くって理由で仕事を丸一日休むのは、流石に憚られる状況だったんだから仕方ねぇ。
どうにか午後半日の休暇を取れたものの、正午ですんなり仕事から上がれず、焦って帰って来たから汗だくでな。
そんな汗臭い状態で、劇場なんぞ行けるワケがねぇ。
貴賓室は狭くはねぇだろうが、凄く広いって程でもねぇハズだ。
そこでジェフリー殿下とご一緒するんだからよ、しっかり洗うのは当然だろう?

小娘みたいだ、とか言うなよ?
むしろ、紳士として当然の気遣いだろうよ。


……とは言え。レイをあんまり苛々させとくのも良い事は無さそうだ。

オレはそこそこ手早く身体を洗い。
湯船に浸かって余計な汗を排出する時間も十分程度に抑え。
身体に付ける練り香水をどうするか考えながら風呂場を出た。
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