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学園の感謝祭にて

学園の感謝祭にて・7  ◇長男レオナルド視点

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一年に一度開催される『学園感謝祭』を見物しに、オレは久方振りにヴェルデュール学園へやって来た。
いつもは生徒や教師、学園関係者だけが集う敷地内は色々な人間で賑わってる。
校門や校舎は華やかに飾り付けられ、正門から入った広場ではさっそく、生徒達が様々な屋台から良い匂いを出してた。

沢山の人々に感謝の気持ちを込めて日頃の成果をナントカカントカ……って大層な建前を掲げちゃいるが、要するにお祭り騒ぎって事にゃ変わりねぇからな。
久し振りの『こういう雰囲気』に、オレまでちょっと浮かれた気分だ。



「さて、と……まずは、レイの所に顔を出しとくか。」

弟のレイモンドは最上級生。これが最後の感謝祭だ。
なんでも、今年はクラスの出し物で何やら趣向を凝らした喫茶店をやるらしい。
帝国の歴史について楽しみながら知って貰う、とか……確かそんな感じの話をレイがしてた、ような気がする。


あぁ、いや、違うぞ? 誤解の無いように言っとくが、別にオレが弟の話を丸っきり聞いてなかった、ってワケじゃねぇからな?
レイはまだ学生って身分だけどよ。一応、宰相である親父の後継者として、学園の四年生に上がった頃から、親父の仕事にちょくちょく付いて回ったりしててな。まだまだ補助にもならねぇだろうが、それなりに忙しく頑張ってるようだ。

……で、だ。
感謝祭の準備期間にはちょっと、脂っこい……いや、あんまり頻度は無ぇんだが面倒臭い案件があったらしい。
準備期間の殆どに重なるような時期だったんで、レイは出し物の準備にはほぼほぼ関われなかったようでな。だかたレイ自身もあんまり内容を知らんかったんだ。



「遠いんだよなぁ、アイツの教室……。」

最上級生のクラス教室は奥まった位置にある。
その中でもレイが所属するクラスは一番奥にあって面倒臭い。

遠いって事自体が問題なんじゃねぇ。
校舎の奥まで行って、戻って来るまでの時間が勿体無いって話だ。


オレの存在に気付いた生徒達や教師、オレと同じ卒業生連中の何人かが、そこら辺から声を掛けて挨拶してくる。
一番遠い場所にあるレイのクラス教室まで、この調子で歩いてったとして……どんだけ時間が掛かるんだか。
周りの奴等と同じように、オレも軽い感じで挨拶を返しながら。
自分でした予測で、早くもオレはウンザリした。




そもそもオレが感謝祭に顔を出すのは、二つの理由があった。

一つ目はまぁ……一応、弟の、最後の感謝祭だからな。
家族での夕食の席で「見に行ってやる」と約束した以上は、それを違えるワケには行かねぇだろ。
例え相手が弟だとしても、小さな約束でも、ちゃんと守ってやらねぇと。
もう二十歳になってすっかり可愛げも消え失せたような弟だが、意外とレイはその辺の事を楽しみにするようなトコがあるからな。行ってやらねぇと、もし待ってたら可哀想だろがよ。


二つ目の理由は……。
……いや、これは……あんまり当てにはならねぇんだが……。
感謝祭に第一皇子のクリスティ殿下が姿を見せる、って話があってな。
クリスティ殿下は催し物が好きらしいから、第一殿下が感謝祭に来るのは間違いねぇ。それも三日間、全部を見に来るって事も、オレは耳にしてる。

三日間の内のどれか一日。恐らくは初日である、今日。
学園を訪れるクリスティ殿下は、第二皇子であるジェフリー殿下を強引に連れて来るらしい……そういう話だ。

それで、その……な? ……あぁ、クソっ、だから……分かるだろ?

あぁ、……そうだ。
もしかしたら学園の中で、偶然な感じでジェフリー殿下に会えるんじゃねぇかって。
オレはそれを楽しみに、しっかり早い時間からココに来てるんだよ、悪かったな。セコい上に気持ち悪いってのは、オレだって重々承知だ、クソっ。

だがそれも、しょ~がねぇんだ。
騎士団の隊長として、皇城で姿を見掛けても。騎士団の基地内で姿を見掛けても。他の場所で見掛けても。
とにかく、どこでジェフリー殿下の姿を見掛けようが、オレと会話する事はおろか、ジェフリー殿下の声を聞く事すら滅多に無ぇんだぞ?
唯一の、ジェフリー殿下と濃厚な接触が出来そうな皇城で開かれる『交流食事会』でさえ、オレはあの有り様なんだからな。

だから……な?
レイの所であんまり時間が掛かっちまうと、せっかくジェフリー殿下が学園に来てたってのに、姿を見損ねちまうかも知れねぇだろ?
たぶんジェフリー殿下はクリスティ殿下に引きずり回されてる事だろうし、皇子殿下二人がわざわざ、校舎内の奥まった教室まで足を延ばすとは限らんからなぁ。





「……ん? なん…、だ………アレは………。」

レイの同級生達に渡してやろうと、用意して来た差し入れが思いの外、重たくてな。
さっさと渡してやろう、と思いながらサロンに足を踏み入れた……嘘だ、踏み入れる前から。

オレの視線は一点に……一人に集中した。



目的地に向かう途中の廊下にある、サロンの一角。
この場所からは、中庭だの温室だの、外にある他の施設へと抜けられる。
だから人通りも結構それなりにあるし、それでなくてもイベント中だ。休憩出来る場所なんだから賑わいがある。


その賑わいを全てぶん投げる勢いで、ソイツはオレの注意を惹き付けた。

もちろん……悪い方向で、だ。


それもかなり、激烈に……。



「……レイ…………。」

思わず、差し入れを袋ごと、取り落としちまう所だった。
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