上 下
15 / 60
定例の交流会にて

定例の交流会にて・14  ◇第一皇子クリスティ視点

しおりを挟む
「おや? レイモンド様ともあろう御方が? 何も知らない、だなんて……私よりも良~く知っているかと思っていました。」
「生憎と私は、子供の頃から好き嫌いや苦手なものが無かったもので。殿下のように、姉から嫌いな物を投げ付けられるという稀有な経験を味わう機会も無かったのですよ。」


俺が喋ると、ほんの僅かな隙間に言葉を捻じ込んで来るようにレイも喋る。
タイミングも本当に絶妙で、レイは俺の言葉を遮らない。声を重ねて邪魔になるような事が無い。
なのに、話が途切れちゃうような、微妙な気持ちになる空白の時間も全く無い。

それにレイは、声も凄く良い。
ちょっと硬めで男っぽいのはもちろんだけど、すっごい知性的で、低音過ぎない。
レイの唇から流れ出す声がまるで音楽みたいに、俺の耳に心地良く滑り込んで来る。



「なるほど。確かにレイモンド様は昔から何事も優秀でしたね。………。」

おおっと、危ない危ない。
ついウッカリして、さら~っとレオの方を見ちゃった。

こんな風にレオを見たりしたら、嫌味っぽいじゃないか。
いかにも「何事も優秀な弟のレイと比べて、長男のレオと来たら……」って言い出しそうな感じになるトコだったぞ。

まぁ……ちょっとは思わないでも、なかったけど。
好き嫌いが無かったらしいレイと比べたら。
レオはなんかメチャクチャ好き嫌いばっかりだったらしいじゃん? レイ達のお姉さん……ロッザに聞いた話だけどさ。
レオが食べられる野菜は、いも類と、キャベツと、トウモロコシだけ。って話には、俺もかなりビックリしたぞ。
今日だってサラダに入ってるプチトマトを相手に、一苦労してるっぽかったもん。



「ですから、殿下のお話にはとても興味をそそられます。殿下は一体、何が苦手だったのですか?」

あぁ……やっぱりソコ、突っ込んで来る? 来ちゃうヤツ~?
意外とレイ、過去の面白エピソードとか好きなんだな。
面白い話なら俺も嫌いじゃないけど。

でもなぁ……えっと、どうしよっかなぁ。

別に俺は話しても良いんだけど、俺のじゃなくってレオの昔話だからな。
子供の頃の話とは言えさ、勝手に話しちゃったら流石にマズイよなぁ。
いくらレオが大人だからって、もし嫌だったら怒らせちゃうもんな。


……ゴメン。せっかく広げてくれた所、悪いんだけど。
その話はパス、な? 
また別な機会に、この話題になった時に。話しても良いかどうかをレオに確認取れてから、にしよう。

じゃあ今、他にどんな事を話そうかな……?
せっかくだから、レオも知ってる事がいいよな。
食事中にむせさせちゃった事と、好き嫌いって弱点をさらけ出す羽目になり掛けた事への、俺なりの罪滅ぼしだ。

あっ、そうだ。騎士団で今度あるイベント…



現在、ネタになってる話題を潰そうってからには。
責任もって、代わりになる次の話題を提供しなきゃ。

そう思ったから、頑張って話題を見繕ってたのに。



「殿下のような大変お美しく完璧な人物に『苦手なもの』があったとは、お可愛らしい所もあるのですね。」

何を言われたのか、一瞬、理解出来なかった。
……なぁ~んて言う程、俺は純粋でも素朴でもない。


きゅ…っ。

明らかな俺への誉め言葉に、緩みそうになった口元を引き締めた。
それでも足りなくて、唇の内側を噛む。
一応、俺は第一皇子だ。外から見て、唇を噛んでるのがバレるような事はマズい。
なのに口角が、頬骨が勝手に上がってくみたいだった。


分かってる。別にレイは、真剣に褒めたワケじゃないって事ぐらい。
レイにとっては社交辞令にもならない、ほんの挨拶程度にしか意味はないんだろうけど……それでも、俺には充分だった。



レイが俺の事を……美しい、…って……。


俺の…聞き間違いじゃ、ない。


どう、しよう……、……嬉しい……っ!


嬉しいよぉ……。



あ、ダメだ、俺、たぶん、今、物凄く、ヘラヘラ、しちゃいたい。
……我慢、我慢だ。本当に洒落にならないから。
ジェフにはハッキリ言われてるじゃないか。
俺の笑顔は「気持ち悪い」んだからっ。
せっかく褒めてくれたのに幻滅されたくないよぉ。




「……もう、止めろ。」


叱られちゃった。
ただ、意外な事に。
俺を叱ったのはジェフじゃなくて、レオだったけど。


ハイ、ゴメンナサイ、調子に乗ってましたぁ~。
……って、この謝り方自体が調子に乗ってるよなっ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

罪人の僕にはあなたの愛を受ける資格なんてありません。

にゃーつ
BL
真っ白な病室。 まるで絵画のように美しい君はこんな色のない世界に身を置いて、何年も孤独に生きてきたんだね。 4月から研修医として国内でも有数の大病院である国本総合病院に配属された柏木諒は担当となった患者のもとへと足を運ぶ。 国の要人や著名人も多く通院するこの病院には特別室と呼ばれる部屋がいくつかあり、特別なキーカードを持っていないとそのフロアには入ることすらできない。そんな特別室の一室に入院しているのが諒の担当することになった国本奏多だった。 看護師にでも誰にでも笑顔で穏やかで優しい。そんな奏多はスタッフからの評判もよく、諒は楽な患者でラッキーだと初めは思う。担当医師から彼には気を遣ってあげてほしいと言われていたが、この青年のどこに気を遣う要素があるのかと疑問しかない。 だが、接していくうちに違和感が生まれだんだんと大きくなる。彼が異常なのだと知るのに長い時間はかからなかった。 研修医×病弱な大病院の息子

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

ツンデレ貴族さま、俺はただの平民です。

夜のトラフグ
BL
 シエル・クラウザーはとある事情から、大貴族の主催するパーティーに出席していた。とはいえ歴史ある貴族や有名な豪商ばかりのパーティーは、ただの平民にすぎないシエルにとって居心地が悪い。  しかしそんなとき、ふいに視界に見覚えのある顔が見えた。 (……あれは……アステオ公子?)  シエルが通う学園の、鼻持ちならないクラスメイト。普段はシエルが学園で数少ない平民であることを馬鹿にしてくるやつだが、何だか今日は様子がおかしい。 (………具合が、悪いのか?)  見かねて手を貸したシエル。すると翌日から、その大貴族がなにかと付きまとってくるようになってーー。 魔法の得意な平民×ツンデレ貴族 ※同名義でムーンライトノベルズ様でも後追い更新をしています。

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

処理中です...