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定例の交流会にて

定例の交流会にて・4  ◇長男レオナルド視点

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あぁ、もういい。クソ馬鹿らしいったらねぇや。
食おう。せっかくの食事会だ。コッチを見ない相手の事なんぞ気にしても仕方ねぇ。



決意を固めたオレは、遅ればせながらフォークを手に取った。
サラダすら食い終わってない辺り、自分でも笑えて来る。

しばらく黙々と食ってたんだがやっぱり……どうしても気に…なって、な。
チラッとぐらい、ジェフリー殿下を見てもいいじゃねぇか、と。
正面からじゃなく、ちょっと皇帝陛下の方を見る振りして、視界の中に入れればいいんじゃねぇか、と。
皇帝陛下と親父の会話を聞いてる振りしてるんだから、バレねぇだろ、と。



そう考えて顔を上げたんだが、やっぱり止めておけば良かった。
どうにも間の悪い事に、第一皇子のクリスティ殿下と目が合っちまった。

別に後ろ暗いわけでもないのに、つい内心、ギクッとしたのが悪かったんだろう。
クリスティ殿下の視線が、オレの何かを探るようなものになり。それからジェフリー殿下へと目線を流した。


おい、どうした? 自分の弟に何か用があるなら、さっさと話せよ。
何故そんな無言で、ジッと自分の弟を見詰める?

まさか、オレがジェフリー殿下をずっと見てた事に気付いて……いや、まさかな。
それとも実は、オレが気付いてないだけで……、さっきからのオレの様子はしっかりバレてた。とか、じゃねぇだろうな?
おい、まさかそれを、ジェフリー殿下本人に知らせる気か。
違うよな? そんな話を伝えた所で、アンタには何の意味も無いハズだ。



例えオレがジェフリー殿下を見てた事を告げられたとしても、それだけで特に何かが分かるはずも無い。
そう自分に言い聞かせながら、同時にオレは、上手い言い訳を必死に考えた。
考えながら、つい視線はジェフリー殿下に向かう。

そしてオレは、残酷な現実を見た。
ジェフリー殿下はサラダから一瞬たりとも、その綺麗な紺碧色の瞳を移さなかった。


一切、全く、微塵も気にされてねぇ……か。
そりゃそうだ、何かを喋ったんでも無いからな。
気配ごときじゃあ、目線がピクリとも動かねぇかねぇよな。
元から何の興味も無いんだ。分かってたさ。



分かってたのに今更、落ち込むとか……あり得ねぇよ…………。




   *   *   *




皇帝陛下と親父の雑談は、海釣りという単語から、姉の話へと移り変わってた。

姉のロッザ(ロザリンド)は半年前から、第一皇女であるディアーネ殿下の外遊に同行させて貰ってる。
ちょっと前から小国連合に属する海沿いの国に滞在してるって話だから、恐らくあと半年は戻って来ない予定だ。
その姉が、滞在先から素晴らしい釣竿を送って来た、ってわけだ。
オレは釣り竿の事はよく知らねぇが、どうやら姉が送って来たのは海釣りに特化した物らしい。嬉しそうな顔した親父には正直ムカ付いた。


散々喋って、自慢して、興奮して疲れたんだろう。
お互いに咽喉を潤そうとグラスに手を伸ばしたタイミングが重なり。
ふと、会話に隙間が出来た。




そこに入り込んで来るのがクリスティ殿下だ。


「流石はロザリンド嬢だ。実に相手の事を考えた、心の暖かい贈り物ですね。」

いつも、こうだ。何か言わなきゃ気が済まねぇのか。
黙ってれば綺麗な皇子サマなんだがなぁ。

口を開いた今だって、よ。
本人からすりゃ、嫌味の一環で冷笑を見せ付けてるツモリなんだろうが。薄い色の金髪と青系の瞳は、相当綺麗に作り込まれた人形みたいだ。
話がこれで終わるなら普通に美形、だな。何も知らねぇ奴なら見惚れるだろうさ。


だが……わざわざコッチを見て来たって事は。
こっから本格的に嫌味か罵りが始まるんだろう。そう思えばちっとも可愛くねぇ。



「好き嫌いを無くしてやろうと気遣ったロザリンド嬢から、大嫌いな物を山ほど投げ付けられた事も……良い思い出になりますね?」
「ぐっ……。」

その言葉に、驚いたオレは危うくむせ返る所だった。


台詞の文字面だけは、穏やかで親しみやすい丁寧さだ。
だからこそ、そこに。クリスティ殿下の静かな怒りが表れているようだった。
咄嗟に歯を食いしばり、難を逃れる。無意識のうちに拳を強く握ってた事にも、オレは気付いてなかった。

もしかしたら。常識的に考えれば、あり得ねぇ事だが。
だが、あの悪魔オンナなら、……オレ達にしたのと同じ事をクリスティ殿下に対して、絶対にやってないとも言い切れねぇ。
過去に、実際に起こってしまったのかも知れない、姉貴の『やらかし』を想像して、オレはちょっとゾッとした。
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