人形皇子は表情が乏しい自覚が無い

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定例の交流会にて

定例の交流会にて・9  ◇第二皇子ジェフリー視点

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リーヴェルト帝国の皇帝ルクルーゼは僕の父上です。
濃い紺色の瞳と、とても色の濃い金髪を持っていて、いかにも威厳に満ちた皇族といった風貌をしていますが、若い頃の父上はまるで人形のようだったと言われてもいます。

人形のように……顔立ちが整っている、という意味でしょうか。それとも、無反応で面白味がなかった、という意味でしょうか。そこまで詳しくは、僕の耳には入っていません。
この身体に流れる血の半分は父上のものですから、いずれ成長すれば僕も、父上のような容貌になれるのでしょうか。

僕の目は紺碧色です。髪の毛は明るい金髪。緩やかなウェーブが掛かっています。
何人かいる兄弟姉妹の中で、最も父上に近い色合いをしているのが僕でした。


王妃である僕の母は、結婚後しばらく子供が授からず。必要に迫られて側妃が迎えられました。第一皇女である姉ディアーネを産んだのはその人です。
皮肉な事に、それから少し経って。側妃が二人目の子を宿した事が分かった後、僕の母も子を授かったのです。

側妃の二人目の子が、第一皇子であるクリスティ。……誕生日の関係で僕が弟になりましたが、僕達の年齢は一緒なので、兄の事をクリスと呼びます。
クリスは薄水色の目で、白金色の髪は細い縦ロールです。線が細い印象な事も相まって、密かに『人形皇子』と呼ばれているらしいですね。


クリスが『人形』……とはねぇ。人形は簡単に表情を崩したりはしませんが?

確かにクリスの顔は綺麗です、それは間違いありません。
ただ、それを台無しにするぐらい、すぐ油断してヘラヘラ、ニヤニヤしてしまう悪い癖があるんですよ。



これからもうすぐ『交流食事会』が始まります。
父上が定期的に開催している、臣下及びその家族との食事会です。
しかも今日の参加者は、宰相閣下とその子息二名だと聞けば。
いつものように、またクリスが饒舌にお喋りをする事でしょう。

普段から緩々なクリスの表情筋が壊れぬよう、僕はそっと祈るしかありません。




   *   *   *




テーブルを挟んで、あの人が僕をじっと見詰めています。
とても熱っぽく、男らしい眼差しで、僕の全てを包み込むように。
視線で絡め捕られたように、僕は動けなくなってしまいました。
思い切ってそっと視線を投げ返せば、あの人は凄く優しく瞳を細めるのです。


…………という妄想をしながら過ごしていました。
材料は目の前にいるので容易なものです。
黙々と食事を摂りながら、ぼくは本人に気取られぬよう巧みに、そのお姿を視界の中に捉えていました。



僕の真向いの席にいるのは、今回も宰相閣下の長男レオナルド様でした。
脳内では『レオ様』と呼んでいます。
暗いヘーゼル色の目は彫りの深い顔立ちを、より男らしく引き立てて。黒に近い暗灰色の髪がサラリと揺れる様子は、とても大人っぽくて……色気が溢れていて。
暇そうに正面を向いているだけでも、凄く絵になる人です。


レオ様の視界に入っているんだから、と。
僕は頑張って、自分の顔面を……表情を整えています。
あの人の目に映っている時は絶対、変な顔はしたくないので。


クリスの表情筋が緩い、と言いました。
それは僕も、同じなんです。

僕の笑顔はどうやら、ゼロか百か、どちらかしか無いらしくって。
大口を開けて下品に笑っている自覚は無いのですが、クリスから「ジェフは黙ってる方が絶対、可愛いよ」と言われるぐらいには。無表情でいる方がまだ綺麗……、……すみません、見栄を張りました……まだマシなようですから。



緊張して、レオ様を直視する事は出来ません。
でも、いいんです。
お互いがお互いの視界内に入っている。それだけで充分にドキドキしているんです。
これがもし、目が合ったりしてしまったら。
僕は、自分の表情筋がおかしくなってしまうだろうという自信があります。
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