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本編●主人公、外の世界に出て色々衝撃を受けたりしながら遊ぶ

ぼくの兄は心配性

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侍従のベニーに、しっかりと身支度をして貰ったぼく。
いつもは梳かすだけの髪も、今日は両サイドを一房ずつ取って、それを捻りに捻って後ろ側でまとめてある。

何と言っても今日は、ぼくの通学初日だからね。
エイベル兄さんの物凄い反対にあってしまい、残念ながら入学式に参加する事は出来なかった。
『麗しい』の高ランクな兄が涙目になりながら、せめて入学式から参加するのだけは止めてくれと、あんなに頼んで来るもんだから。流石にそれを無視する事は出来なかった。

……言っておくが、兄の色香に負けたんじゃないからね。
ぼくが入学する為に、少し譲歩しただけだから。




その兄と、王都にある高級宿で朝食を摂っている。
本当にこれから通学するんだなという実感がじわじわと湧いて来て、ぼくは自然と頬が緩んで来そうだ。


「アドル……。」

機嫌の良いぼくと違い、兄は心配そうだ。
いや、心配そう、どころじゃない。顔色が悪くなっている。
ぼくの名を呼ぶ声が少し震えているぐらいだ。

「なぁに? ……入学前なのに学校を辞めるという話なら聞かないよ?」
「はぁ……。分かっている……今更、そんな事は言わない。だが……。」
「ぼくも、分かっているよ? 何度も聞いたじゃない。……決して一人にならない。知らない人について行かない。……あとは……、……何だったかな。」

兄が何度もぼくに言った事だ。
ちゃんと聞いているようで聞いていなかったもんだから、最初の二つぐらいしか覚えてないが。


要するに兄は、一人になったぼくが何かしでかさないかと心配しているんだ。

顔面が『格好良い』の奇跡ランクなぼくが、学校で一体何をしでかすと言うんだか。
まぁ確かに、まだ顔面偏差値の認定前に、王城で顔面を武器に男二人を威圧した事もあった。
お祝いのパーティ会場の中央で、変な芝居をしたり、神子様であるリウイと抱き合ったりした事もあった。
ほらね? こうして並べてみると、別に大した事はしていないじゃないか。
アレックとの遣り取りも見られていたと思うが、あれは別にどうという事も無いし。
そもそもエイベル兄さんはアレックと……セックスしているじゃないか。だったら、ぼくが多少アレックに対してカジュアルな感じに対応したって構わないはずだろう。そうだろう?



「はぁぁ……。ベニー、……頼むぞ?」
「……はい。畏まりました。」

深い溜息を吐いた兄がベニーにお願いする姿を、ぼくは悶々とした思いで眺めていた。



   *   *   *   *   *   *



準備をしていよいよ、学校へ向かう為の馬車に乗り込んだ。

ぼくと兄、ぼくの侍従であるベニーと、兄の侍従。
四人が乗り込んでも狭いとは感じないぐらいに、乗車スペースの大きな馬車は、意外な事にカーネフォード家の持ち物だった。
てっきり、顔面偏差値の高い兄か、ぼくに配慮した神殿か王城が用意したのかと思ったよ。
子爵家の割に、必要な所に掛けられるお金があるのかな。自分の家なのにあんまり分かってなくて御免ね。


「アドルと同じ学級……せめて同じ学年に、誰か信頼の置ける者がいれば良かったんだが。」
「兄さん。ぼくと同じ年齢と言えば、ちょうどリウイがだね。」
「神子様に通学などさせられるものかっ!!」

クワッッ! と擬音付きに感じる程の勢いと迫力とで、目を見開いた……それでも藁のような『麗しい』な細目は僅かに膨らんだだけだが……兄に叱られた。
ぼくは、ほんの少しジョークを言っただけなのに。

「クッ……、こんな事になるのなら、何人か護衛になりそうな男を見繕っておけば良かった……っ。」

実に悔しそうに呟く兄。
そのまま何処か宙を睨みながら、何かをぶつぶつ言う兄をよそに。

ぼくはこっそりと窓から外の景色を眺め出した。

さっき王都を出て、馬車は街に入ったばかり。
王都内は、いかにも高級そうだが、まだ人が少ない所為で何処か冷たい印象だった。その景色が、王都との区切りを示す門扉を潜った途端、賑やかな印象の街になるんだから面白いよね。


しばらく進むと、同じ方向へ向かう馬車が何台か見受けられるようになって。
やがて、学校の敷地が始まる事を示す壁と、校門が見えて来る。



……いよいよ、ぼくは本当に、学校に通うんだ。

兄が心配性過ぎるのは少々気に掛かるが。
ぼくは『学校』という場所に、大いに期待を寄せていた。
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