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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくは高潔じゃないから何でも利用するよ
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アルフォンソさんが。痛ましそうな瞳で、ぼくの頬に手を伸ばしている。
そっと気遣うように触れた彼の掌がとても暖かい。
まさか夢じゃないよね……?
もしこれが夢なら、夢なのに温度を感じるなんて卑怯すぎると文句を言うよ。夢が相手だろうと、神が相手だろうと、ぼくは必ず文句を言うよ。
「頬が赤くなっている。それに、こんなに冷たくなって……。」
「えっ?」
ぼくは少々驚いて自分の頬に触れてみる。確かに冷たい。
ずっと冷たい布を押し当てて。しかもぼんやりしていたから、必要以上に冷やしてしまったのかな。
まぁそれはそれとして。
頬に触れようとしたぼくの指が、アルフォンソさんの手と触れ合っているんだ。そちらの方が重要。
「あ……。す、済まない。つい、勝手に触れ…」
「アルフォンソさんの手、暖かい……。」
心配してくれたんだね、アルフォンソさんは優しいね。
ぼくの頬が痛々しかったので、意識する前に手を伸ばしてしまったんだろう。
ぼくの指も触れたから、そこでハッと気が付いたのかな。
自分が奇跡ランクの顔面に触れているという事に。
慌てて引こうとした彼の手にぼくは指を絡める。
引き離されないように、ぼくのもう片方の手も動員した。アルフォンソさんの片手を、ぼくは両手で捕まえる。
アルフォンソさんは困ったような表情を浮かべたが、それでもぼくのしたいように、自分の手を委ねたままでいてくれた。
「つい今しがたまで布で冷やしていたんです。赤く腫れてしまったので。……布を押し当てていたから、ぼくは手も冷たくなってしまったようですね。」
「腫れて……っ? ど、どうして……。」
「それは……。」
アルフォンソさんの手で暖を取るように、にぎにぎと握りしめたり、絡めた指をきゅっと挟んだり。
男らしくもありながら綺麗な指を堪能しまくりながら、ぼくはそっと言葉を濁す。
ぼくの様子を見たアルフォンソさんが『何かあったのかな』と思うような仕草になるよう努めたつもりだ。
「あー……。言い難いなら無理には聞かないが…」
「いえ……実は……。」
その効果はあったようだ。
無理には聞かないと言いながら、それでもアルフォンソさんは心配そうにぼくの顔を覗き込む。
美しい王子様のような顔面を間近に見られる幸運を、ぼくは掴み取ったんだ。
しかし、これだけで満足しては駄目だ。
「友達と、その……。言い争いに、なって……。」
「……そうだったのか。」
ぼくは頬の赤みを利用する事にした。
しょんぼりして見せてアルフォンソさんに慰めて貰うつもりでいる。
実際に、多少は本当にしょんぼりしていないと言えない事も無いような気がするレベルで、リウイと揉めてしまった事を後悔していた過去があったんじゃないかという記憶が微かに残っている気配がしているから、アルフォンソさんに完全な嘘を吐いているという事じゃないはずだから大丈夫。
途中まで言い掛けて、言葉を途切れさせたぼく。それ以上に言う事も無いしな。
アルフォンソさんは慰めるように、ぼくの手を握り返してくれた。
「早く、仲直りが出来るよう祈っている。……俺で良ければ、いつでも話を聞こう。」
「有難う、アルフォンソさん。」
アルフォンソさんがぼくの目を見て、そんな風に言ってくれるなんて。
今日はラッキー。いや、これもぼくの努力の結果だ。
王妃様達とのお茶会の時に、ぼくが乏しい会話能力及び貧相な話題にも関わらず、必死でお喋りを続けたという布石があってこその今だよ。
正直言ってまぁ、会話の内容なんかどうでも良いぐらいに眼福だったから、あれも良い思い出だがねっ。
今はぼくと二人きりだからか、アルフォンソさんもちゃんと言葉を返してくれるようだ。
この機に乗じて、もっとお近付きになっておかなくちゃ。
じゃあアルフォンソさんを何処に座らせようか。
ぼくの好みで言えばソファ席。いつでも押し倒せるように並んで座りたい。
だがいきなりは無理だろうから、無難にテーブル席にしておくべきか。しかしその距離で、何をどう言い繕えばアルフォンソさんに触れるだろうか。
「あっ、せっかく来てくれたのに。立ち話を始める所でした。アルフォンソさん、どうぞ……座って?」
そんな事を考えながら話し出した所為で、うっかり敬語を使ってしまった。
ぼくは『格好良い』の奇跡ランクなんだから、もっと親し気で話さなきゃいけないのに。気を付けないと。
「あー……その、呼び方なんだが。俺に対して、敬称は…」
「じゃあ、ぼくはアルフォンソと呼ばせて貰うね? アルフォンソも、ぼくの事は、アドル……と呼んで欲しい。いいよね?」
「………。」
「アルフォンソ? 呼び捨て、だよ? いいよね? もちろん、これかれも敬語は無しだよ?」
「あ……あぁ。分かっ、た……。」
目の前にぶら下げられた幸運の尻尾を、ぼくはしっかり掴み取る。
この程度で喜ぶんだから、ぼくは何という控えめな性格なんだろうね。
控えめという言葉の使い方? 間違っていないよ?
そっと気遣うように触れた彼の掌がとても暖かい。
まさか夢じゃないよね……?
もしこれが夢なら、夢なのに温度を感じるなんて卑怯すぎると文句を言うよ。夢が相手だろうと、神が相手だろうと、ぼくは必ず文句を言うよ。
「頬が赤くなっている。それに、こんなに冷たくなって……。」
「えっ?」
ぼくは少々驚いて自分の頬に触れてみる。確かに冷たい。
ずっと冷たい布を押し当てて。しかもぼんやりしていたから、必要以上に冷やしてしまったのかな。
まぁそれはそれとして。
頬に触れようとしたぼくの指が、アルフォンソさんの手と触れ合っているんだ。そちらの方が重要。
「あ……。す、済まない。つい、勝手に触れ…」
「アルフォンソさんの手、暖かい……。」
心配してくれたんだね、アルフォンソさんは優しいね。
ぼくの頬が痛々しかったので、意識する前に手を伸ばしてしまったんだろう。
ぼくの指も触れたから、そこでハッと気が付いたのかな。
自分が奇跡ランクの顔面に触れているという事に。
慌てて引こうとした彼の手にぼくは指を絡める。
引き離されないように、ぼくのもう片方の手も動員した。アルフォンソさんの片手を、ぼくは両手で捕まえる。
アルフォンソさんは困ったような表情を浮かべたが、それでもぼくのしたいように、自分の手を委ねたままでいてくれた。
「つい今しがたまで布で冷やしていたんです。赤く腫れてしまったので。……布を押し当てていたから、ぼくは手も冷たくなってしまったようですね。」
「腫れて……っ? ど、どうして……。」
「それは……。」
アルフォンソさんの手で暖を取るように、にぎにぎと握りしめたり、絡めた指をきゅっと挟んだり。
男らしくもありながら綺麗な指を堪能しまくりながら、ぼくはそっと言葉を濁す。
ぼくの様子を見たアルフォンソさんが『何かあったのかな』と思うような仕草になるよう努めたつもりだ。
「あー……。言い難いなら無理には聞かないが…」
「いえ……実は……。」
その効果はあったようだ。
無理には聞かないと言いながら、それでもアルフォンソさんは心配そうにぼくの顔を覗き込む。
美しい王子様のような顔面を間近に見られる幸運を、ぼくは掴み取ったんだ。
しかし、これだけで満足しては駄目だ。
「友達と、その……。言い争いに、なって……。」
「……そうだったのか。」
ぼくは頬の赤みを利用する事にした。
しょんぼりして見せてアルフォンソさんに慰めて貰うつもりでいる。
実際に、多少は本当にしょんぼりしていないと言えない事も無いような気がするレベルで、リウイと揉めてしまった事を後悔していた過去があったんじゃないかという記憶が微かに残っている気配がしているから、アルフォンソさんに完全な嘘を吐いているという事じゃないはずだから大丈夫。
途中まで言い掛けて、言葉を途切れさせたぼく。それ以上に言う事も無いしな。
アルフォンソさんは慰めるように、ぼくの手を握り返してくれた。
「早く、仲直りが出来るよう祈っている。……俺で良ければ、いつでも話を聞こう。」
「有難う、アルフォンソさん。」
アルフォンソさんがぼくの目を見て、そんな風に言ってくれるなんて。
今日はラッキー。いや、これもぼくの努力の結果だ。
王妃様達とのお茶会の時に、ぼくが乏しい会話能力及び貧相な話題にも関わらず、必死でお喋りを続けたという布石があってこその今だよ。
正直言ってまぁ、会話の内容なんかどうでも良いぐらいに眼福だったから、あれも良い思い出だがねっ。
今はぼくと二人きりだからか、アルフォンソさんもちゃんと言葉を返してくれるようだ。
この機に乗じて、もっとお近付きになっておかなくちゃ。
じゃあアルフォンソさんを何処に座らせようか。
ぼくの好みで言えばソファ席。いつでも押し倒せるように並んで座りたい。
だがいきなりは無理だろうから、無難にテーブル席にしておくべきか。しかしその距離で、何をどう言い繕えばアルフォンソさんに触れるだろうか。
「あっ、せっかく来てくれたのに。立ち話を始める所でした。アルフォンソさん、どうぞ……座って?」
そんな事を考えながら話し出した所為で、うっかり敬語を使ってしまった。
ぼくは『格好良い』の奇跡ランクなんだから、もっと親し気で話さなきゃいけないのに。気を付けないと。
「あー……その、呼び方なんだが。俺に対して、敬称は…」
「じゃあ、ぼくはアルフォンソと呼ばせて貰うね? アルフォンソも、ぼくの事は、アドル……と呼んで欲しい。いいよね?」
「………。」
「アルフォンソ? 呼び捨て、だよ? いいよね? もちろん、これかれも敬語は無しだよ?」
「あ……あぁ。分かっ、た……。」
目の前にぶら下げられた幸運の尻尾を、ぼくはしっかり掴み取る。
この程度で喜ぶんだから、ぼくは何という控えめな性格なんだろうね。
控えめという言葉の使い方? 間違っていないよ?
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