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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくはウェラン司祭に申し訳なさを感じる
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怒ったリウイが部屋を出て行ってしまった。
ぼくは乱暴に閉められた扉を見つめ、これからどうしようかと考えあぐねていた。
追い掛けようかとも考えたんだが、今ぼくがリウイを捕まえたとしても、恐らくまだ彼は怒っているだろう。
その状態で話をしたとしても、また下らない言い争いをしてしまうだろう事は、火を見るよりも明らかだ。
何故ならぼくは、割とどうでもいい事でも、一旦口を開いてしまえば中々自分で止められないという……しょうもなく愚かな性質を持っているからだ。
……自分で言って悲しくなって来た。
「少々、失礼しますよ?」
すぐそばで落ち着いた声がしたかと思うと、ぼくの顎が暖かい物で包まれた。
強い力じゃないが、正面を向くように顔の向きを直される。
ずっと扉を見ていた視界が変わり、ぼくの顔に触れているウェラン司祭が見えた。
それなりに『凛々しい』なウェラン司祭が、何か痛ましいものでも見るような表情になっている。一体どうしたと言うんだ、ウェラン司祭。
「とりあえず冷やしましょうか。」
「あ、……うん……?」
ウェラン司祭の言葉を理解する前に、何となく返事をしてしまった。
ぼくが呆けているのが分かっているのか、ウェラン司祭はそれを追求して来る事は無いようでホッとする。
あぁ駄目だ。ぼんやりしちゃっているね。
リウイに部屋を出て行かれたのが、自分で思った以上にショックを受けているのかも知れない。
……え? それはアドルの自業自得だろ、だと?
何を言っているんだ、あれは非常に大切な事の確認だったじゃないか。
リウイが処女なのか……という聞き方をしてしまったが。寧ろそれよりも、ウェラン司祭と継続的にセックスをするような仲かどうか。
それは気になるじゃないか。なるだろう?
その辺りの答えがどんな結果であったとしても、ぼくはそれを受け入れるとも。羨ましがったり嫉妬したりジタバタするが、それも含めて『そういうもの』だという事で、美味しくいただくよっ。
……また自分でも何を言っているんだか、分からなくなって来た。
リウイの事を考えると、ぼくはこんな風になってしまう。おかしいな。
「……っ! ひぁ…っ!」
冷たいっ! ちょっと! 冷たいよっ!
「あぁ、これはだいぶ熱を持っているようですな……。冷たいですか?」
「冷たいようっ!」
びっくりした、本当にびっくりしたっ。それに、冷たかったよっ。
いつの間に用意をしていたのか、ウェラン司祭がぼくの頬に、濡れた布を押し当てたんだ。
布自体は恐らく絹。とても柔らかくて繊細で、布を当てる手も優しかったんだが。それ以上に、いきなりの冷たさで心臓が縮み上がるかと思ったよ。
ぼくは恨みがましい目でウェラン司祭を睨む。
思わぬ不意打ちになったのはぼくがよそ見をして考え事をしていた所為だが、それをオーバースローで遠くの棚に投げ上げてでも、ぼくは恨むよ。
「少し腫れてしまいましたな。しばらくこうして、布を当てていると良いですよ。」
「……うん。あ……ありがとう。」
恨むのは恨むとして、ぼくの腫れた頬を手当てしてくれたんだから。
まぁ……それなりに、お礼は言っておかないとね。べっ、別に変なツンデレじゃないからねっ。
ぼくが妙な事を考えてしまってモジモジしていると、ぽふっと頭に何かが乗った。
少し上の方へ顔を向けると、そこにはウェラン司祭の手が乗っている。
どうやらウェラン司祭がぼくの頭を撫でているらしい。
慰められているという事か。擽ったいのに落ち着いてしまう。
見た目がそれなりに『凛々しい』なだけでなく、ウェラン司祭は行動も凛々しいというわけだ。
「リウイには、後で言い聞かせておきましょう。」
「……っ! りっ、リウイを叱らないで!」
ぼくは焦った。
リウイがぼくを引っ叩いたのは、ぼくの言葉の所為だ。リウイは悪くない。
こんな事でリウイが説教されるなんて、ぼくが嫌だ。
慌てたぼくに、ウェラン司祭は子供をあやすような微笑みを向ける。
顔面の肉に埋まるように小さくなった瞳が、一層『凛々しい』だ。
「大丈夫。叱りはしませんよ。」
「でっ、でも……。」
「あの子には、まだ伝えていない事が色々とありましてな。主に、性的な事柄についてですが……。これまで子ども扱いをして、大して知らせずにいました。」
「そっ……そう、なんだ。」
ウェラン司祭の表情が余りにも、その、完全に保護者という感じで。
ぼくは自分が恥ずかしくなる。
この人が、自分好みな『麗しい』のリウイを。リウイの身体を自由にしている……かも知れないと、思っていた。
目を合わせられなくて。
頬の痛みが気になる振りをして目を逸らした。
もう痛んではいなかったのに。
ぼくは乱暴に閉められた扉を見つめ、これからどうしようかと考えあぐねていた。
追い掛けようかとも考えたんだが、今ぼくがリウイを捕まえたとしても、恐らくまだ彼は怒っているだろう。
その状態で話をしたとしても、また下らない言い争いをしてしまうだろう事は、火を見るよりも明らかだ。
何故ならぼくは、割とどうでもいい事でも、一旦口を開いてしまえば中々自分で止められないという……しょうもなく愚かな性質を持っているからだ。
……自分で言って悲しくなって来た。
「少々、失礼しますよ?」
すぐそばで落ち着いた声がしたかと思うと、ぼくの顎が暖かい物で包まれた。
強い力じゃないが、正面を向くように顔の向きを直される。
ずっと扉を見ていた視界が変わり、ぼくの顔に触れているウェラン司祭が見えた。
それなりに『凛々しい』なウェラン司祭が、何か痛ましいものでも見るような表情になっている。一体どうしたと言うんだ、ウェラン司祭。
「とりあえず冷やしましょうか。」
「あ、……うん……?」
ウェラン司祭の言葉を理解する前に、何となく返事をしてしまった。
ぼくが呆けているのが分かっているのか、ウェラン司祭はそれを追求して来る事は無いようでホッとする。
あぁ駄目だ。ぼんやりしちゃっているね。
リウイに部屋を出て行かれたのが、自分で思った以上にショックを受けているのかも知れない。
……え? それはアドルの自業自得だろ、だと?
何を言っているんだ、あれは非常に大切な事の確認だったじゃないか。
リウイが処女なのか……という聞き方をしてしまったが。寧ろそれよりも、ウェラン司祭と継続的にセックスをするような仲かどうか。
それは気になるじゃないか。なるだろう?
その辺りの答えがどんな結果であったとしても、ぼくはそれを受け入れるとも。羨ましがったり嫉妬したりジタバタするが、それも含めて『そういうもの』だという事で、美味しくいただくよっ。
……また自分でも何を言っているんだか、分からなくなって来た。
リウイの事を考えると、ぼくはこんな風になってしまう。おかしいな。
「……っ! ひぁ…っ!」
冷たいっ! ちょっと! 冷たいよっ!
「あぁ、これはだいぶ熱を持っているようですな……。冷たいですか?」
「冷たいようっ!」
びっくりした、本当にびっくりしたっ。それに、冷たかったよっ。
いつの間に用意をしていたのか、ウェラン司祭がぼくの頬に、濡れた布を押し当てたんだ。
布自体は恐らく絹。とても柔らかくて繊細で、布を当てる手も優しかったんだが。それ以上に、いきなりの冷たさで心臓が縮み上がるかと思ったよ。
ぼくは恨みがましい目でウェラン司祭を睨む。
思わぬ不意打ちになったのはぼくがよそ見をして考え事をしていた所為だが、それをオーバースローで遠くの棚に投げ上げてでも、ぼくは恨むよ。
「少し腫れてしまいましたな。しばらくこうして、布を当てていると良いですよ。」
「……うん。あ……ありがとう。」
恨むのは恨むとして、ぼくの腫れた頬を手当てしてくれたんだから。
まぁ……それなりに、お礼は言っておかないとね。べっ、別に変なツンデレじゃないからねっ。
ぼくが妙な事を考えてしまってモジモジしていると、ぽふっと頭に何かが乗った。
少し上の方へ顔を向けると、そこにはウェラン司祭の手が乗っている。
どうやらウェラン司祭がぼくの頭を撫でているらしい。
慰められているという事か。擽ったいのに落ち着いてしまう。
見た目がそれなりに『凛々しい』なだけでなく、ウェラン司祭は行動も凛々しいというわけだ。
「リウイには、後で言い聞かせておきましょう。」
「……っ! りっ、リウイを叱らないで!」
ぼくは焦った。
リウイがぼくを引っ叩いたのは、ぼくの言葉の所為だ。リウイは悪くない。
こんな事でリウイが説教されるなんて、ぼくが嫌だ。
慌てたぼくに、ウェラン司祭は子供をあやすような微笑みを向ける。
顔面の肉に埋まるように小さくなった瞳が、一層『凛々しい』だ。
「大丈夫。叱りはしませんよ。」
「でっ、でも……。」
「あの子には、まだ伝えていない事が色々とありましてな。主に、性的な事柄についてですが……。これまで子ども扱いをして、大して知らせずにいました。」
「そっ……そう、なんだ。」
ウェラン司祭の表情が余りにも、その、完全に保護者という感じで。
ぼくは自分が恥ずかしくなる。
この人が、自分好みな『麗しい』のリウイを。リウイの身体を自由にしている……かも知れないと、思っていた。
目を合わせられなくて。
頬の痛みが気になる振りをして目を逸らした。
もう痛んではいなかったのに。
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