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本編●主人公、獲物を物色する
ぼくはとても単純なので
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「……失礼。」
ウェラン司祭がぼくの顔へと手を伸ばす。
当てている絹のハンカチをそっと外して、ぼくの頬を確認したウェラン司祭は、それをまた水で冷やしてから再び頬に当てる。
冷たさは変わらないが、心構えが出来ていた分だけさっきよりは平気だった。
何だか申し訳ない気持ちのぼくは、神妙な顔をしてされるがままだ。
引き続き、頬を布で押さえながらジッとする事にした。
「熱が引くまで、もうしばらく押さえていると良いですよ。」
「あ、うん……。」
「私はそろそろ会場へ戻ります。拗ねたリウイも恐らく、そちらに行っているでしょうからな。」
「ぼくは、もう少ししてから…」
「決して無理はしないでくださいよ? 奇跡ランクの顔が腫れているなど……会場が騒然となってしまいますからな。」
「……分かった。」
ぼくの返事を聞いたウェラン司祭は、とびきり『凛々しい』な微笑みを見せて、ぼくの頭を撫でた。
家族ならともかく、他の人からはあんまり……滅多に無い事だったから、ぼくは変に擽ったい気分になってしまう。
「腫れが治まるまでの間、退屈でしょう。誰か呼びましょうか?」
部屋を出ようとする扉の前。
振り返ったウェラン司祭から尋ねられて。ぼくはゆっくりと首を振った。
今のぼくの顔面に本来のポテンシャルが無いなら、その状態のぼくを見た人はきっとがっかりするだろう。
ぼくの『良さ』なんて、顔面偏差値しか無いんだからさ。
せめてそれぐらいは……『格好良い』のイメージぐらいは保持しておきたいじゃないか。
そんな心境を分かってくれたのか、ウェラン司祭はそれ以上は言わなかった。
「この部屋は、貴方とリウイ専用で設けられた休憩室です。どうぞ、ごゆっくり……。」
扉がゆっくりと閉まると、部屋の中にはぼく一人になった。
ぼくは顔面が落ち着くまで精々寛ぐ事にする。
ウェラン司祭は、お代わりのお茶を入れたピッチャーの他に、幾つかお茶請けも用意してくれていたようだ。
テーブルの上には、ジャムの入った小瓶に小さなスプーンが添えられていたり、小皿にレモンの輪切り、一口で食べられる大きさの干した果物が乗っている。
……女子力かっ。女子力、高めオジサンかっ。この世界には女子なんか存在しないがなっ。
別世界には存在するだろう貴族のご令嬢もかくや、というラインナップだ。もちろん、ぼくの偏見だよ。
アイスティーをお代わりしたり、少しだけジャムを味見したりして。どれぐらいの時間、そうしていたかは分からないが。
自分でも気が付かない内にぼくは随分と、まったりしちゃっていたらしい。
コンコン……。コンコン……。
扉をノックする音でぼくの意識がゆっくりと覚醒する。
……あ。……返事をしなきゃ。
そう判断して、実際にぼくの身体が動くまでに、声を出すまでにしばらく掛かってしまった。
扉の向こう側から遠慮がちに声が聞こえる。
「あー……、え、と…。入っても、いいだろうか……?」
「はっ……!」
まさか……っ。まさか、今の声は……本当にっ?
ぼくの心の温度が急速に、電子レンジに掛けるよりも早く、高まって行く。
ついさっきまでの申し訳なさやら何やら、ぼくの心を戒めていたものが全て、木っ端微塵になる。
「あー……、あのぉ……アルフォンソ、だ。」
「もっ、もちろんっ! 入っていいともっ!」
ぼくは慌てて立ち上がる。
昔懐かしい有名テレビ番組みたいな事を言っちゃったが、そんな事を気にしちゃいられない。本当に、こうしちゃいられない。
ぼくの言葉に突っ込む者が不在のまま、扉が開けられる。
そこに立っているのは、勿論。
蜂蜜みたいな金髪。クッキリした目元に高い鼻。いつもは引き結ばれた唇が少しだけ開いている。
まるでお伽話の王子様みたいな立ち姿。
ヴェールを着けていない状態で、ぼくの前にいるアルフォンソさん。
顔面偏差値が奇跡ランクのお祝いパーティだから、顔面を隠す事自体、してはいけない事とされているからだね。こういう時には有難いね。
「……あー。休憩中の所、済まな…」
「アルフォンソさんっ! さぁっ、入って! ささ、ささっ!」
アルフォンソさんが喋り出すのを遮ってしまうぐらい、ぼくは前のめりで彼を部屋の中に招き入れた。
グイグイと背中を押して……えっと、何処に座って貰おうか。
あからさまに欲望渦巻くソファ席? 一応の節度を保ってテーブル席? どうしよう。
突然に降って湧いたような僥倖で、ぼくの脳が処理落ちしてしまう。
「あー……、その…さっき、そこで……。ウェラン司祭から…」
台詞の最初に「あー」と付けるのは、アルフォンソさんが少し困っている時の癖らしい。
なんて、著しく処理速度の落ちた頭で考えていると。
アルフォンソさんの表情が急に強張った。
信じられないものを目撃したように、目を見開いて、戦慄きだす。
どうしたんだ、一体何が起こったんだ。
無意識に何かしでかしたのかと焦るぼく。
アルフォンソさんは、ぼくの頬に手を伸ばした。
ウェラン司祭がぼくの顔へと手を伸ばす。
当てている絹のハンカチをそっと外して、ぼくの頬を確認したウェラン司祭は、それをまた水で冷やしてから再び頬に当てる。
冷たさは変わらないが、心構えが出来ていた分だけさっきよりは平気だった。
何だか申し訳ない気持ちのぼくは、神妙な顔をしてされるがままだ。
引き続き、頬を布で押さえながらジッとする事にした。
「熱が引くまで、もうしばらく押さえていると良いですよ。」
「あ、うん……。」
「私はそろそろ会場へ戻ります。拗ねたリウイも恐らく、そちらに行っているでしょうからな。」
「ぼくは、もう少ししてから…」
「決して無理はしないでくださいよ? 奇跡ランクの顔が腫れているなど……会場が騒然となってしまいますからな。」
「……分かった。」
ぼくの返事を聞いたウェラン司祭は、とびきり『凛々しい』な微笑みを見せて、ぼくの頭を撫でた。
家族ならともかく、他の人からはあんまり……滅多に無い事だったから、ぼくは変に擽ったい気分になってしまう。
「腫れが治まるまでの間、退屈でしょう。誰か呼びましょうか?」
部屋を出ようとする扉の前。
振り返ったウェラン司祭から尋ねられて。ぼくはゆっくりと首を振った。
今のぼくの顔面に本来のポテンシャルが無いなら、その状態のぼくを見た人はきっとがっかりするだろう。
ぼくの『良さ』なんて、顔面偏差値しか無いんだからさ。
せめてそれぐらいは……『格好良い』のイメージぐらいは保持しておきたいじゃないか。
そんな心境を分かってくれたのか、ウェラン司祭はそれ以上は言わなかった。
「この部屋は、貴方とリウイ専用で設けられた休憩室です。どうぞ、ごゆっくり……。」
扉がゆっくりと閉まると、部屋の中にはぼく一人になった。
ぼくは顔面が落ち着くまで精々寛ぐ事にする。
ウェラン司祭は、お代わりのお茶を入れたピッチャーの他に、幾つかお茶請けも用意してくれていたようだ。
テーブルの上には、ジャムの入った小瓶に小さなスプーンが添えられていたり、小皿にレモンの輪切り、一口で食べられる大きさの干した果物が乗っている。
……女子力かっ。女子力、高めオジサンかっ。この世界には女子なんか存在しないがなっ。
別世界には存在するだろう貴族のご令嬢もかくや、というラインナップだ。もちろん、ぼくの偏見だよ。
アイスティーをお代わりしたり、少しだけジャムを味見したりして。どれぐらいの時間、そうしていたかは分からないが。
自分でも気が付かない内にぼくは随分と、まったりしちゃっていたらしい。
コンコン……。コンコン……。
扉をノックする音でぼくの意識がゆっくりと覚醒する。
……あ。……返事をしなきゃ。
そう判断して、実際にぼくの身体が動くまでに、声を出すまでにしばらく掛かってしまった。
扉の向こう側から遠慮がちに声が聞こえる。
「あー……、え、と…。入っても、いいだろうか……?」
「はっ……!」
まさか……っ。まさか、今の声は……本当にっ?
ぼくの心の温度が急速に、電子レンジに掛けるよりも早く、高まって行く。
ついさっきまでの申し訳なさやら何やら、ぼくの心を戒めていたものが全て、木っ端微塵になる。
「あー……、あのぉ……アルフォンソ、だ。」
「もっ、もちろんっ! 入っていいともっ!」
ぼくは慌てて立ち上がる。
昔懐かしい有名テレビ番組みたいな事を言っちゃったが、そんな事を気にしちゃいられない。本当に、こうしちゃいられない。
ぼくの言葉に突っ込む者が不在のまま、扉が開けられる。
そこに立っているのは、勿論。
蜂蜜みたいな金髪。クッキリした目元に高い鼻。いつもは引き結ばれた唇が少しだけ開いている。
まるでお伽話の王子様みたいな立ち姿。
ヴェールを着けていない状態で、ぼくの前にいるアルフォンソさん。
顔面偏差値が奇跡ランクのお祝いパーティだから、顔面を隠す事自体、してはいけない事とされているからだね。こういう時には有難いね。
「……あー。休憩中の所、済まな…」
「アルフォンソさんっ! さぁっ、入って! ささ、ささっ!」
アルフォンソさんが喋り出すのを遮ってしまうぐらい、ぼくは前のめりで彼を部屋の中に招き入れた。
グイグイと背中を押して……えっと、何処に座って貰おうか。
あからさまに欲望渦巻くソファ席? 一応の節度を保ってテーブル席? どうしよう。
突然に降って湧いたような僥倖で、ぼくの脳が処理落ちしてしまう。
「あー……、その…さっき、そこで……。ウェラン司祭から…」
台詞の最初に「あー」と付けるのは、アルフォンソさんが少し困っている時の癖らしい。
なんて、著しく処理速度の落ちた頭で考えていると。
アルフォンソさんの表情が急に強張った。
信じられないものを目撃したように、目を見開いて、戦慄きだす。
どうしたんだ、一体何が起こったんだ。
無意識に何かしでかしたのかと焦るぼく。
アルフォンソさんは、ぼくの頬に手を伸ばした。
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