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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくは密かに『格好良い』と『タチらしい』の練習をする

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「あの……。アドルさんは、どうして此処に……?」
「……ぼく?」

ぼくの膝枕から、アリーが尋ねて来る。
自然な仕草に見えるように注意を払いながら、ぼくはその一言で僅かな時間を稼いだ。

……アリーから厳しくされない為の、最適解とまでは言わずとも、及第点を貰えるような返答を導き出す為の時間を。


うんまぁ、アリーがそう言うのは普通の流れだし、予測も立てられる事だが。
ぼくが自分で言った『こんな所』に、ぼく自身もいるんだから、そりゃ理由を聞くよね。


「会場にアリーの姿が見えなかったから。……何処に居るのかな、と思ってね。」

判断をするまでの猶予は一瞬。

ぼくは反射的に答えてしまいそうな正直ベースの「人混みを避けて来た」と、「休憩したくて来た」を排除。
代わりに『格好良い』の奇跡ランクで、『タチ』に相応しい、それを聞いたアリーが若干でも嬉しく思える台詞を必死に用意した。


言葉に出して行くのと同時進行で、少しドキドキしながらアリーの反応を観察する。


「え……? わざわざ僕を探してくれたんですか?」
「そんな、わざわざという程の事じゃないよ。ぼくがアリーを見付けたかっただけ。」

恥ずかしそうにするアリーの表情から、ぼくはしっかりと手応えを感じた。

どうやらこれで間違って無かったようだ。
しばらくはこの方向で行くとしよう。


アリーの髪を出来るだけ優しく撫でると、アリーは恥ずかしそうな、少し嬉しそうな笑みを浮かべる。
はにかむ姿がとても可愛らしくて、ぼくもじんわりと嬉しい気持ちになった。

「嬉しい、です。……でも。」
「……でも?」
「良いんでしょうか……。主役のアドルさんを、ここで僕が引き止めてしまって。」
「心配しなくて良いよ。パーティに支障が無いよう、きちんと考えているから。」

それに、参加者の皆さんは神子リウイがいれば満足だろうと思うよ。
……とは間違っても言えないが。特にアリーにはね。


まるで恋人同士のように近い距離で見つめ合い、小さな声でこっそりと言葉を交わす。
ぼくは『格好良い』の甘い雰囲気を醸し出すべく、アリーの髪に触れていた手をこめかみに滑らせ、更に頬へと辿らせてみた。

アリーはぴくりと小さく身体を震わせて、少しだけ動揺した瞳をぼくに向ける。
驚いてはいるが、ぼくの行為に対する嫌悪感や期待外れ感を表してはいない。


「こんな風にぼくが触るのは、嫌?」
「……っ。いっ……、いいえっ、嫌じゃないっ……です。」

ぼくの問い掛けに、首の動きで答えようとしたアリーだが、ぼくが顔に触れている状況で動かす事は出来ないと思い直したんだろう。慌てて言葉で答えた。
慌て過ぎて、返事のぎりぎり瀬戸際で敬語を付けるような事になってしまったが、一瞬でも打ち解けた口調に聞こえて、ぼくにとっては幸運だった。






アリーが実はタチに厳しいと分かった以上。アリーとのお喋りを長引かせるのは、ぼくには意外とリスクが伴うものなんだ。
ついつい忘れがちになってしまうが、ぼくは奇跡ランクとして常日頃から、人に見られるような場では『格好良い』を正しく体現しなきゃならない。
もちろん、オルビー先生からの授業の成果もあって、ある程度ぼくは上手く『格好良い』と思わせられる。……そう出来るようにしている。

だが、タチに厳しいアリーには。
ぼくの『格好良い』が実は違う、と判定されてしまう場合が……その可能性があるという事だ。
『タチ』と『格好良い』は割と似通っている部分があるからね。もちろん、ぼくの個人的見解だよ。


そんなアリーと今、こんなにも親しく、そして長く一緒に居ようとする理由は一つ。ご免、二つだ……いや、三っ……。……まぁそのぐらい。
アリーと気まずくなりそうだったから話しておきたかったし。単純に見た目が可愛い……アリーの方が年上だが……からというのもあるが。

アリーで『格好良い』の体現を練習させて貰おうと思ってね。
もちろんアリーにそれは言わないが。ぼくなら、別に知らせる必要無いのに、と思うから。

恐らくアリーの想定する『タチらしくない』言動と言うのは。アレックとの初対面だったあの時の話や、今さっき此処で話した事を総合して考えると。
弱気。逃げ腰。きちんと主張が出来ない。潔さが無い。いじける。僻む。……それに泣き虫、も加えようかな。大体こんな感じじゃないかと思う。


これらを踏まえてぼくは、アリーから、『格好良い』のタチとして間違っていると思われないよう、頑張って行く所存だよ。
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