60 / 101
本編●主人公、獲物を物色する
ぼくは少しだけ家族の事を考えた
しおりを挟む
朝。
目覚めたぼくは、ここが王城内だという事を思い出すのに、やや時間を要した。
今日は色々と気疲れするような予定で埋まっているのに。
引き篭もりのアドルが、疲れているんだろう。しっかりしなくちゃ。
いつもより少し早めに身支度をして、母さんとエイベル兄さんと揃って。迎えを待つ。
母も兄も昨日よりは、随分と余裕があるように見えた。
二人とも、しゃんと背筋を伸ばしてレモン水で咽喉を潤している。
ゆっくり休んで多少は気力が回復したんだろう。
それとも、これが『麗しい』の気概というものか。
「母さん。色々と……迷惑を掛けて、御免なさい。」
ソファに座る母の前に立って、ぼくは何度目かの謝罪の言葉を述べた。
ぼくを見上げる母が、まぁまぁ『麗しい』の顔に苦笑を浮かべる。
「今日の事だって、本当なら父さんも…」
「もう言っても仕方のない事だ。間に合わないものは間に合わない。それに……お前の父さんは、そんな事を気にするような、小さな男じゃないぞ。」
母に手招きされて、ぼくは隣に腰掛ける。
額にコツンと、優しい振動。母が突っついたんだ。
「顔面偏差値を威圧に利用した事は、少々いただけないが……。それが必要だとアドルが判断したのなら。その行為が、アドルの中の『格好良い』に恥ずかしくないのなら……それで良い。」
ぼくがその行動で得た物は皆無に近い。それどころか、アリーとの距離が少し遠ざかってしまったようだから、寧ろマイナスかも知れないがね。
……とは流石に、母には言えなかった。
「確かに本来なら、こういう場には夫夫揃っているのが常識なんだろうがな。ウチの場合は特に問題無いな。」
「母さん……。」
「その場にいる他の貴族達も、勝手に理由を想像して納得するだろう。……あの人が家を離れている時にアドルのお披露目をする事になったのも、今思えばサトゥルー神の思し召しなのかも知れんな。」
後半は呟くような声だった。
それを聞いたら何だか支えてあげたくなって、ぼくは母にそっと寄り添った。
ぼくは引き篭もっているから、推測でしかないが。
母はまぁまぁレベル……中ランクの上……の『麗しい』だ。
この世界の平均というか大部分は、そこそこレベル……中ランクの下……だと言う。それより上のそれなりレベル……中ランクの中……でも充分に人目を引くと言う。
だから母は、道行く人々の誰もが振り返るぐらい『麗しい』なんだが、その母の伴侶である父は低ランクの『厳つい』だという事実。
恐らく母も父も、何かしら辛い思いをしているだろう。
奇跡ランクであるぼくをお披露目する場で、誰もが振り返る程の『麗しい』な母と、二目と見られぬという程ではないが明らかに不細工な父とが並べば。それを見た人々がどのように言うか、想像するのも馬鹿らしい。
それに加えて、母よりも更に『麗しい』な兄と、その横には弟も並ぶ事を考えると……。
父と弟が参加出来ないなんて、まるで緊急事態のようだが、これはこれで良かったのかも知れない。
アドルにとって、少々怖くても大事な父親だ。引き篭もりの息子に、根気良く、ほんの少しでも仕事の話をしてくれたりもしていた。
弟だって、父よりももっと怖かったが。それでも別に憎んでいたわけでもないから。
他人がとやかく言うのを聞いて、二人を不快にさせるのも、自分が不快になるのも……今のぼくは御免被りたい。
それに。サトル的なボクが暴れないとも限らないからね。
ぼくが母に懐いている内に、神殿関係者とやらが到着したらしい。
使用人がその来訪を告げる。
神殿から来たという人達を見て、ぼくは少々驚いた。つい目を見張ってしまう。
あぁ、これは『格好良い』に似合わない表情かも知れない。
でも驚いたんだ。
案内されて部屋に入って来たのは、それなりレベルに『凛々しい』のウェラン司祭と。
三角マスクで顔を隠した……でも分かる……リウイだったから。
「リウイ……。」
「………。」
呟いたぼくに、リウイはマスク越しに目礼する。
ぼくは今更になって、気が付いた。
リウイも。
彼の顔面も『麗しい』タイプの奇跡ランクなんだが。
リウイの扱いはどうなっているんだ……?
目覚めたぼくは、ここが王城内だという事を思い出すのに、やや時間を要した。
今日は色々と気疲れするような予定で埋まっているのに。
引き篭もりのアドルが、疲れているんだろう。しっかりしなくちゃ。
いつもより少し早めに身支度をして、母さんとエイベル兄さんと揃って。迎えを待つ。
母も兄も昨日よりは、随分と余裕があるように見えた。
二人とも、しゃんと背筋を伸ばしてレモン水で咽喉を潤している。
ゆっくり休んで多少は気力が回復したんだろう。
それとも、これが『麗しい』の気概というものか。
「母さん。色々と……迷惑を掛けて、御免なさい。」
ソファに座る母の前に立って、ぼくは何度目かの謝罪の言葉を述べた。
ぼくを見上げる母が、まぁまぁ『麗しい』の顔に苦笑を浮かべる。
「今日の事だって、本当なら父さんも…」
「もう言っても仕方のない事だ。間に合わないものは間に合わない。それに……お前の父さんは、そんな事を気にするような、小さな男じゃないぞ。」
母に手招きされて、ぼくは隣に腰掛ける。
額にコツンと、優しい振動。母が突っついたんだ。
「顔面偏差値を威圧に利用した事は、少々いただけないが……。それが必要だとアドルが判断したのなら。その行為が、アドルの中の『格好良い』に恥ずかしくないのなら……それで良い。」
ぼくがその行動で得た物は皆無に近い。それどころか、アリーとの距離が少し遠ざかってしまったようだから、寧ろマイナスかも知れないがね。
……とは流石に、母には言えなかった。
「確かに本来なら、こういう場には夫夫揃っているのが常識なんだろうがな。ウチの場合は特に問題無いな。」
「母さん……。」
「その場にいる他の貴族達も、勝手に理由を想像して納得するだろう。……あの人が家を離れている時にアドルのお披露目をする事になったのも、今思えばサトゥルー神の思し召しなのかも知れんな。」
後半は呟くような声だった。
それを聞いたら何だか支えてあげたくなって、ぼくは母にそっと寄り添った。
ぼくは引き篭もっているから、推測でしかないが。
母はまぁまぁレベル……中ランクの上……の『麗しい』だ。
この世界の平均というか大部分は、そこそこレベル……中ランクの下……だと言う。それより上のそれなりレベル……中ランクの中……でも充分に人目を引くと言う。
だから母は、道行く人々の誰もが振り返るぐらい『麗しい』なんだが、その母の伴侶である父は低ランクの『厳つい』だという事実。
恐らく母も父も、何かしら辛い思いをしているだろう。
奇跡ランクであるぼくをお披露目する場で、誰もが振り返る程の『麗しい』な母と、二目と見られぬという程ではないが明らかに不細工な父とが並べば。それを見た人々がどのように言うか、想像するのも馬鹿らしい。
それに加えて、母よりも更に『麗しい』な兄と、その横には弟も並ぶ事を考えると……。
父と弟が参加出来ないなんて、まるで緊急事態のようだが、これはこれで良かったのかも知れない。
アドルにとって、少々怖くても大事な父親だ。引き篭もりの息子に、根気良く、ほんの少しでも仕事の話をしてくれたりもしていた。
弟だって、父よりももっと怖かったが。それでも別に憎んでいたわけでもないから。
他人がとやかく言うのを聞いて、二人を不快にさせるのも、自分が不快になるのも……今のぼくは御免被りたい。
それに。サトル的なボクが暴れないとも限らないからね。
ぼくが母に懐いている内に、神殿関係者とやらが到着したらしい。
使用人がその来訪を告げる。
神殿から来たという人達を見て、ぼくは少々驚いた。つい目を見張ってしまう。
あぁ、これは『格好良い』に似合わない表情かも知れない。
でも驚いたんだ。
案内されて部屋に入って来たのは、それなりレベルに『凛々しい』のウェラン司祭と。
三角マスクで顔を隠した……でも分かる……リウイだったから。
「リウイ……。」
「………。」
呟いたぼくに、リウイはマスク越しに目礼する。
ぼくは今更になって、気が付いた。
リウイも。
彼の顔面も『麗しい』タイプの奇跡ランクなんだが。
リウイの扱いはどうなっているんだ……?
0
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ
くわっと
恋愛
黒く長い髪が特徴のフォルテシア=マーテルロ。
彼女は今日も兄妹・父母に虐げられています。
それは時に暴力で、
時に言葉で、
時にーー
その世界には一般的ではない『黒い髪』を理由に彼女は迫害され続ける。
黒髪を除けば、可愛らしい外見、勤勉な性格、良家の血筋と、本来は逆の立場にいたはずの令嬢。
だけれど、彼女の髪は黒かった。
常闇のように、
悪魔のように、
魔女のように。
これは、ひとりの少女の物語。
革命と反逆と恋心のお話。
ーー
R2 0517完結 今までありがとうございました。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした
星ふくろう
恋愛
カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。
帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。
その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。
数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。
他の投稿サイトでも掲載しています。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる