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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくは少しだけ家族の事を考えた

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朝。
目覚めたぼくは、ここが王城内だという事を思い出すのに、やや時間を要した。

今日は色々と気疲れするような予定で埋まっているのに。
引き篭もりのアドルが、疲れているんだろう。しっかりしなくちゃ。



いつもより少し早めに身支度をして、母さんとエイベル兄さんと揃って。迎えを待つ。

母も兄も昨日よりは、随分と余裕があるように見えた。
二人とも、しゃんと背筋を伸ばしてレモン水で咽喉を潤している。
ゆっくり休んで多少は気力が回復したんだろう。
それとも、これが『麗しい』の気概というものか。


「母さん。色々と……迷惑を掛けて、御免なさい。」

ソファに座る母の前に立って、ぼくは何度目かの謝罪の言葉を述べた。
ぼくを見上げる母が、まぁまぁ『麗しい』の顔に苦笑を浮かべる。


「今日の事だって、本当なら父さんも…」
「もう言っても仕方のない事だ。間に合わないものは間に合わない。それに……お前の父さんは、そんな事を気にするような、小さな男じゃないぞ。」

母に手招きされて、ぼくは隣に腰掛ける。
額にコツンと、優しい振動。母が突っついたんだ。

「顔面偏差値を威圧に利用した事は、少々いただけないが……。それが必要だとアドルが判断したのなら。その行為が、アドルの中の『格好良い』に恥ずかしくないのなら……それで良い。」


ぼくがその行動で得た物は皆無に近い。それどころか、アリーとの距離が少し遠ざかってしまったようだから、寧ろマイナスかも知れないがね。
……とは流石に、母には言えなかった。


「確かに本来なら、こういう場には夫夫揃っているのが常識なんだろうがな。ウチの場合は特に問題無いな。」
「母さん……。」
「その場にいる他の貴族達も、勝手に理由を想像して納得するだろう。……あの人が家を離れている時にアドルのお披露目をする事になったのも、今思えばサトゥルー神の思し召しなのかも知れんな。」

後半は呟くような声だった。
それを聞いたら何だか支えてあげたくなって、ぼくは母にそっと寄り添った。



ぼくは引き篭もっているから、推測でしかないが。

母はまぁまぁレベル……中ランクの上……の『麗しい』だ。
この世界の平均というか大部分は、そこそこレベル……中ランクの下……だと言う。それより上のそれなりレベル……中ランクの中……でも充分に人目を引くと言う。
だから母は、道行く人々の誰もが振り返るぐらい『麗しい』なんだが、その母の伴侶である父は低ランクの『厳つい』だという事実。
恐らく母も父も、何かしら辛い思いをしているだろう。

奇跡ランクであるぼくをお披露目する場で、誰もが振り返る程の『麗しい』な母と、二目と見られぬという程ではないが明らかに不細工な父とが並べば。それを見た人々がどのように言うか、想像するのも馬鹿らしい。
それに加えて、母よりも更に『麗しい』な兄と、その横には弟も並ぶ事を考えると……。
父と弟が参加出来ないなんて、まるで緊急事態のようだが、これはこれで良かったのかも知れない。

アドルにとって、少々怖くても大事な父親だ。引き篭もりの息子に、根気良く、ほんの少しでも仕事の話をしてくれたりもしていた。
弟だって、父よりももっと怖かったが。それでも別に憎んでいたわけでもないから。

他人がとやかく言うのを聞いて、二人を不快にさせるのも、自分が不快になるのも……今のぼくは御免被りたい。
それに。サトル的なボクが暴れないとも限らないからね。





ぼくが母に懐いている内に、神殿関係者とやらが到着したらしい。
使用人がその来訪を告げる。


神殿から来たという人達を見て、ぼくは少々驚いた。つい目を見張ってしまう。

あぁ、これは『格好良い』に似合わない表情かも知れない。
でも驚いたんだ。


案内されて部屋に入って来たのは、それなりレベルに『凛々しい』のウェラン司祭と。
三角マスクで顔を隠した……でも分かる……リウイだったから。


「リウイ……。」
「………。」

呟いたぼくに、リウイはマスク越しに目礼する。
ぼくは今更になって、気が付いた。



リウイも。
彼の顔面も『麗しい』タイプの奇跡ランクなんだが。

リウイの扱いはどうなっているんだ……?
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