美醜感覚が歪な世界でも二つの価値観を持つ僕に死角はない。

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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくはアレックをやっと追い出した

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「……約束、な?」


ご機嫌麗しい微笑を浮かべた『エロエロしい』の顔が、こんなにも、楽しめないなんて。
かつてのぼくに、想像する事が出来ただろうか。否、出来るはずも無い。


そして今のぼくも、驚いているんだか、怒っているんだか、ショックを受けているんだか……自分の感情がよく分からないでいる。
あぁ、取り敢えず動揺している事は間違い無かろうな、うん。

「……現在、お約束の受付は、休止シテイマス。」
「じゃあ、改めて約束し直そうか?」
「お、こ、と、わ、り。」

もう一回、同じ事をされて堪るか。


「アンディはもう、支度をしている頃だろうね。アレックも早く自室に戻ってよ。」

ぼくは掌を下に向けた手をアレックへ伸ばし、犬でも追い払うように振って見せた。
普通ならば、かなり以上に失礼極まりない仕草だ。
王族への態度としては懲罰ものだろうが……知るか。
ぼくは『格好良い』の奇跡ランクなんだ。悔しかったらランクを上げて出直せ。

まぁ……。ランクなんて、そうそう上がるもんじゃあ無いがね。



「やれやれ……アドルはタチに厳しいな。」
「タチじゃなくて、アレックに厳しい。の方が良いかい?」
「それならそれもいいな。俺だけが特別って感じがして、嫌いじゃない。」
「前向き過ぎるようだね、アレック。少しは後ろも振り返ればいいのに。」

ぼくと同じ方向でポジティブ思考とか……アレックめ。
自分も似たような事を言うから、あまり強くは出ないが。割と鬱陶しいんだね、この手の前向きさは。
声に出さないよう、ぼくも気を付けた方が良いかも知れないね。


ぼくはアレックから見てもはっきりと分かるように、肩を落として項垂れた。

「貴重な時間の大部分を、タチとの無駄な言い争いで費やしてしまうなんて……。こんな事になると分かっていたなら、あの時、アレックを助けたりしなかったよ。……恐らく。」
「あははっ。後悔先に立たず、だな?」

ガックリするぼくとは対照的に、楽しそうに笑うアレック。
てっきり文句を言い返すかと思ったんだが、どうやら機嫌が良いらしい。


「それだけ前向きに物事を捉えられるんなら、あのまま放っておかれても平気だっただろう。嫌がっていたように見えたんだがなぁ~。」
「場所や相手が嫌だったんだから、しょうがないだろ。……殴るワケにも行かないからな。」
「随分と優しいんだね? 泣きべそを掻いていた癖に。」
「掻いてない。」

あれ? ……泣いては、いなかったか。ぼくの気の所為か。



「それはそうとして、アドル。もう分かってるとは思うが、初めての時は慣れてるネコに、ちゃ~んと頼んだ方がいい。」
「それはどうも。」
「出来れば、気に入った相手がいたとしても、一方的な性交は止めとけ。」
「そんな事をすると思っているのかっ。」

急に何を言いだすかと思えば。心外だ。甚だ心外だよ。
ぼくは奇跡ランクなんだぞ。引く手数多に決まっているじゃないか。

「アドルは何も知らないから、教えておこうと思って。一方的だった場合……もし相手が不満を感じて終わった時に、色々と言いふらされるんだ。」
「えっ? い、言いふらすのっ?」
「そりゃそうだ、不満なんだから。割とえげつなく、事細かにな。噂はあっという間に広がって、かなぁり馬鹿にされるぞ~。」

レイプされた被害者が言いふらすのか。……新っ鮮。
この世界には性犯罪という概念が無いらしいから、どれだけ修羅の世界なのかと思っていたが、そういう方向ではある意味で抑止力になっているのかもね。


まぁ……それはいいとして。


「ねぇアレック。本当にもう自室に戻りなよ。」
「アドルはタチに厳しいなぁ。」
「何度も同じ事を言わなくていいから。実際にもう、時間に余裕は無いだろう?」
「アリアノールやアンドリューには、そんな風には言わないだろ?」
「アレックがもう少し聞き分けの良い子になれば、もっと優しくしてあげるよ?」

ぼくは手ずから扉を開けた。にこやかに見送ってやるつもりだ。


そして、ようやく。
やっと、アレックが廊下に出た。……と思ったら彼は振り返る。


「あぁそうだ。」
「今度は何だ?」
「アリアノールも結構、タチに厳しいぞ。それに経験も乏しいから、アドルの研さん相手には向かない。」
「分かったよ。じゃあね?」

本当にもう、キリが無い。
ぼくは素早く扉を閉めた。





王子達と違って、食事会の準備らしき準備は、ぼくには無い。
着飾る予定が無いからだ。

故にもう少し時間があるから、ぼくは横になって休む事にした。



ベッドの脇で、ぼくは足を止めた。
誰かが使ったような形跡がある。

「あぁそう言えば。」

アレックが、目を瞑って横になったと言っていたな。本当だったのか。


それで躊躇するのも何だか負けた気分になりそうで、ぼくは気にしない振りをしてベッドに寝転がった。



「こんな置き土産は要らないんだが……。」

清潔な寝具の匂いとは異なる、明らかに……アレックの『エロエロしい』な残り香。


小憎らしいのに、良い匂いで。
結局ぼくは全然休めなかった。
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