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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくに訊かないで

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アンディからの、……もし日本で会社の同僚にこんな事を尋ねたら、間違いなくセクハラだと訴えられて上司に呼ばれる事ような問い掛けに、ぼくはどう答えるべきか。真剣に考えていた。


ぼくがアレックとセックスをしたかどうか。

事実は単純だ。
ぼくとアレックは、最後まではしていない。

だが、その質問をしたアンディは王子殿下。
友人の性交渉に興味津々な高校生じゃない。
高度な政治的駆け引きをされているのでは。
それを思うと、なかなか正直には答え難い。



実際にぼくとアレックが、していようがいまいが関係無いだろう。
要はそれを、ぼくが認めるかどうかだ。

高貴な方々の言う『友達』が性交渉を伴う付き合いをする相手だという、そんな戯れ言は、ソースがアレックの言葉しか無いんだから今は置いておく。
だがそれを抜きにしても、ぼくがアレックとの性的な関係を肯定するとなれば。
それはぼくが……主神サトゥルーと同じタイプである『格好良い』の奇跡ランクなぼくが、側妃様の息子であるアレックとの仲を囁かれる事を受け入れるという意思表明になる。

王妃様の息子であるアンディとしては気になる所なんだろう。
もしかすると王妃様から、その辺りの様子を探って来るように言われているのかも知れないね。



散々警戒して、ぼくは。そっと先延ばし、あるいは有耶無耶にしてしまおうと考えた。

「そんな事が、アンディは気になるの? 本当に?」
「……はい。気に、なります。」

にこやかに窺ってみれば、アンディは意外にはっきりと聞きたがった。


どうしよう。何か別な話で誤魔化せないだろうか。
下手な答えをしたらまた母に叱られそうだ。
あぁ面倒臭い感じになっちゃったな。
こんな事になるなら、大人しくベッドで惰眠でも貪っていれば良かった。

ぼくは賢明なキャラじゃないんだよ。
もう……喋っちゃうよ?
また何か宜しくない展開になっちゃったら、母さん、ご免なさい。


「やっぱり、そうなんですか……。」

考え事をしている時間が長かったかも知れない。
ぼくの沈黙を肯定だと受け取ったアンディが小さく呟く。

「せっかくアンディとお話出来るのに、その内容がアレックの事かぁ。そんな話を……アンディはしに来たのかい?」
「……っ! そ、それは……!」

ぼくの言葉にアンディが大仰にも思える程、動揺した。
ぷるんと色っぽい唇が細かく震えている。



ぼくより一つ年下なのにけしからん……と、呑気に見詰めていると。




不意に、扉が開く音。


「もぉ~。……いつまでやってるんだ。」

アレックが。寝室から出て来た。


さっきのような激しい感情の昂ぶりは感じさせないが。
両目蓋は少々眠そうに垂れ掛けており、口元から零れ落ちる吐息と、非常に危ういコラボで『エロエロしい』の高ランクを見せ付けている。
開いた扉に、気怠そうに背中を預ける仕草。

アドル的なぼくは違うものを感じてしまいそうだ。
なのにサトル的なボクが。


「アレック? まさか、寝ていたのか? ぼくが使うはずのベッドで?」
「……まさか。ちょっと横になって目を瞑ってただけだ。」

いけしゃあしゃあと言い放って、アレックがゆっくりとした足取りで歩いて来る。
見ようによっては、ふら付いているような覚束なさ。

「アレック、それは寝ているのと同じじゃないかな? それに随分と眠たそうだ。寝起きかな?」
「意識はちゃんとあった。」
「そういう問題じゃないだろうが。……ぼくが使うベッドだぞ?」
「だから?」


アレックはぼくからの抗議を意に介する様子も無く、アンディの元へと近付いた。
さっき自ら「気持ち悪い」と評した彼の元へ、だ。

「アンドリュー。いい加減、気持ち悪いのを止めろ。少し手伝ってやるから……立て。」

アンディのすぐ隣で足を止め、見下ろしてそう告げるアレック。


何の事を言っているのか、ぼくにはさっぱり分からない。
表情の窺えないアンディも小首を傾げて、アレックを見上げた状態で動けないでいる。

「何度も言わせるな。立て!」

アレックに声を荒げられたアンディは、慌てて立ち上がる。


「アレック。だから、もう少し言い方を…」
「アドルはこの姿を見てどう思う?」

ぼくを遮ってアレックは、隣に立たせたアンディを指し示す。

「どう、と言われても……。」

意図が分からなくてぼくは困惑する。


アンディの衣服は、ワンピースと膝丈のキュロット。
強いて何か特徴や共通点を挙げるとすれば、裾を始め、どこもゆったりとした印象を受けるという事ぐらいだ。



「アンディのこの姿の意味が、分からないのか?」


えぇ……? また質問というか、クイズなの?
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