53 / 101
本編●主人公、獲物を物色する
ぼくに訊かないで
しおりを挟む
アンディからの、……もし日本で会社の同僚にこんな事を尋ねたら、間違いなくセクハラだと訴えられて上司に呼ばれる事ような問い掛けに、ぼくはどう答えるべきか。真剣に考えていた。
ぼくがアレックとセックスをしたかどうか。
事実は単純だ。
ぼくとアレックは、最後まではしていない。
だが、その質問をしたアンディは王子殿下。
友人の性交渉に興味津々な高校生じゃない。
高度な政治的駆け引きをされているのでは。
それを思うと、なかなか正直には答え難い。
実際にぼくとアレックが、していようがいまいが関係無いだろう。
要はそれを、ぼくが認めるかどうかだ。
高貴な方々の言う『友達』が性交渉を伴う付き合いをする相手だという、そんな戯れ言は、ソースがアレックの言葉しか無いんだから今は置いておく。
だがそれを抜きにしても、ぼくがアレックとの性的な関係を肯定するとなれば。
それはぼくが……主神サトゥルーと同じタイプである『格好良い』の奇跡ランクなぼくが、側妃様の息子であるアレックとの仲を囁かれる事を受け入れるという意思表明になる。
王妃様の息子であるアンディとしては気になる所なんだろう。
もしかすると王妃様から、その辺りの様子を探って来るように言われているのかも知れないね。
散々警戒して、ぼくは。そっと先延ばし、あるいは有耶無耶にしてしまおうと考えた。
「そんな事が、アンディは気になるの? 本当に?」
「……はい。気に、なります。」
にこやかに窺ってみれば、アンディは意外にはっきりと聞きたがった。
どうしよう。何か別な話で誤魔化せないだろうか。
下手な答えをしたらまた母に叱られそうだ。
あぁ面倒臭い感じになっちゃったな。
こんな事になるなら、大人しくベッドで惰眠でも貪っていれば良かった。
ぼくは賢明なキャラじゃないんだよ。
もう……喋っちゃうよ?
また何か宜しくない展開になっちゃったら、母さん、ご免なさい。
「やっぱり、そうなんですか……。」
考え事をしている時間が長かったかも知れない。
ぼくの沈黙を肯定だと受け取ったアンディが小さく呟く。
「せっかくアンディとお話出来るのに、その内容がアレックの事かぁ。そんな話を……アンディはしに来たのかい?」
「……っ! そ、それは……!」
ぼくの言葉にアンディが大仰にも思える程、動揺した。
ぷるんと色っぽい唇が細かく震えている。
ぼくより一つ年下なのにけしからん……と、呑気に見詰めていると。
不意に、扉が開く音。
「もぉ~。……いつまでやってるんだ。」
アレックが。寝室から出て来た。
さっきのような激しい感情の昂ぶりは感じさせないが。
両目蓋は少々眠そうに垂れ掛けており、口元から零れ落ちる吐息と、非常に危ういコラボで『エロエロしい』の高ランクを見せ付けている。
開いた扉に、気怠そうに背中を預ける仕草。
アドル的なぼくは違うものを感じてしまいそうだ。
なのにサトル的なボクが。
「アレック? まさか、寝ていたのか? ぼくが使うはずのベッドで?」
「……まさか。ちょっと横になって目を瞑ってただけだ。」
いけしゃあしゃあと言い放って、アレックがゆっくりとした足取りで歩いて来る。
見ようによっては、ふら付いているような覚束なさ。
「アレック、それは寝ているのと同じじゃないかな? それに随分と眠たそうだ。寝起きかな?」
「意識はちゃんとあった。」
「そういう問題じゃないだろうが。……ぼくが使うベッドだぞ?」
「だから?」
アレックはぼくからの抗議を意に介する様子も無く、アンディの元へと近付いた。
さっき自ら「気持ち悪い」と評した彼の元へ、だ。
「アンドリュー。いい加減、気持ち悪いのを止めろ。少し手伝ってやるから……立て。」
アンディのすぐ隣で足を止め、見下ろしてそう告げるアレック。
何の事を言っているのか、ぼくにはさっぱり分からない。
表情の窺えないアンディも小首を傾げて、アレックを見上げた状態で動けないでいる。
「何度も言わせるな。立て!」
アレックに声を荒げられたアンディは、慌てて立ち上がる。
「アレック。だから、もう少し言い方を…」
「アドルはこの姿を見てどう思う?」
ぼくを遮ってアレックは、隣に立たせたアンディを指し示す。
「どう、と言われても……。」
意図が分からなくてぼくは困惑する。
アンディの衣服は、ワンピースと膝丈のキュロット。
強いて何か特徴や共通点を挙げるとすれば、裾を始め、どこもゆったりとした印象を受けるという事ぐらいだ。
「アンディのこの姿の意味が、分からないのか?」
えぇ……? また質問というか、クイズなの?
ぼくがアレックとセックスをしたかどうか。
事実は単純だ。
ぼくとアレックは、最後まではしていない。
だが、その質問をしたアンディは王子殿下。
友人の性交渉に興味津々な高校生じゃない。
高度な政治的駆け引きをされているのでは。
それを思うと、なかなか正直には答え難い。
実際にぼくとアレックが、していようがいまいが関係無いだろう。
要はそれを、ぼくが認めるかどうかだ。
高貴な方々の言う『友達』が性交渉を伴う付き合いをする相手だという、そんな戯れ言は、ソースがアレックの言葉しか無いんだから今は置いておく。
だがそれを抜きにしても、ぼくがアレックとの性的な関係を肯定するとなれば。
それはぼくが……主神サトゥルーと同じタイプである『格好良い』の奇跡ランクなぼくが、側妃様の息子であるアレックとの仲を囁かれる事を受け入れるという意思表明になる。
王妃様の息子であるアンディとしては気になる所なんだろう。
もしかすると王妃様から、その辺りの様子を探って来るように言われているのかも知れないね。
散々警戒して、ぼくは。そっと先延ばし、あるいは有耶無耶にしてしまおうと考えた。
「そんな事が、アンディは気になるの? 本当に?」
「……はい。気に、なります。」
にこやかに窺ってみれば、アンディは意外にはっきりと聞きたがった。
どうしよう。何か別な話で誤魔化せないだろうか。
下手な答えをしたらまた母に叱られそうだ。
あぁ面倒臭い感じになっちゃったな。
こんな事になるなら、大人しくベッドで惰眠でも貪っていれば良かった。
ぼくは賢明なキャラじゃないんだよ。
もう……喋っちゃうよ?
また何か宜しくない展開になっちゃったら、母さん、ご免なさい。
「やっぱり、そうなんですか……。」
考え事をしている時間が長かったかも知れない。
ぼくの沈黙を肯定だと受け取ったアンディが小さく呟く。
「せっかくアンディとお話出来るのに、その内容がアレックの事かぁ。そんな話を……アンディはしに来たのかい?」
「……っ! そ、それは……!」
ぼくの言葉にアンディが大仰にも思える程、動揺した。
ぷるんと色っぽい唇が細かく震えている。
ぼくより一つ年下なのにけしからん……と、呑気に見詰めていると。
不意に、扉が開く音。
「もぉ~。……いつまでやってるんだ。」
アレックが。寝室から出て来た。
さっきのような激しい感情の昂ぶりは感じさせないが。
両目蓋は少々眠そうに垂れ掛けており、口元から零れ落ちる吐息と、非常に危ういコラボで『エロエロしい』の高ランクを見せ付けている。
開いた扉に、気怠そうに背中を預ける仕草。
アドル的なぼくは違うものを感じてしまいそうだ。
なのにサトル的なボクが。
「アレック? まさか、寝ていたのか? ぼくが使うはずのベッドで?」
「……まさか。ちょっと横になって目を瞑ってただけだ。」
いけしゃあしゃあと言い放って、アレックがゆっくりとした足取りで歩いて来る。
見ようによっては、ふら付いているような覚束なさ。
「アレック、それは寝ているのと同じじゃないかな? それに随分と眠たそうだ。寝起きかな?」
「意識はちゃんとあった。」
「そういう問題じゃないだろうが。……ぼくが使うベッドだぞ?」
「だから?」
アレックはぼくからの抗議を意に介する様子も無く、アンディの元へと近付いた。
さっき自ら「気持ち悪い」と評した彼の元へ、だ。
「アンドリュー。いい加減、気持ち悪いのを止めろ。少し手伝ってやるから……立て。」
アンディのすぐ隣で足を止め、見下ろしてそう告げるアレック。
何の事を言っているのか、ぼくにはさっぱり分からない。
表情の窺えないアンディも小首を傾げて、アレックを見上げた状態で動けないでいる。
「何度も言わせるな。立て!」
アレックに声を荒げられたアンディは、慌てて立ち上がる。
「アレック。だから、もう少し言い方を…」
「アドルはこの姿を見てどう思う?」
ぼくを遮ってアレックは、隣に立たせたアンディを指し示す。
「どう、と言われても……。」
意図が分からなくてぼくは困惑する。
アンディの衣服は、ワンピースと膝丈のキュロット。
強いて何か特徴や共通点を挙げるとすれば、裾を始め、どこもゆったりとした印象を受けるという事ぐらいだ。
「アンディのこの姿の意味が、分からないのか?」
えぇ……? また質問というか、クイズなの?
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。
同室の奴が俺好みだったので喰おうと思ったら逆に俺が喰われた…泣
彩ノ華
BL
高校から寮生活をすることになった主人公(チャラ男)が同室の子(めちゃ美人)を喰べようとしたら逆に喰われた話。
主人公は見た目チャラ男で中身陰キャ童貞。
とにかくはやく童貞卒業したい
ゲイではないけどこいつなら余裕で抱ける♡…ってなって手を出そうとします。
美人攻め×偽チャラ男受け
*←エロいのにはこれをつけます
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる