上 下
49 / 101
本編●主人公、獲物を物色する

ぼくは自分の失敗を取り戻す為に画策する

しおりを挟む
ぼくが待ちに待った、恐らくネコちゃんのアンドリュー王子。
室内に姿を現した彼は、お茶会の時には着けていなかったヴェールと……それだけでなく、額から鼻の下までを覆うタイプの仮面も装着して、年下なのに色っぽい顔を隠してしまっていた。

焦げ茶色の巻き毛を肩の上に垂らした髪型は変わらないが、着ている衣服も割とゆったりとしたワンピースタイプの物になっている。
襟ぐりがやや広めで、袖も大きく広がっているのが特徴的だ。布が二重になっており、内側の布地は膝上ぐらいの長さ。外側の生地はシルクシフォンのように透けており、脹脛の辺りまでふわりと広がって垂れている。
下衣は膝丈までの長さの、キュロットのように見える。これもやはり、かなり裾がゆったりと広がった印象だ。



「アンドリューです。アドルさん、お寛ぎの所を急にお邪魔して済みません。あの…」
「あぁもう、そんなに畏まらないで。それから、ぼくに『さん付け』は要らないから。ね?」

丁寧に挨拶をしようとするアンドリュー王子の言葉を、ぼくは切りの良い所で止めた。
これを放っておくと、彼はいつまでも丁寧でいようとするだろうし、そうなってはぼくが望んでいる親しさからは遠ざかってしまうから。


アンドリュー王子は、ぼくが対面側の席を勧めると、一瞬戸惑ったようにぼくとアレックとを交互に見た。
そして、無言のままじっとアレックを……ヴェールと仮面とで顔は見えないが、雰囲気から察するに……窺うようにしている。

アレックもまた、無言のまま。
だがこちらは、じろじろと相手の全身を上から下まで、明らかに眺め回している。


散々に視線をやっていたのに、不意にアレックの方から顔を逸らした。
まるでそれまでの興味を失ったかのように、アレックは優雅な『エロエロしい』の手付きで紅茶カップに、その指と瞳を向ける。
そうなってから初めてアンドリュー王子が動き出し、少々ぎこちない所作でアレックの隣に着席した。

ぼくはホクホク顔でアンドリュー王子に飲み物を用意するよう従者に伝えながら、内心では若干、首を傾げてしまった。



……今の一連のやり取りは何だろう?

部屋には先にアレックがいるという事は、アンドリュー王子にも伝わっているはずだと思うんだが、アレックの隣になるのが躊躇われるんだろうか。
顔面偏差値にかなりの格差があるとは言え、二人とも王子殿下じゃないか。母親が違うというのもあるが、寧ろそれであれば、アンドリュー王子の方が王妃様の息子というアドバンテージがある。
ならば、隣に座っても問題無いはずだし、そもそもこんな事は今更な……。あ。


ぼくは対面に並ぶ二人の王子の姿をまとめて目にして、自分の失敗……したかも知れない事に……はっとした。


彼等はもしかすると、横に並ぶ事自体が今まで無かったんじゃないか。
いや、そもそも……高ランクの隣にいるという事が、アンドリュー王子には辛い事なんじゃないか。

ぼくは……ぼくにとっては二人とも。偏差値に差はあるが、見ていて楽しめるぐらい美しく見えているから、気にもしていなかった。



それが……その推測が正しいかも知れないと表すように。
アンドリュー王子はヴェールさえ上げず、両手を太腿辺りにぎゅっと置いたまま、俯いて身体を強張らせているように見える。
その隣にいるアレックは、テーブルに肘を付いて、その上で頬杖を付き。声こそ洩れていないものの、今にもくすくすと笑い出しそうな気配を感じさせる。


どうしよう……。これは完全に、ぼくの失敗だ。
アンドリュー王子が普段感じているだろう外見に対する引け目を、全く考慮していなかった。



こんな状況では、彼がヴェールや仮面を外してくれる可能性は低い。

これを何とかする為には、可哀想だが、アレック。……キミには退室してもらうよ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

メテオライト

渡里あずま
BL
魔物討伐の為に訪れた森で、アルバは空から落下してきた黒髪の少年・遊星(ゆうせい)を受け止める。 異世界からの転生者だという彼との出会いが、強くなることだけを求めていたアルバに変化を与えていく。 ※重複投稿作品※

異世界転移? いいえ、純正品の神子ですが、塩対応はどうかと思います。

猫宮乾
BL
 社畜の僕は、時空の歪みの向こうに連れていかれた。そこは星庭の世界というらしい。てっきり異世界転移したのだと思っていたら、周囲が言う。「いえいえ、元々この世界からあちらに逃して秘匿していただけで、貴方は本物の神子様です!」※異世界ファンタジーBLです。

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

転生からの魔法失敗で、1000年後に転移かつ獣人逆ハーレムは盛りすぎだと思います!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 異世界転生をするものの、物語の様に分かりやすい活躍もなく、のんびりとスローライフを楽しんでいた主人公・マレーゼ。しかしある日、転移魔法を失敗してしまい、見知らぬ土地へと飛ばされてしまう。  全く知らない土地に慌てる彼女だったが、そこはかつて転生後に生きていた時代から1000年も後の世界であり、さらには自身が生きていた頃の文明は既に滅んでいるということを知る。  そして、実は転移魔法だけではなく、1000年後の世界で『嫁』として召喚された事実が判明し、召喚した相手たちと婚姻関係を結ぶこととなる。  人懐っこく明るい蛇獣人に、かつての文明に入れ込む兎獣人、なかなか心を開いてくれない狐獣人、そして本物の狼のような狼獣人。この時代では『モテない』と言われているらしい四人組は、マレーゼからしたらとてつもない美形たちだった。  1000年前に戻れないことを諦めつつも、1000年後のこの時代で新たに生きることを決めるマレーゼ。  異世界転生&転移に巻き込まれたマレーゼが、1000年後の世界でスローライフを送ります! 【この作品は逆ハーレムものとなっております。最終的に一人に絞られるのではなく、四人同時に結ばれますのでご注意ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...