38 / 101
本編●主人公、獲物を物色する
ぼくじゃあ駄目かな
しおりを挟む
「ねぇ、アレックって呼んでいい?」
ぼくの問い掛けに、アレック王子は一瞬、何を言われたのか分からないという表情をした。
それでもぼくがじっと見詰めて返答を待っていると、ぎこちなくだが確かに頷いた。
こんな状況でぼくの最初の発言が、まるでお茶会にでも参加しているような暢気なものだったから、気を殺がれたのかも知れない。
さっきまで自分を嬲っている男達を睨んでいたし、アリーと一緒に居たぼくに対しても助けを求めず、警戒しているようだったから、これはこれで良かった。
ぼくはアレックに一歩近付く。
慌てて少し離れようとしたアレックだが、かろうじて乱れを直した衣服の裾を自分で踏んでしまっており、殆ど居場所を動かせなかった。
それに、緩い下衣だから良かったものの、布の上からでも彼自身はまだ反応を示しているようだ。
これでは元気良く歩き出す事は難しいに違いない。
「……つらい?」
何が、とは示さずに聞いた。
「……少し、だけ。」
視線を落としてアレックは答えた。
ぼくは座っているアレックの横に膝を付いて、彼を見下ろす。
近い位置にいるが触れはしない。
「ぼくに何か、手伝える事はある?」
「……! お、お前……っ!」
カッとなったアレックが声を荒げた。悔しそうにぼくを睨む。
「お前も結局、さっきの者達と同じじゃないか! いや! 助ける振りをした分、余計に悪い!」
「同じだなんて酷いなぁ。ぼくはちゃんと、アレックの意思を確認しているじゃあないか。」
さっき男二人がアレックを弄っているのを見た時は、ぼくは確かに怒りを感じていたようだ。
奴等が二人掛かりでレイプしようとしていたからじゃない。
他人の身体を弄って興奮して楽しんでいる癖に、助けてやっていると恩を着せる事すら通り越して、『エロエロしい』というタイプそのものを格下に見ているのが気に入らなかったんだ。
今こうして考えてみると、ぼくらしくもない激しい感情だったかも。
あれはたぶん、世野悟な考え方だろう。
アレックはぼくに助けられたと、思ってくれていたらしい。
だが、ぼくが助けたからと言って、アレックの『エロエロしい』を見てぼくが何とも思わないかと言えば、それとこれとは話が別なわけだよ。
機会があれば是非、とは……ぼくも考えはするよ。考えるぐらいは。
「そんな風に言って……どうせ俺が断った所で、目が誘ってるとか、恥ずかしがってるとか言うんだろ! 口先だけで聞く振りをしてるくせに……。」
「そんな事は無いよ。聞く振りをするぐらいなら、そもそも聞かない。……ぼくは、ね。」
「じゃあ、お断りだ!」
「そうか……残念だ。」
肩を竦めて、ぼくはアレックの隣に腰を下ろした。
地面に直座りするなんで、恐らくアドルの記憶には無い所業だった。
案外、固いだけでどうという事の無い感触だな。だが長時間は辛そうだ。
彼に触る事も無く、横に座ったぼくを、アレックは注意深く窺うように視線を向けていた。
もちろん無言のままでだ。
本当はすぐにでも側妃様の所に連れて行ってやるのが良いんだろうが、つい今さっきまで身体を弄られていたんだから、移動を急かすのも酷だろう。
先に戻ったアリーから、アレックが見付かった話が伝わっているかも知れない。
向こうが急いでアレックを保護したいんなら、誰か迎えを寄越すはずだ。
ぼくとしては別に、何時までと時間を決められたわけでも無いんだから、しばらく様子を見てもいい。
無言のままというのは面白味に欠けるが、ただ眺めているだけでもアレックは『エロエロしい』の高ランクだから、こうしている時間も全くの無駄じゃあない。
見られる事に慣れているのか、顔面に自信があるからか、アレックは、自分を眺め回しているぼくから視線を逸らす事は無かった。
「お前……何故さっき、あんな事を言った?」
やがて呟いたアレックの声からは、怒りは抜けており、はっきり言えば呆れているようだ。
何故だか唇をやや尖らせて、アレックは膝を抱えている。
「そうやって何もする気が無いのに……あ、あんな風に言ったら、俺が怒るに決まってるだろう。」
「簡単な理由だよ。アレックが魅力的だからだ。でも断られたから何もしない。」
「……俺は、本当に嫌だから。あの男達にも抵抗してたんだぞ。」
「それは知っている。……だが。相手が違えば、同じ事でも反応が違う……という事も、よくある話だ。」
ぼくは言いながら、思わずにやけてしまった。
呆れたように話しながらも、アレックの頬が徐々に赤らんでいたからだ。
「彼等とぼくは違う。低ランクに奉仕されるのはお断りだが、高ランク以上なら構わないと……そう感じる事もあるだろうと思ったんだが。」
「それは、まぁ……確かに。」
思い当たる節があるんだろう。
アレックの目が何かを思い出すように、少しだけ泳いだ。
「アレックにそんな気がないんなら、ぼくは無理強いはしない。……身体が落ち着くまで、少しお喋りでもしていようか?」
身体が、という部分で。
アレックははっきりと赤面した。
ぼくの問い掛けに、アレック王子は一瞬、何を言われたのか分からないという表情をした。
それでもぼくがじっと見詰めて返答を待っていると、ぎこちなくだが確かに頷いた。
こんな状況でぼくの最初の発言が、まるでお茶会にでも参加しているような暢気なものだったから、気を殺がれたのかも知れない。
さっきまで自分を嬲っている男達を睨んでいたし、アリーと一緒に居たぼくに対しても助けを求めず、警戒しているようだったから、これはこれで良かった。
ぼくはアレックに一歩近付く。
慌てて少し離れようとしたアレックだが、かろうじて乱れを直した衣服の裾を自分で踏んでしまっており、殆ど居場所を動かせなかった。
それに、緩い下衣だから良かったものの、布の上からでも彼自身はまだ反応を示しているようだ。
これでは元気良く歩き出す事は難しいに違いない。
「……つらい?」
何が、とは示さずに聞いた。
「……少し、だけ。」
視線を落としてアレックは答えた。
ぼくは座っているアレックの横に膝を付いて、彼を見下ろす。
近い位置にいるが触れはしない。
「ぼくに何か、手伝える事はある?」
「……! お、お前……っ!」
カッとなったアレックが声を荒げた。悔しそうにぼくを睨む。
「お前も結局、さっきの者達と同じじゃないか! いや! 助ける振りをした分、余計に悪い!」
「同じだなんて酷いなぁ。ぼくはちゃんと、アレックの意思を確認しているじゃあないか。」
さっき男二人がアレックを弄っているのを見た時は、ぼくは確かに怒りを感じていたようだ。
奴等が二人掛かりでレイプしようとしていたからじゃない。
他人の身体を弄って興奮して楽しんでいる癖に、助けてやっていると恩を着せる事すら通り越して、『エロエロしい』というタイプそのものを格下に見ているのが気に入らなかったんだ。
今こうして考えてみると、ぼくらしくもない激しい感情だったかも。
あれはたぶん、世野悟な考え方だろう。
アレックはぼくに助けられたと、思ってくれていたらしい。
だが、ぼくが助けたからと言って、アレックの『エロエロしい』を見てぼくが何とも思わないかと言えば、それとこれとは話が別なわけだよ。
機会があれば是非、とは……ぼくも考えはするよ。考えるぐらいは。
「そんな風に言って……どうせ俺が断った所で、目が誘ってるとか、恥ずかしがってるとか言うんだろ! 口先だけで聞く振りをしてるくせに……。」
「そんな事は無いよ。聞く振りをするぐらいなら、そもそも聞かない。……ぼくは、ね。」
「じゃあ、お断りだ!」
「そうか……残念だ。」
肩を竦めて、ぼくはアレックの隣に腰を下ろした。
地面に直座りするなんで、恐らくアドルの記憶には無い所業だった。
案外、固いだけでどうという事の無い感触だな。だが長時間は辛そうだ。
彼に触る事も無く、横に座ったぼくを、アレックは注意深く窺うように視線を向けていた。
もちろん無言のままでだ。
本当はすぐにでも側妃様の所に連れて行ってやるのが良いんだろうが、つい今さっきまで身体を弄られていたんだから、移動を急かすのも酷だろう。
先に戻ったアリーから、アレックが見付かった話が伝わっているかも知れない。
向こうが急いでアレックを保護したいんなら、誰か迎えを寄越すはずだ。
ぼくとしては別に、何時までと時間を決められたわけでも無いんだから、しばらく様子を見てもいい。
無言のままというのは面白味に欠けるが、ただ眺めているだけでもアレックは『エロエロしい』の高ランクだから、こうしている時間も全くの無駄じゃあない。
見られる事に慣れているのか、顔面に自信があるからか、アレックは、自分を眺め回しているぼくから視線を逸らす事は無かった。
「お前……何故さっき、あんな事を言った?」
やがて呟いたアレックの声からは、怒りは抜けており、はっきり言えば呆れているようだ。
何故だか唇をやや尖らせて、アレックは膝を抱えている。
「そうやって何もする気が無いのに……あ、あんな風に言ったら、俺が怒るに決まってるだろう。」
「簡単な理由だよ。アレックが魅力的だからだ。でも断られたから何もしない。」
「……俺は、本当に嫌だから。あの男達にも抵抗してたんだぞ。」
「それは知っている。……だが。相手が違えば、同じ事でも反応が違う……という事も、よくある話だ。」
ぼくは言いながら、思わずにやけてしまった。
呆れたように話しながらも、アレックの頬が徐々に赤らんでいたからだ。
「彼等とぼくは違う。低ランクに奉仕されるのはお断りだが、高ランク以上なら構わないと……そう感じる事もあるだろうと思ったんだが。」
「それは、まぁ……確かに。」
思い当たる節があるんだろう。
アレックの目が何かを思い出すように、少しだけ泳いだ。
「アレックにそんな気がないんなら、ぼくは無理強いはしない。……身体が落ち着くまで、少しお喋りでもしていようか?」
身体が、という部分で。
アレックははっきりと赤面した。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。
同室の奴が俺好みだったので喰おうと思ったら逆に俺が喰われた…泣
彩ノ華
BL
高校から寮生活をすることになった主人公(チャラ男)が同室の子(めちゃ美人)を喰べようとしたら逆に喰われた話。
主人公は見た目チャラ男で中身陰キャ童貞。
とにかくはやく童貞卒業したい
ゲイではないけどこいつなら余裕で抱ける♡…ってなって手を出そうとします。
美人攻め×偽チャラ男受け
*←エロいのにはこれをつけます
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる